共和国での生活
「ほら、こっちこっち」
アリシアに手を引かれながら、マンションの一室に入っていく。
廊下をアリシアに引かれるがままに奥に進んでいくと二つの扉が見えてきた。その片方をアリシアが開き、入るよう促してくる。
「こっちの部屋を使っていいから」
その部屋は白を基調としたデザインの壁紙やインテリアで飾られ、壁際にはベッドや本棚などが置いてある。
ただ一つ気になるのは、扉にかかっていたプレートにAlisia`s roomと書かれていたことだ。それをアリシアが扉を開ける前に外していた。
そのことについて聞こうと思ったのだが――
「それじゃあ、おやすみ」
そうい言い残すとアリシアはこの部屋の反対側にある、もう一つの部屋にいそいそと入ってしまった。
一人取り残されたミオは困惑していた。
「え……?」
ミオはアリシアがずっと張り付いて、自分の監視をするものだと思っていた。
曲がりなりにもミオは現在共和国と戦争中である帝国の兵器である。いきなり暴れ出すとかは考えないのだろうか。
だがいくら考えたところで、今この部屋にミオが一人にされていることに変わりはない。恐らくあのデタラメな力があるから、どうなろうと制圧できると考えているのだろうとミオは結論付けた。
ミオとしても命令がないためそういう事態になるようなことをする気はさらさらない。
「……これから、どうしたらいいんだろ」
部屋の隅で膝を抱えながらミオは独り言ちる。
「『自由』ってなんだろ?」
ルプスに何度も『自由』とは何かと説明を求めたのだが、ことごとく「自分で考えろ」と答えを教えてくれなかった。
自由にしていいといわれても、内容があまりに抽象的すぎてミオには何をやればいいのか全く分からない。
ふと思い立って窓から空を見上げる。背の高い建物が多いため多少見づらくはあるが、そこには帝国で見ていたものと変わらない一面の星空が広がっている。
「戦場じゃなくても見える」
以前なら考えられないことだ。戦場以外では窓のない狭い部屋から出ることができなかった。
たった一日で帝国との違いを様々目にしてきた。
共和国では魔法少女を一人の人間として扱っているらしい。だからこんな立派な部屋に住むことができるし、自由に飲食することができる。
これ以外にも色々と違いを見せつけられてきた。
ただ、ミオにとっては違和感と拒絶感を感じさせるものでしかない。
「わたしは兵器。それ以下でも、それ以上でもない」
帝国でそのように教え込まれ、ミオ自身も兵器であると自分を認識している。
共和国の考え方を押し付けられるのは、ミオからすればこれまで培ってきた『自分』を否定されているように感じてしまう。
ミオはおもむろに手を空に向かって精いっぱい伸ばす。
以前、先輩の魔法少女に聞いた話がある。
『星を手にすれば、願い事が叶う』
叶えたい願い事が特段思いつくわけではないが、その話を聞いて以来空を見れるときはこうして手を伸ばしてみるようになった。
遠く遠く、必死に手を伸ばして――カチャンという金属がこすれる音がして、その手が止まる。あと少しで届きそうなのに、目には見えない鎖によってその手は止められてしまう。
そのたびに自分が兵器であり、何かを願う資格がないことを強く実感する。これをすることで自分が何者であるかを再確認できる。
「うん、わたしは……兵器だ」
そのまま部屋の片隅で膝を抱え目を閉じる。




