共和国での生活
窓から見える景色は茜色に染まり、太陽が山脈の陰に隠れ始めていた。
アリシアとミオは何時間か前に帰したため、研究室に残っているのはルプスのみである。
彼は目頭をもみながら、帝国がある北の方角を難しいで見つめていた。むろん帝国が見えることはなく、メモ紙で覆いつくされた壁しか見えない。
だが、そうせずにはいられなかった。
「帝国は何を考えているんだ……」
ルプスは魔法少女保護機構では主任研究員であり、また所属する魔法少女の監督役も任されている。そのため魔法少女と直接会う機会が多く、また非行や犯罪を犯した魔法少女とも話すことがある。
その役割上様々な魔法少女と出会うことが多く、魔法少女に関する知識も一般人よりはるかに持っている。
そんな彼だからこそ分かることがある。
「あんな魔法少女でも、普通の子供でもない少女を戦争に利用するなんて……いや、それ以前にどうやったらあんな歪なものが出来上がるんだ」
戦場に出ていた魔法少女の報告が正しければ、帝国で魔法少女と呼ばれている少女たちは……
――魔法少女ではない。
どこまでも中途半端な存在である。
魔法少女とは、魔力を持っていることはもちろんのこと、魔法少女を守る無敵の鎧たる『霊装』と、最強の鉾たる『魔具』、そして魔法少女を魔法少女たらしめる最大の要素である『固有魔法』を持って初めて魔法少女と呼ばれる。
だが帝国の魔法少女には霊装も固有魔法も持っている者はいなかった。魔具に関してだけは二人ほど所有していたらしいが、その少女たちすらも持っていなかった。
魔法少女の魔装と固有魔法は、魔法少女となる少女の願望や理想の自分などといった個性を汲み取って生まれるとされている。
だが彼女たちは霊装に形を持たせることができず、固有魔法を発現させることもできない。
すなわち――
「彼女たちには何もない……空っぽだ」
仮説にすぎなかったが、実際にミオという帝国の魔法少女を目にすることで、それは確信に変わった。




