影の呼び声 4
「まだ夜なの?」
カップを空にしたところで、ようやく落ち着いたのか。辺りを見回すラキアにそう訊かれて、俺とレティは同時に首を振った。
「もう陽が昇っていてもおかしくない時間だ」
空が曇っているせいで星も太陽も見えず、正確な時間を知る術はないが、それでも体感としてはとっくに朝日が昇りきっていてもおかしくないはずだ。
「なのに、どんどん暗くなってる」
薄暮よりも薄暗い空を見上げて、レティが俺の後を継いだ。
「嫌な予感はまだ続きがあるのかもな」
彼女に頷きながら、俺は冷めた蜂蜜湯を一気に飲み干した。頭の片隅で何かが盛んに警鐘を鳴らしている。
「寝起きで悪いが、今日は少し急ぐぞ」
声をかけると、ラキアも頷いた。
何か良くないことが起きていると彼女も感覚で理解しているのだろう。妖精人の血が濃く発現している人間は、普通の人間よりも世界の機微に対する感覚が鋭い。
だからこそ、影の夢など見たのかもしれない。
今日中に、手ごろな大きさの街へ辿り着ければいいが。その前に。
「まずはメシだな」
言って、ありったけの食料を荷物から取り出した俺に二人が呆れた目を向ける。
だが、せっかく燃料をありったけ使った焚き火があるのだ。ここはどうせなら豪勢にいこう。それに、こういう時だからこそきちんと温かい物を食べておくべきだ。
次はいつ、まともな食事にありつけるか分からないのだから。
「急ぐっていっても、この暗さじゃねぇ」
旅の最中にしては中々に豪勢な朝食のあとで出発の準備をしていると、レティが少し不安そうな声でそう言った。
星が出ていないから、如何にエルフの目を持つ彼女でも遠くまで見通せないのだという。
「でも、松明になりそうな薪ももうないし……」
今にも消えそうな焚火をみつめながら、ラキアも困った声を出す。
確かにそうだなと、俺も顎に手を当てて考え込む。
俺だけなら、夜光石の指輪で暗闇でも問題ないが。二人を連れて急ぐとなると、やはり何か明かりがあった方が良い。足元を照らすだけでなく、明るさは心も照らす。
だが、残念ながらそんな便利な魔法は使えないし……。
「あ、そうだ」
魔法、という単語を思い浮かべた時だった。
「何? 何か思いついた?」
レティとラキアが興味津々といった顔でこちらを見てくる前で、俺は腰の後ろに差してあった短剣を引き抜いた。ロスリンの森で出会ったエルフの奥方から贈られた、光の刃を持つ魔法の短剣である。
何も切れないから使いようが無く、剣帯の一番邪魔にならない場所へ差していたのと、あまりの軽さからすっかりその存在を忘れていた。
鞘から光刃を引き抜くと、白い輝きがぱっと辺りを明るく照らした。
ラキアとレティから小さな歓声が上がる。
流石に昼間のように、とまではいかないが。十分に松明の代わりになる。
「凄いな。燃料要らずの便利松明だ、これは」
「その言い方はやめてくれない?」
明るさに感心していると、レティが嫌そうな顔をした。
一応、自分たちエルフ族が作った至宝である短剣を松明代わりに使われるのは何となく気が食わないらしい。
こんなに役立ってるのに。




