共和国での生活
アリシアを見送ったあと、ミオはリズと二人きりになった。ただアリシアがいなくなってからはリズの柔和な笑みは鳴りを潜め、不機嫌そうな表情となっていた。そのため二人の間に会話はなく黙々と歩みを進めていた。
ミオは足早に歩くリズの後ろをついていっていたのだが、アリシアの家に向かう方向と違うことに気付いた。
だがそのことを不思議に思うだけで、ミオはそれ以上のアクションを起こすことなくついていく。
街中から外れ周囲の建物がなくなり始めた。そしてそれも田んぼも建物も何もない、ただの開けた場所に出たとき、リズは足を止めた。
「お前、さっきあいつのこと本気で殺そうとしてただろ?」
「え……?」
ミオには質問の意図が分からない。だってそれは当然のことだろう。
「敵だから、殺すよ」
その答えにリズは不愉快そうに顔を歪める。しかしミオはなぜそこまでリズが不機嫌になっているのか理解できない。
「人は殺しちゃダメって習わなかったのか?」
「……そうなの?」
「は?」
リズは絶句した。
あまりにも純粋にミオがこのことに関して疑問を返してきた。リズはまだミオの本質を理解していなかったのだ。
「敵は殺せ。動けない道具は処分しろ(殺せ)。そう帝国で教わったよ」
ミオは生まれたときから兵器として育てられた。だから一般的な倫理観などは教わっていない。敵を殺す術のみを頭に、身体に教え込まれた。
「人は誰であれ、どんなに嫌なやつでも、殺しちゃダメなんだ。これがあたしら人が人であるための、絶対のルールなんだよ」
「わたしは兵器。だから人のルールを説かれても、困る」
まただ。また自らのことを兵器と形容すると、謎の違和感に襲われる。まるでミオ自身が兵器であるとこを認めたくないような、彼女たちのようになりたいと言っているような、そんな感じである。
「兵器ってなんだよ。お前は人、だろ?」
「…………」
ミオはその問いの答えを持ち合わせてはいない。もうミオ自身、自分が何なのか把握できていないのだから。
だからミオには黙り込む以外の選択肢がなかった。
「そんな悲しそうな顔をすんなよ……」
普段あまり変化しないミオの表情が少しばかり歪んでいた。しかしミオはそのことを認識していない。だからこそ、悲しそうといわれても困惑を返すことしかできない。
「分かった、あたしもお前のことを監視する。なんか目を離しっちまったら、壊れそうで危なっかしいからな」




