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共和国での生活

三〇は見知らぬ部屋で目覚めた。

 壁や床は建材がむき出しではなく、温かみを感じる木材に覆われている。窓からは程よく日光が差し、部屋全体を明るく照らしている。またどこからか、独特な薬品の臭いが漂っている。

 ここは病院の一室なのだが、三〇は見たことも利用したこともないため分からなかった。

 三〇は戦場に出れば雨が降ろうと雪が降ろうと、ずっと空の下で過ごしていた。それ以外では窓一つなく真っ暗で、冷たいコンクリートがむき出しの狭い空間を三七と二人で分け合っていた。

「ここ、どこ?」

 体を起こした際に気が付いたのだが、服装がボロボロにほつれた軍服ではなくなっていた。シンプルなデザインの貫頭衣のようなワンピースになっていた。

(まあ動きづらくないし、いっか)

 周囲を見回すと、少し離れた場所に扉を見つける。

 ここがどこなのかを確かめるために一度部屋から出た方がいいのだろうが、その選択を取ることはかなり難しい。三〇にとって部屋から出るときは、何かしらの命令があったときだけで、一度も自らの意思で外に出たことがない。

(でも出ないと分かんないし……)

 だが今、優先すべきことは現在地の把握である。

 あの兵士からの命令である共和国への到達は達成できたのかを確かめなければならない。

 そう決意を固めると三〇は寝かされていたベッドから足音を殺して降り、扉の前まで移動する。そして、ドアノブに手をかけ、回そうとしたが、

「――フギュッ⁉ 」

 三〇が手をかけると同時に扉が開き、強かに鼻を強打した。

 痛みにはそれなりに耐性のある三〇だが、いきなりの不意打ちに身構えることができず涙目になってしまう。

「あ、ごめん。起きてるとは思わなくて……」

 鼻を押さえながら元凶を見上げる。

 背中の中程まで伸びる長い金髪と、紫がかった深い赤色の瞳を持つ少女がそこにはいた。

「え――ッ」

 その少女は戦場で命の取り合いをした敵の魔法少女、アリシアである。

 半ば反射的に飛び退き、身構えてしまう。

 敵はまだ武装の展開をしていない今、絶好のチャンスである。先制を取るため防壁と刀を展開しようとして――右肩に激痛が走る。

 見れば清潔そうな白い包帯の内側から、赤い血が滲んでいた。少しでも動かそうとしたら、痛みと共に赤いシミが広がる。

 塞がりかけていた傷が開いてしまった。

「ほら、急に動くから」

 アリシアが無防備に近づいてくる。

 本来であれば隙を見せた敵など一瞬のうちに首を刈り取ることができる。だが今は痛みのせいで集中できず、戦闘態勢に入れないためできない。

 そのせいかあの無防備な姿も、こちらが抵抗できないことを知っていてわざと曝しているように思えてくる。

「じっとしてて、すぐ終わるから」

 ついに壁際まで追い詰められてもう逃げ場がない。

 アリシアは目と鼻の先にまで迫ってきて、死神の鎌のように思えてしまう彼女の手が三〇の体へと伸ばされる。

「これで応急措置は完了っと」

「……え?」

 彼女は右肩の包帯をほどき、少しきつめに巻きなおしただけで、それ以外は何もしてこなかった。

「……どうして……?」

 なぜ敵が目の前にいるというのに、敵意も害意も感じられない。それどころか消耗品である三〇の傷の手当をしてくれている。

 三〇には彼女の行動の意味が分からない。

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