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異変は突然に

 アリシアたちと別れたミオは部室棟にある文芸部の部室に来ていた。

 文芸部とはその名の通り文芸、つまりは小説や詩などの文字で表現された芸術を嗜んだり、自ら作ったりする部活である。

 しかしミオが来た部室にはそのような雰囲気はなく、お菓子を持ち寄ってだべっているだけであった。そしてそんなところにミオのような珍しいものが投入されれば、燃焼反応のように激しい化学反応を起こす。

 その日、部室棟全体「かわいい」という言葉が響き渡った。

 そんな激しめの反応に固まっていたミオは誘導されるがまま席についていた。

「ほら、これ美味しいよ」

「こっちも! はい、あーん」

「遠慮せずに食べていいからね」

「あ、ちょっとそれ私があげようとしてたのに!」

 そして餌付けされていた。

 ミオは少し食べず嫌いの気があり、普段からアリシアの手で半強制的に食べさせられていた。それが癖になってしまったのか、ミオは口の前に食べ物を持ってこられると条件反射的に口にしてしまう。

 そんなミオの姿に母性本能か何かを刺激されたアリスたちは、次々とお菓子をミオに食べさせていた。それを律義に全部食べて、さらに「おいし!」と反応する。そしてその反応をもう一度見たい部員たちによって餌付けされるという無限のサイクルが出来上がっていた。

 ただ、ここにあるお菓子は大半がスコーンやクッキーなどであり、口の中の水分がどんどんと失われていく。

 しかし、こんなことも見越していたのかアリスによって部室に来る前に、ミオは飲み物を買ってもらっていた。黒い缶にパイプを咥えたおじさんが印字されたブラックコーヒーである。しかしミオはここで一つの失敗をしていた。

「にがッ」

「やっぱりこうなったか」

 アリシアがよく飲んでいるという理由だけで選んだミオであったが、その実これがどういう飲み物なのかを知らなかったのだ。

「はい、私のあげる」

 ミオがコーヒー独特の苦みに悶えている間に、アリスによって取り上げられ、かわりにアリスのオレンジジュースと交換された。そしてミオは苦みから逃れるためにそれを口にして、アリスも何も考えずコーヒーを飲んだ。

「「「ずるい」」」

 突然部員全員からの大バッシングである。

「私もミオちゃんと間接キスしたかった!」

 女子が三人集まれば姦しいとは言うけれど、それが五人六人……それ以上ともなればそれなりの賑わいをみせる。それこそうるさすぎて近くの部活から苦情が来るほどには。

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