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異変は突然に

 共和国の建国記念日は盛大なお祭りが催され、その前日から前夜祭として様々なイベントが非公式ながら行われている。建国記念祭も運営もそれを黙認している。そのためほとんどの学校は授業を午前中までにしているか、補講日としている。

 そのため明日ほどではないが、建国記念日の前日から道は混んでいる。

「……にしても多すぎないか?」

 道には人、人、人の大混雑である。普通に前に進もうするだけでも人と肩はぶつかるし、なかなか進まない。

 アリシアやリズが苦労しているのなら、小柄なミオはそれ以上に大変である。

 ミオの視界には完全に人の壁しか映っておらず、しかも今日は文芸部の人たちから貰った大量のお菓子で両手が塞がっている。

 アリシアのあとを必死についていっていたのだが、人波にもまれ少しずつ距離が遠くなっていく。ついには人壁によってアリシアたちの背中すらも見えなくなってしまった。

 追いつかないと、と思うのだがミオの素の体力では人波に逆らうことは難しく、どんどんと流されていってしまう。

 人波に逆らおうとしているため頻繁に人とぶつかり、そしてぶつかってしまった人から舌打ちをされ、忌々し気に睨みつけられる。中にはわざと強めにぶつかってくる人すらもいた。

 ミオにとって完全に独りになってしまうことは初めてだった。共和国に来てからはもとより、帝国でも背中を預けられる仲間、三七が必ず近くにいた。

「……アリ……シア……」

 周囲には誰も知った人がいないことに心細さを感じる。

 必死に前に進めようとしていた足が道の真ん中で止まってしまう。ただでさえ人通りが多い道で足を止めてしまえば、それは波に呑まれることを意味し、翻弄され揉みくちゃにされる。貰ったお菓子を堕としてしまったが、拾う余裕なんてなかった。

 もうそれに抵抗するだけの気力は残っていなかった。アリシアたちが進んでいった方向と逆方向に、川に浮かぶ枯れ葉のように流されていく。

「ミオッ!」

 流れに身を任せていたら突然横から腕をつかまれ、人の川から引き上げられる。そのまま人が少ない路地裏まで引き込まれる。

(アリシア? ……ッ⁉ )

 一瞬アリシアが助けに来てくれたのかと思った。

 しかしミオの腕をつかんでいるのはアリシアではなく、黒髪で黒の軍服を身にまとったミオと同じくらいの背格好の少女であった。

「三七……どうして……?」

 あの時、死んだと思っていた三七がミオの目の前に現れた。

 もしかしたら三七も無事に共和国にたどり着いていたのかもしれない、そんな現実逃避に近い思いがミオの中に生まれた。しかしそれはすぐに打ち砕かれる。

「帝国に帰ろう、三〇(ミオ)」

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