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若将軍は旅がしたい!  作者: 高嶺の悪魔
第六章 影の呼び声

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影の呼び声 2

 レティの嫌な予感というのが的中したのは、その夜のことだった。

 ラキアの様子がおかしい。

 彼女にそう言われて、眠っているラキアへ近づいた。

 レティが旅に加わってから、不公平だからと旅の初めに買った一人用の天幕を使っていなかった。それならレティの分も買えばいいと思うかもしれないが、本人が狭い場所で眠りたくないというのだから仕方がない。

 マントと毛布にくるまっている彼女の脇に屈みこむと、荒く浅い呼吸音が聞こえた。必死に息を潜めているような、叫び出したいのを懸命に堪えているような。そんな様子だ。


「なんだろ。すごい怖い夢でも見ているのかしら。でも、おかしくない? こんなにうなされてるのに目を覚まさないなんて」


 一緒にラキアを覗き込むレティが心配そうに言った。

 それを聞いて、ハッとなる。

 急いで荷物から固形燃料を取り出して火を点けた。炭とおが屑を獣脂と混ぜて、手のひら大に固めたものだ。着火しやすく、それなりに火持ちも良いが、大きさが大きさなので火力はあまりない。それでも、薪が無い時の緊急用にと思って買っておいたのだ。

 ぽっと灯った火がラキアの顔を照らした。ぎゅっと瞼を閉じて、眉間に皺を寄せながら、震える手で口元を隠している。それでも、目を覚ます気配はない。


「レティ、何か歌ってくれ」


 これはもう節約だなんだといってる場合じゃないなと、固形燃料の上に薪をくべながら、レティにそう指示を出す。


「なによ、藪から棒に」


「いいから。エルフ語の歌がいい。ああ、でも。悲しいのとかは駄目だ。出来るだけ明るい、楽しそうなので頼む。なんなら讃美歌でもいい。そっちの方が効果はある」


 きょとんとして訊き返してくる彼女に説明は後だと、焚火へ固形燃料を追加する。薪に比べるとかなりの高級品だが、今は少しでも大きな灯りが欲しい。


「突然、歌えなんて言われても……」


 いまいち状況の飲みこめていない様子のレティだが、ラキアの様子から俺が冗談を言っているわけでは無いだろうと信じてくれたようだ。少し迷うような素振りを見せてから、やがてたどたどしく歌い始めた。

 エルフだから当然なのだろうが、やはりレティは歌が上手かった。

 探るような歌声はすぐに美しいエルフ語の旋律となって夜の草原に響き渡る。俺の要望通り、悲しい響きの歌ではない。が、楽しい歌というわけでもなかった。

 なんとまあ、よりによって銀髪の乙女の歌とは。

 ちょっとあからさまなその選曲に、少し呆れてしまう。

 それは輝く銀髪をもったエルフの姫君を称える歌だ。彼女はエルフでありながら、人間の男と恋に落ちた。男もまた、彼女を愛していた。

 だが、男には果たさねばならない使命があった。そのために、男は強大な危険へと立ち向かわねばならなくなる。

 そんな男に、彼女は自らの髪を贈った。親愛の証として。そして、彼が無事に使命を果たして返ってくるためのお守りとして。

 果たして、男は純銀の髪をその手に、見事使命を完遂させて彼女の下へと戻ってくる。

 という、まあ、昔話だ。

 ちなみに。どうでもいい話だが俺のご先祖様だったりもする。


 レティには歌い続けるようにいってから、俺は胸元の隠しへ手を突っ込んだ。取り出したのは、故郷を出るときに祖父さんの家から持ち出してきた三つの指輪の一つ。大きなトパーズの嵌め込まれたものだ。

 これは同じく持ち出してきた他の二つよりも格が高い。トパーズは希望の象徴とされ、邪悪を退ける効果があるという。

 それを右手の中指へ嵌め込むと、俺はうなされているラキアの額にそっと触れた。

 先祖伝来の魔法の指輪が加護を授けるのは、その資格を持った装着者のみだ。こんなことをしても、気休めにもならないかもしれない。だが、右手で額を包み込むようにすると、ラキアの恐怖に歪んでいる表情がほんの僅か、和らいだような気がした。

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