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共和国での生活

 あらかたの買い物をすませ、日も暮れてきたこともあり帰路につくことになった。

 しかし二人の手に買った物の袋はない。

「配送サービスってやっぱり便利だよね」

 アリシアが買いまくったミオ用の服は、それこそ試着した服を全部買っているのではと疑いたくなるほどの量であった。配送サービスがなければ、両の手では持ちきれずどうやって持って帰るか難儀していたであろう。

「手、離して」

 それはともかくとして、アリシアはずっとミオの手をとって歩き続けている。

 別に嫌というわけではないが、どうにも利き手である右手を抑えられている状態に落ち着かない。

「だーめ。人がいっぱいで迷子になっちゃうよ。だから絶対にこの手は離さない……もう、絶対に」

 何か含みのある言い方が気になり、ミオがそのことをアリシアに聞こうとしたその時、街は突如として騒然となる。

「誰かそのひったくりを捕まえてくれ!」

 中年くらいの恰幅のいい男が、ミオたちと同じ年くらいの少女を追いかけている。一見すると、危ない光景に見えかねないが、男の叫んでいる言葉や表情から少女の方が加害者ということが分かる。

 近くにいた何人かの青年たちが、走って逃げている少女を取り押さえようと、その進路を塞ぐように立ちふさがる。

 しかし、その少女はただの少女ではなかった。

「霊装展開《霧幻》」

 そう彼女が叫ぶや否や、彼女の足元に魔法陣が展開され服が光となってほどけていく。その一瞬の後に光の繭が開き、ピエロのようなド派手な服に変わった少女が姿を現した。

「魔法少女⁉ 」

 進路を塞いでいた青年たちは慌てて道を開ける。そうしなければ自らの身に危険が及ぶからだ。

「あー、ミオ。ごめん、ちょっと待ってて」

 アリシアは青年たちと入れ替わりでその少女の前に立ちふさがる。

「そこの魔法少女! 止まりなさい!」

「死にたくなかったら、そこをどけぇ!」

 しかし少女はアリシアの言葉に聞く耳を持たない。

 アリシアは深くため息を吐き、意を決したように顔を上げる。

「霊装展開《氷帝》」

 氷の甲冑をその身にまとい、それと同時に少女目掛けて大剣を振り下ろす。

 完全なる命中コース。避けられるはずのないタイミングだった。

 だがしかし、大剣の刃が少女の脳天を勝ち割る寸前、少女の輪郭がぶれ、霞となって消えてしまう。

「ひゃー、あっぶね」

 その少女は街灯の上に立っていた。

 アリシアは油断なく剣を構える。

「ねえ、あなたも魔法少女なんでしょ。お願い見逃して、ね?」

 少女は悪びれもせず、ニヤニヤとした笑みを浮かべアリシアに見逃せと言う。しかしそんなことに応じるアリシアではない。

「私は保護機構所属の魔法少女です。あなたの行いは街の秩序を大いに乱しています。ただちに武装を解除して、こちらの誘導に従ってください!」

「チッ、政府の犬っころかよ」

 少女は心底面倒くさそうに吐き捨てた。

 しかし何か思いついたのか、楽しそうに口角を上げる。

「それなら少しの間……遊んでよ!」

 いつの間にか手にしていたおもちゃのようなハンマーを地面へと叩きつける。ピコーンッというコミカルな音と共に、地面が波打ち沼のように変化する。

「――なッ」

 とっさに地面に剣を突き立て凍らせて足場を確保しようとするが、その氷すらも泥のようになってしまう。完全に沼に足が囚われてしまい、身動きが取れなくなる。

「この上なくやっかいな魔法ね」

 そうアリシアが悪態をつくと、ピエロの少女はさも楽しそうに笑う。

「どう、わたしの魔法は? 楽しんでる?」

 絶対的優位の立場にあるためか、彼女は無防備にアリシアに近づき煽り立てる。

 だがアリシアはその程度で心を乱したりはしない。

「相手の魔法が分からないのに近づいてきてくれるなんて……あなた素人ね」

「へ……?」

 彼女は身の危険を察知して、急いで逃げようとする。

 だがしかし、もう遅い。アリシアはすでに氷の結晶を生成している。

「凍てつき捕らえよッ《氷獄》」

 少女を包みこむように氷の柱が伸びていく。そして完全に氷の檻に少女は囚われる、かのように思われた。

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