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若将軍は旅がしたい!  作者: 高嶺の悪魔
第六章 影の呼び声

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馬蹄砦へ

 ヴェルダン卿に先導されながら、砦へと急ぐ。

 道中は先程の戦いで主人を失った馬を借りた。ラウルという名で、良く躾けられた賢い馬だった。

 ヴェルダン卿と並んで馬を走らせている俺の少し後ろでは、同じく馬に乗ったレティがラキアを乗せてついてくる。意外なことにレティは乗馬も巧みだった。

 いや、巧みというか。手綱も使わずに馬を走らせるのはもはや人間業じゃない気もするが。

 ラキアは乗馬の経験などなかったのでレティと相乗りしている。が、レティが邪魔だといって鞍を下ろしてしまったため、乗り心地は最悪だろうけど。


 目指すはローセオン領の中央部と南部を隔てる二つの山脈、西のアルマス山脈と東のロデオン山脈のちょうど中間に築かれた城塞、馬蹄砦だ。

 ロデオン山脈の東端、シノバ山の岩壁を背にして建てられた城塞で、二重の防壁によって囲まれており、上から見ると壁がちょうど馬の蹄のようになっていることからそう呼ばれている。

 波打つ丘の向こう側にその姿が見えた時。よもやまたこの砦に来ることになろうとは、と妙な感慨を覚えた。

 前回の戦で、魔軍に占拠されたこの砦を奪還するために来たことがあるからだ。

 城壁はまだ、その時の戦いで崩れた部分がそのままになっている。

 城門へ近づくと、上等な身なりの騎士が待っていた。


「お待ちしておりました、アルバイン将軍。いやいや、お久しぶりです」


 丁寧に腰を追ってそう出迎えてくれたのは、この馬蹄砦の指揮官であるロムシャイド伯、カイン・ノーバスター卿である。明るい金髪を颯爽と靡かせる美丈夫で、屈強というよりは線の細い青年といった雰囲気の人物だ。しかし、その見た目に反して剣の腕は凄まじい。以前会った時は確か、王下親衛隊の第五騎士隊を率いていた。


「こちらこそ、お久しぶりです、ノーバスター卿」


 馬を下りてからぺこりと腰を折る。流石に城塞指揮官相手に馬上から挨拶を返すわけにはいかない。

 一緒に来たヴェルダン卿たちも下馬していた。が、何故か俺の背後に整列する。

 列の端に目をやると、レティとラキアもちゃっかり騎士たちの列に加わっていた。


「どうしたんですか、わざわざ指揮官自らが出迎えに出てくるなんて」


 何故か一同の先頭に立たされることになった俺は、よほど事態は深刻なのだろうかと思いながらノーバスター卿に声を掛けた。すると彼は、いやいやと手を振りながら答えた。


「初めてこの砦に連合軍上級大将をお迎えするわけですからな。当然の礼儀です」


「……その、連合軍上級大将って何ですか?」


「何って……」


 意を決して聞き返した俺に、ノーバスター卿はきょとんとした顔を向ける。


「アンヌ―レシアでは、大将軍のくらいに就いておられるのでしょう? であれば、我が国でも同様か、或いはそれに相当する地位を与えるべきだとお考えになったレイズゲル王が新たに設けた役職です。有事の際には王を除くすべての騎士が貴方の指揮下に入ります」


 ご存じありませんでしたかと訊かれたので、ご存じありませんよと心の中で返しておく。

 あの金髪お茶目ジジイめ。

 くすんだ金髪の初老が、短い髭を蓄えた口元に皮肉そうな笑みを浮かべている顔が脳裏に過ぎる。俺に内緒で絶対楽しんでるぞ、あの人。

 アンヌ―レシアのセルゲイン王といい、どうしてこう三ヶ国の指導層はやけに悪乗りの好きな老人が多いのだ。


「大将軍ってのは、勝手に言われているだけで、実際はただの客将でした」


「へえ。まあいいじゃないですか」


 誤解を解くためにそう説明した俺に、ノーバスター卿は唐突に素の口調に戻った。

 良くねぇよ。また勝手に偉そうな地位を押し付けられるのは御免なのだ。

 どよんと肩を落としていると、にやにやしているノーバスター卿と目が合った。

 どうやら、楽しんでいる奴がもう一人いたらしい。

 そういえば、この若き伯爵はかっちりしているところはかっちりしているが、根はひょうきんな若者なのだった。

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