魔軍再来 3
丘の頂上から数百歩の距離を、指輪の魔力で強化された脚力で一気に駆け抜ける。フードは下ろしておく。騎士団に手を貸すとなった以上、正体を隠しても意味がない。何より視界を制限したままではあの数を相手に出来ない。
オークどもは取り囲んだ騎士たちを嬲り殺しにする想像で頭が一杯なのか、こちらにはまだ気づいていない。騎士たちに武器の切先を突きつけて嬉しそうに吠えている。
騎士団は円陣を組んでこれに対抗していた。大盾を持った者を下馬させて外周へ配置し、内側から弓手に反撃させている。しかし、追い込まれているという状況に変わりはない。
このままではじりじりと戦力を減らされ、包囲殲滅されてしまうだろう。
そこへ切り込んだ。ゴウェルによって研ぎ直された精霊鋼の刃は、オークを黒鉄の鎧ごと易々と切断する。相変わらず百発百中のレティの援護を受けつつ、驚愕に吠える化け物どもを十匹ほど切り捨てて、俺は包囲の中へと突っ込んだ。
「アルバイン将軍!?」
突然の援軍にざわつく騎士たちの中から、上等な全身鎧を着こんだ壮年の男が馬上から叫んだ。どうやら、この隊の指揮官らしい。兜の下にある慇懃そうな面立ちはどこかで見覚えがある。ええと、確か。王直属の上級騎士だったはずだ。が、名前は忘れた。すまん。
「再会を喜んでいる場合じゃないようだぞ、友よ」
名前を思い出せないことを誤魔化すように俺は叫びかえした。
「そのようですな」
手当たり次第に近くにいるオークを切り殺す俺に、指揮官はにやりと不敵な笑みを浮かべた。流石は上級騎士。素早く意識を切り替えたらしく、次々に部下へ命令を飛ばしてゆく。
「将軍が作り出してくれた好機を無駄にするな! 弓隊、構え!」
包囲されているという状況には変わりがない。敵が動揺している間に囲いを突破できなければ、行き着く先は皆殺しという運命だけだ。
指揮官の号令一下、俺が散々に引っ掻き回したオークの隊列に矢が殺到する。何匹か撃ち返してくるものもいるが、レティが弓持ちを優先的に排除してくれるおかげでその数もどんどん減ってゆく。
「今だ、続け!」
オークの包囲の一部を俺が切り開くのと同時に、指揮官が剣を抜き放つと馬に鞭を入れた。剣を抜き放ち、部下を率いて隊列の穴めがけて馬を進める。だが、この距離では十分に馬を加速させることができない。何人かの騎士がオークの鉄剣を受けて、地面に叩き落とされた。
それでも騎士たちは挫けない。手にした武器を遮二無二振り回しながら、どうにか先頭の一団がオークの輪から抜け出した。こうなれば、もう騎士の独壇場だ。
俺は落馬した騎士に止めを刺そうとしているオークを片付けると、彼の手を引っ張って群れの中から抜け出した。
見事な手綱さばきで馬を加速させた騎士隊が、大きな弧を描くようにこちらへ戻ってくる。 鉄のぶつかる甲高い音や、肉の潰れる鈍い音とともに騎士隊とオークの群れが激突した。十分な勢いのついた軍馬の突撃は、戦場におけるあらゆる障害を打ち砕く。
瞬く間にオークどもの隊列は壊乱した。しかし、散り散りになりながらも化け物どもは戦いを止めない。そんな連中を一匹ずつ確実に屠ってゆく。
戦闘には直接参加していない騎士たちが、地面に油壺を落としていた。陶器製の壺が地面に落ちて砕け散り、中の油が散乱する。そこへ松明で火を点ける。少々乱暴だが、即席の篝火というわけだ。




