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帝国の魔法少女

「ミーオーごはんもらってきたよ!」

 サナが銀紙に包まれた棒状のレーションを持ってきた。

「また空を見てたの?」

「うん」

 空を見るのは好きだ。それが夜空ならなおのこと好きだ。

 昼間太陽の光に縛られて輝けない星も、夜なら自由になることができる。

 自由に、どこまでも自由に輝いて、ときおり流れ落ちる星は空という枷からも逃れて自由に世界を回る。

 そしてこんな空を見ることができる戦場も好きだ。

「うーん、サナには何がいいか分かんない。確かに部屋では見れないけど、わざわざ見たいとは思わないなぁ」

 三七はザクッザクッと音を立てながらレーションを頬張る。

 そんなものか。と思いながら三〇も銀紙を破く。

 その時、テントから兵士が一人出てきたかと思うと、おもむろにこちらの方へ近寄ってくる。

「お願いだ、逃げてくれ」

「は?」

「え、何言ってんの?」

 三〇も三七も突然のことに困惑する。

 彼の口調は上から命令を下すものではなく懇願といえるものだった。

 兵士は普段、魔法少女に理不尽な命令を出すことはあっても、何かをお願いすることは絶対にありえない。

 しかもその内容は「逃げろ」である。

「このままじゃ君たちは憂さ晴らしのために処分されてしまう! だから……だからお願いだ。逃げてくれ……」

 三〇や三七の近くには他の魔法少女たちもいる。

 当然この話は聞こえていて、処分という言葉は一瞬で彼女たちの間を駆け巡った。

 沈黙ののち、悲鳴や泣き声が木霊する。

 だが誰一人として逃げようとする者はいない。

 彼女たちは待機命令が出されている。

 そして彼女たちは収容所にて、病的なまでに命令を遵守するよう教育が施されている。

 自らの命を守ること以上に、命令を履行することの方が最優先なのだ。

「あ、そうだ」

 三〇は思い出したかのように、封を切って握ったままのレーションに口をつける。

 初めて戦場に出たのならいざ知らず、一年以上戦い続けたら死すらも日常の一部となっている。

 今さら処分されるくらいで騒ぎ立てるようなことはしない。

「ねーミオ。いっしょにいこうね」

「ミオじゃない、三〇」

 失いたくないものなど生まれてこのかた持ち合わせたことなどない。

 いつ失ってもおかしくない命に未練を持つのも、あるとき無駄なことだと気付いたからやめた。

 魔法少女とは所詮は道具であり、いつ捨てるかは所有者が決める。

 道具は自分の意見を持つ必要はない。

「…………ッ」

 動揺すらもせず、いつもの日常のような調子で話し続ける二人を見て、彼は血が出るほど唇を噛む。

 彼も魔法少女を管理する側の人間である。

 どうすれば彼女たちが動くかは理解している。

「め、命令だ」

『命令』という単語が聞こえた途端、彼女たちは話すのをやめ雰囲気が変貌する。

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