共和国での生活
しかし少女はいかなる魔法でか、氷の檻の中から靄のように消えてしまう。だが同時に足元の沼のように変化していた地面も元通りになっていた。
「やっぱり」
街灯の上に立つ少女に目を向ける。
「あなたの魔法は幻覚系ね」
少女は戦闘が始まってから一歩も動いてはいなかった。
「でも、それならなんで私が幻覚に囚われている間に逃げなかったの?」
「こっちにも事情があんだよ。それにどんな魔法が分かったって、どうしようもねぇだろ!」
再び少女はハンマーを叩きつけようとする。しかし、それは叶わない。
アリシアは大剣に氷を纏わせることで無理やりリーチを延長し、少女が乗っている街灯を半ばから両断する。
街灯から落ちたことで体勢を崩した少女に、アリシアは地面を滑るように接近する。
大剣とハンマーが交差して、再びピコンッという音が鳴り幻覚が展開される。そのせいで少女の位置を見失う。
「甘く見るなッ」
アリシアは地面に大剣を突き立てる。
「吹けよ吹雪けよ、万物裁断する絶死の風よ《吹き荒れし氷刃》」
アリシアを中心に氷の刃が風に翻弄される木の葉のように舞い踊る。
無防備に暴風圏に入れば、一秒と経つことなく細切れにされるだろう。
「ふざけんじゃねぇ‼ 」
姿は見えないが、苦しそうに喚く声が風の音に紛れて聞こえてくる。
しかし無傷の霊装を持っている魔法少女相手には、霊装の耐久力を削る程度の効果しか見込めない。
もちろんこのことはアリシアも承知の上である。
あくまでもアリシアの目的は、暴れている魔法少女の確保であって、殺害することではない。
やがて幻覚を維持することができなくなったのか、変化していたものが元通りになり、ピエロの少女を発見する。
少女は氷の刃を完全に防ぎきれなかったのか、霊装がボロボロになっていた。
「こんなことになるなんて、聞いてなねぇ……」
もう動く気力もないのか、アリシアが近づいていっても動く気配はない。だがその代わりに、なぜかアリシアではなく別の方向をずっと凝視している。
何を見ているのか気になり、アリシアもチラリとそちらの方を見る。
そこにはアリシアの言いつけを守り、別れたときから一歩も動かずに待ち続けるミオの姿が――




