共和国での生活
ミオにはアリシアたちが何をしているのか理解できなかった。
今まで戦場では見たことがない、デタラメな能力の応酬。その衝撃はミオが経っているところまで届いている。
だがアリシアから「ここで待て」と指示を受けたのだ。この位置から動くわけにはいかない。
そんなこんなで遠目からボケーっとアリシアたちが戦っているのを眺めていたのだが、敵の少女が弾き飛ばされたのか、近くに飛んできた。
(なんか見られてる?)
周囲にはもうミオしか人はいない。みんな巻き込まれないように避難したか、安全な位置から遠巻きに野次馬している。
つまるところ少女の視界に入っているのはミオしかありえないということだ。
「逃げてッ」
「え?」
少女はミオの後ろへと回り込み、アリシアに対する人質とする。
「確かあんたこいつと一緒にいたよな? 攻撃できるもんならやってみやがれ、そん時はこいつも道連れだ!」
「あなた、どこまで罪を重ねるつもりなの?」
アリシアの言葉に少女は下唇を強く噛む。
「わたしはまだ終われねぇんだよ! だからさぁ、あと少し付き合ってくれや」
誰かが通報したのか遠くからパトカーのサイレンが聞こえ始める。
二人の戦闘で街にも少なからずの被害が出ている。
だが先ほどまで激しく繰り広げられていた攻防は、ミオが人質に取られてしまったせいで逆に水面のように静まり返っている。
(アリシア困ってる? どうして?)
どうしてアリシアが攻撃を止めてしまったのか、ミオには分からない。
しかしどうしてかは分からないが、明らかに自分に原因があるだけは分かる。
ならばどうするか?
「魔力展開」
「は――?」
ミオは魔力を解放する。防壁を張り、魔具を召喚する。
そして――
「戦闘開始」
眠れる猛獣が目を覚ます。
「ミオ、ダメ‼ 」
アリシアはミオが何をしようとしているのか気づき、制止しようとするが……もう遅い。ミオは兵器としての本領を発揮し、目の前の敵を倒すことのみに集中してしまっている。
魔力によって強化された身体能力をフルに発揮して、自分を羽交い絞めにしている敵を背負い投げの要領で投げ飛ばす。
「――がはッ」
敵が体勢を整える前にその首元に刃を突き立てようとするが、紙一重で避けられてしまう。
「ふざけんじゃねぇよ‼ 」
何の敵行もできない弱者だと思っていた相手からの、思わぬ反撃を喰らい完全に少女は頭に血を登らせている。
彼女は大きくハンマーを振りかぶり地面を叩こうとする。
「もう見た」
しかしミオは、ハンマーの鳴らす音によってデタラメが起きることを、少女がアリシアと戦っているのを見て学んでいた。
敵の動きは素人のそれであり、アリシアほどのキレや緩急はない。それに加えミオは幾度の戦場を駆け抜けてきた歴戦の雄であり、どれほどのデタラメを持っていようと素人に遅れをとるほど甘くはない。
ミオは敵のハンマーを剣で受けるのではなく、敵の手首をつかむことで音を鳴らすことなくハンマーを止めて見せた。
「これで終わり」
肉薄したことによって敵のハンマーではリーチが長すぎて攻撃できないが、こちらからは一方的に攻撃することができるようになった。
無防備となった敵に刃を突き立てる。
アリシアとの戦闘でボロボロになっていた霊装は、少しの抵抗があったのち、バターのように斬れて、刃が生身に潜り込む。
しかし一撃必殺のため心臓を狙っていたのだが、敵が逃れようと暴れたため目標がそれてしまい、肩を差し貫く程度になってしまった。
しかし、この程度の失敗をリカバリーできるだけの経験がミオにはある。
敵につけた傷を大きくするために、刃を横に倒し振り抜こうとする。




