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若将軍は旅がしたい!  作者: 高嶺の悪魔
第六章 影の呼び声

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魔軍再来 1

 それは出発してから間もなくのことだった。

 小さな丘の麓に差し掛かった時、少し先を歩いているレティが警戒するように身を屈めた。

 どうやら、俺が持っている光の短剣は、エルフにとって星明りと同じ効果があるらしい。なので、遠見の視力を取り戻した彼女に先導を任せていたのだが。

 背を低くしたままのレティが、俺たちも同じようにしろと手ぶりで合図をする。


「どうした?」


 指示された通り、腰を低くしながら彼女に追いついて尋ねる。


「声が聞こえる」


 レティは長い耳をぴくぴくとさせながら答えた。


「近くに誰かいるのか?」


「まだ遠いわ。それに……」


 きょろきょろと辺りを見回したレティが、ある方向に顔を向けて動きを止める。

 耳を澄ませて、顔を顰めたあとで彼女は言った。


「この声と足音は、人間じゃない」


 人間じゃない。ということは、化け物か。

 レティの報告に空を見上げる。空は厚い雲に覆われ、地表には陽の光もほとんど届いていない。これなら夜じゃなくても、化け物は動き回れるだろう。


「たぶん、あの丘の上からなら見えると思う」


 言って、レティが前方にある丘を指さした。


「よし」


 頷いて、今度は俺が先頭に立つ。化け物がいるかもしれないのなら、その方が安全だ。


 慎重に辺りを窺いながらレティの示した丘を登り、頂上に着くなりだった。


「伏せろ」


 後ろからついてくる二人に小声で指示を出しながら、地面に張り付く。この辺りはなだらかな丘陵地帯になっている。その丘の隙間を縫うように、真っ黒い影が列を成して動いていた。


「オークだ。少なくとも、百匹はいる」


 薄闇の中を行進する黒い蛆虫どもを見下ろしながら、追いついてきたレティたちに小声で説明しつつ、光の短剣を腰の鞘に納める。こんな目立つ場所で光るものを手にしていたら、すぐに気づかれてしまう。


「足音は百どころじゃないわ。あっちに何か見えない?」


 明かりがなくなったせいで視界は悪くなっているはずだが、エルフの聴力は健在だった。

 レティの指が示した方向へ目を向けると、指輪の魔力で強化された視力が低い丘の向こうで蠢くオークの群れを捉えた。

 隊を分けて行軍しているのか。

 そんなことを考えながら、だんだんと近づいてくるオークの行列に目を戻す。

 このままだと、ちょうど今いる丘の真下を通るようだ。丘の下に目をやると手ごろな茂みがあった。低木がいくつか茂っているだけだが、身を隠すには十分だろう。


「少し近づいてみる。二人はここから動くなよ」


「あ、ちょっと!」


 小さな声で呼びとめるレティを無視して、俺は丘を下った。そのまま茂みの影へと滑り込む。地面に身体を張り付けるようにして待っていると、やがてがちゃがちゃと金属の擦れ合う音とともに、バラバラに乱れた無数の足音、そして耳障りな声が聞こえてきた。

 茂みの隙間から、オークの集団がすぐ脇を横切っていくのが見えた。

 いま見つかったら洒落にならないなと思いながら、敵勢を観察する。

 装備はかなり良い。相変わらず造りは雑だが、胸元から腹部を覆う黒鉄の胴鎧の鉄板は以前よりも分厚くなっているようだ。肩当てや兜の装飾が無駄にトゲトゲしていて攻撃的なのは連中の趣味なのだろう。手にしている武器も、いずれも鉄塊を凶悪な形に捻じ曲げたようなものばかり。

 おかしい。これだけの鉄をいったい、どこで手に入れた。

 野良のオークならば、殺した騎士や兵士、或いは襲った農村から奪った農具などで武装しているのが精々のはずだ。だが、こいつらは一人残らず、まともな武器を持っている。

 前回の戦で連中に占領された中央三ヶ国の鉄が出る山は、戦後に全て奪還したはずだ。その際に少なからぬ量が持ち出されていたとしても、これだけの軍勢の装備を整えるとなれば膨大な量の鉄が必要になる。

 そんなことを考えながらじっとして敵勢を観察し続けて半刻ほど。終わりが無いのではと思われた化け物の隊列が途切れた。

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