共和国での生活
「どうしたの? 食べないの?」
アリシアが心配そうに顔を覗き込んでくる。
保護機構からの帰り道で夕ご飯を食べてから帰ろう、ということになり適当な飲食店に入った。この時は配給以外でもごはんが食べられるのかと驚いていたミオだったが……
「これが……ごはん?」
目の前に置かれているのは、銀紙に包まれたレーションではなく、香ばしい匂いを放つ茶色い塊と緑色の葉っぱである。
(共和国人ってこんなの食べてるの……?)
どこをどう見ても食べ物とは思えない。だがアリシアも同じものを注文し、実際にこれを食している。
「……もしかしてハンバーグ、嫌いだった?」
好きか嫌いかと問われてもミオには答えようがない。
今までミオにとって食事とは、配給されるものをただ機械的に口に入れるだけの作業であるからだ。それに配給されるレーションも毎日同じもので、これ以外のものは食べたことがない。
そのことを素直に伝えると、アリシアはおもむろに自分の皿のハンバーグを一口大に切り分けた。
「はい、あーん」
という掛け声と共に、フォークに刺したハンバーグを口の中に放り込まれた。
「……!」
口の中で未知が爆発した。
噛めば噛むほど溢れ出す肉汁と程よく効いたスパイスの塩味が口の中を無秩序に暴れ回る。だがトマトソースの酸味により引き締められ、それぞれの素材の味がうまみへと昇華されている。
「ふふっ、おいしいでしょ」
「……うん」
今まで食べていた味が全くしないレーションとは雲泥の差である。
もっと食べたいと思い、自分の皿のハンバーグにミオは、文字通りフォークも何も使わず直接ハンバーグに手を伸ばした。
「あ、ちょっと――」
アリシアが直前で気づき制止しようとしたが、間に合わずハンバーグをつかんだ。もちろん出来立ての熱々である。
「……ッ⁉ 」
熱くないわけがない。
幸いにも指先が少し触れただけで火傷もせず、ミオにもハンバーグにも何事もなく済んだ。
「ちゃんとフォークとナイフを使わないと行儀が悪いよ」
そう注意されてしまい、見よう見まねで使ってみるがなかなかうまくできない。
今までが戦場でもすぐに食べられるよう開発されたレーションしか食べたことがないミオは、フォークやナイフといった食器を使ったことがない。
必死にアリシアの使い方を見て学習しようとしているのだが、いざ実践すると指先が思うように動かず綺麗に持つことができない。
だから最終的にグーで握っているのだが、思うように刺したり切ったりができない。
「ほら、貸して」
それでもカチャカチャと必死にやっていると、アリシアがなかなかできないミオに見かねたのか、すべて一口大に切ってくれた。
その後はつつがなく食事が進み、満腹になったところでアリシアの家に帰ることになった。




