共和国での生活
特段、自分の姿を初めて見たというわけではない。軍服以外の服を着ている自分の姿に違和感を覚えてしまうのだ。
「わたしは……兵器、なのに……」
鏡に映る自分の姿は、どこかの国のお姫様のようなドレスを着ていて、しかしミオという素材自体が服に負けることなく、ある種完成された美を感じさせる。
十人の男がいれば、その過半数は振り返るであろう。しかしミオにとっては兵器を無理やり華やかに飾り立てたような、歪で醜悪な姿にしか映らなかった。
「もういい? だめって言っても開けるよ!」
自己嫌悪に陥っていると、急に試着室のカーテンが開かれる。
「うんうん似合ってる。とってもかわいい!」
毎回だ。アリシアは新しい服を着るたび毎回のように「かわいい」と言ってくる。こんな姿のどこがかわいいというのか。
「…………」
「もしかして疲れちゃった? 時間もいい感じだしお昼食べに行こっか」
朝から時間にして三時間にも及ぶアリシア主催のファッションショーは幕を閉じた。
さすがのアリシアもやりすぎたという自覚があるのか、申し訳なさそうな顔をしている。
「あ、着替えなくていいよ!」
ミオは家から着てきていた簡素なワンピースに着替えようとするが、なぜかアリシアに止められる。
「すみませーん。この服着ていきたいんで、値札切ってもらっていいですか?」
「――え?」
アリシアが何を言っているのか理解できない。どうしてこのような醜悪な姿のまま連れまわされなければいけないのか。
そんなことをしてしまえば自分のみならずアリシアも白い目で見られることだろう。
だがアリシアが決めてしまった以上、ミオに反対する権利などあるはずもない。
「ほら、行くよ?」
アリシアはミオの手をつなぎ歩き始めた。
やはりというべきか試着室から出たミオは注目の的となった。
(やっぱり……見られてる)
その視線には好奇の眼差しも含まれてはいるが、その大半は羨望や憧れといった暖かな視線であった。
(……なんで)
しかしミオは不気味でたまらなかった。
自認識では醜悪な姿であるのに、どうして周囲の人々がそのような視線を向けてくるのか分からない。
「どうかしたの?」
意味の分からない視線に囲まれていることに恐怖を覚え、無意識のうちにアリシアの手を強く握りしめていた。
ミオの様子がおかしいことに気付いたアリシアは、ミオと視線を合わせるように膝を曲げ顔を覗き込む。
「人に酔ったのかな」
青い顔になっているミオを心配して、近くのベンチまで誘導し座らせる。
「…………ない」
「ん?」
「なんで誰も、敵意も害意も向けてこないのか……分からない」
ミオにとって他人から向けられる視線や感情というものは、同胞を除いて、悪意・敵意・害意が当たり前であった。それゆえこれらと違う感情を不特定多数から向けられている現状に言いようのない不気味さを感じてしまう。
「その必要がないからだよ」
「必要が……ない?」
「だって今のあなたはどこからどう見ても普通の女の子だよ。そんな子に意味もなく敵意を向ける人なんて共和国にはめったにいないよ」
アリシアは何気なしに言ったであろう「普通の女の子」という言葉に、ミオは顔を歪めた。
「わたしは帝国の兵器、魔法少女ナンバー三〇……だから、普通の女の子なんかじゃ……ない」
自分のことをただ口に出して言っただけなのに、なぜか違和感を感じる。しかし、そんなはずはない、とその違和感に無理やり蓋をして考えないようにした。
「今はまだそれでいいけど、ゆっくりでいいから変わっていこ」
その後、ミオが落ち着いたのを確認して、ゴスロリドレスから動きやすそうなTシャツとショートパンツに着替えさせた。




