異変は突然に
その次の日にはミオの熱も下がり、完全復調を果たした。
「ミオ、よかった。本当によかったよ」
なぜかアリシアに抱き着かれ、異様なまでに心配されて少し困惑気味である。
「いっとき好きにさせてやれ。ただの風邪だってのに、そうとう心配してたんだからな」
ミオは誰かに心配されるというのは初めての経験だった。帝国にいたころはみんな生きることに精いっぱいで、他の誰かに気を回す余裕なんてなかった。
「ありがと……あ、アリシア」
感謝を伝えるためにも初めてアリシアの名前を口にしたが、これはかなり恥ずかしくプイっと顔を背けてしまう。
「え……ミオ、私の名前……」
アリシアは感極まったように、泣きながらさらにミオの体を抱きしめてくる。そんなにも名前を呼ばれることがアリシアにとって、うれしいことだと思っていなかったミオからすれば驚きの反応である。
「じゃあ今日は私が朝ごはん作ってあげる」
語尾に音符がついていそうなほど甘ったるい声でアリシアが宣言するが、リズは大いに慌てた。
「おい待てアリシア、思い直せ! お前の料理は病み上がりに食わせるには刺激が強すぎる‼ 」
「大丈夫、今日はちゃんと美味しく作れそうな気がする」
「それは大丈夫とは言わねぇえええええ!」
なぜリズがアリシアの料理を阻止しようとしているのかミオには分からないが、その温かく楽し気な二人にクスリと笑った。
しかし、そんな暖かな雰囲気は一本の電話で崩れ去った。
「補修、か」
「すっかり忘れてたわね」
二人が遠い目をしている。
この二人は戦争に協力することを高校側が考慮して、受けられなかった授業分の補修が組まれていたのだ。それを忘れていたらしい。
「でも学校に行くのはいいけど、こいつはどうすんだ?」
「……連れて行っちゃう?」
「いや、ダメだろ。部外者を許可もなしに敷地内にいれるのは」
「じゃ、ルプスさん経由で許可とってもらお」
そう言うとミオはそそくさとスマホを取り出し、リズが止める間もなく電話をかけた。
「許可とってくれるって。あと、なんか情勢がきな臭いから身の回りを気をつけろってさ」
「なんだそれ? 不審者でも出没してんのか?」
何はともあれミオもいっしょに学校に行けることになった。




