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帝国の魔法少女

「逃げろ」

 だがしかし彼女たちは戸惑うばかりだ。

 普段と違う命令で、しかもどこに逃げればいいのか彼女たちは分からない。

「どこへ?」

 クロノは彼女たちが勝手に逃げて、自分は軍に残ろうと頭のどこかで考えていた。そうすれば自分に何もマイナスになるようなことはない。

 だが彼女たちはそんなクロノの心を見透かしたかのように問う。

「わたしたちはどこに逃げればいいの?」

 彼女たちに地名を教えたところで伝わらないし、たどりつけないだろう。つまるところ、本気で彼女たちを逃がそうと考えるなら、安全といえる場所まで案内しなければならい。

「…………いやだ、死にたくない」

 クロノがどうするかで迷い沈黙していると、とある少女が弱音を漏らす。

 彼はその場にいなかったから知らないが、彼女は七六の処分をした少女だった。

(両親には悪いが、やはり目の前で苦しんでいるこの娘たちを見捨てることはできない)

 彼女の一言でその一言でクロノの意思は決まった。

「俺についてこい」

 クロノは少女たちを引き連れ軍から出奔した。もう後戻りなどできない。

「君たちを共和国に連れていく。士官学校の教科書通りなら、あの国なら悪い扱いは受けないはずだ」

 クロノはなるべく急ぎたい様子だったのだが、日中の戦闘による疲労が抜けきらないままこの強行軍である。少女たちの足取りは重く、とてもじゃないがこれ以上のペースでは進めない。

 周囲は暗く、陣地の光はもう見えない。光源を持ってきていないため足元が見えず、何人かの少女は地面にダイブしている。

 もう陣地を出て数時間は歩き詰めであり、目に見えて少女たちが疲れているのが分かる。しかし休んでいる暇はない。いつ追っ手が来るか分からないのだ。

 だから少しでも距離を稼いでおきたかった。

 だが唐突に四方から強い光を浴びせられる。

 暗闇に慣れていた目は突然の光に調整が間に合わず、視界一面が真っ白に染まる。

「全員伏せろッ」

 直後、タタタッという掃射音がなり、悲鳴が木霊する。

 瞳が光に順応すると同時に、絶望の光景が広がる。

 銃座のついた装甲車と武装した兵士、血まみれになった少女たちの姿。

 そして装甲車の上から偉そうに見下ろしている軍曹。

「ぎゃはは、クロノご苦労だったな。処分のためのポイントまでゴミを誘導してくれて」

「な……なぜ……?」

「基地の近くでやると死臭で苦情が来るからなぁ。毎回遠くでやるようにしてんだよ」

 軍曹はさぞ愉快そうに嗤う。

「そうだ、お前にチャンスをくれてやる。このままではキサマは敵前逃亡の犯罪者だ。だがお前の手でゴミ始末をしたら敵前逃亡は見逃してやる」

「ふざけるなッ」

 彼は懐から拳銃を取り出し引き金に指をかける。だがそれよりも早く、クロノの方に銃弾が貫き、その衝撃で落としてしまう。

「そうか残念だ……じゃあ死ね」

 軍曹が手を振り下ろす。と同時にすべての銃口が光る。

「どこでもいい。とにかく走れッ!」

 クロノが言い終わると同時くらいに一斉射撃が始まる。

 少女たちは走ろうとするが、その前に銃弾によって息絶える。

「だめだ……ダメだッ」

 クロノは手近にいたまだ無事な少女を、その身を盾にしてかばう。無数の銃弾が体に喰いつき意識が遠のきそうになる。しかし手放すわけにはいかない。たった一人でも救わないといけないから。

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