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若将軍は旅がしたい!  作者: 高嶺の悪魔
第五章 三人旅

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ドワーフの街 5

「ほれ、兄ちゃん! 吞め吞め!!」


 もじゃもじゃの眉毛と髭で覆われた暑苦しい顔に陽気な笑みを浮かべるおっさんに、手の中の木製のジョッキへ並々と酒を注がれる。匂いからして、かなりきつめの蒸留酒だ。注いでくれたご機嫌なおっさんの真似をして一気に飲み干したら、間違いなくぶっ倒れるだろう。

 ここはノバプタにある、ドワーフたちの酒場だ。

 周りにはじゅうじゅうと肉や魚が焼ける音と、きつい香辛料の香りが充満する中で、汗だくのおっさんたちが実に楽しそうに乾杯を叫んでいる。

 なんで俺がここにいるのかというと、街を襲ったオーク討伐に協力したお礼として、ドワーフ料理を奢ってもらっているからだ。


 最初は散々疑いをかけられていたが、戦いが終わってみれば被害は皆無。その理由を受け入れないほど、ドワーフたちは狭量じゃなかった。

 そして彼らはがめついが、ケチというわけでもない。

 礼をしてやるから、なんでも欲しいものを言ってみろというので、それならドワーフ料理が食べてみたいと答えた結果、連れてこられたのがこの店だった。

 店の真ん中には大きな石が置かれている。正確には岩を切り出して作ったテーブルのようなもので、その下ではがんがん炎が焚かれている。そうして熱した石の上で、食材を焼いて食べるのがドワーフ流なのだという。

 石が赤熱するくらいの炎が焚かれているので、当然店の中はすこぶる熱い。全員汗だくなのはそのせいだ。


 焼石のテーブルで料理をしていたドワーフが、焼けたものを石の器に乗せると俺の前へ置いた。眉毛を三つ編みにしているそのドワーフは、この店の女将なのだという。

 ドワーフの女性は伸ばした眉毛を編みこむ風習があるらしく、どう見てもおっさんにしか見えないが、この人はおばさんなのだ。まあ、そんなことはどうでもいい。

 問題は目の前に置かれた料理だ。

 ドワーフの料理は、食材にこれでもかと塩や香辛料をまぶして焼く。おかげで、焼かれているのが肉なのか魚なのかも分からないほどである。当然、味も度を越して塩辛い。

 素材の味を活かすエルフの料理とは対極に位置するものであることは間違いない。

 レティもここまでは一緒に来たのだが、店に入るなり立ち込める汗と香辛料の匂いに、鼻が曲がるといって早々に宿へ戻ってしまった。

 今にして思う。あの時、彼女と一緒に帰っていればよかった。


 楽しそうに酒を呷りながら、焦げ茶色の物体をぱくぱくと食べるドワーフたちを尻目に

 俺は目の前に置かれた料理の表面をナイフで削ぎ落しながら口に運ぶ。それでもかなり味が濃い。そして魚でも肉でも全部同じ味がする。これは料理というよりも、もはや塩と香辛料の塊と呼んだ方が良い。

 あまりの塩辛さに酒が欲しくなるのだが、ドワーフの火酒は人間には強すぎる。

 最初に勧められた時は思いきり一口分飲んでしまい、意識が吹っ飛びそうになったので慌てて藍玉の指輪をこっそりと指に嵌めた。おかげでことなきを得たものの、それで大層な酒豪だとドワーフたちに勘違いされてしまった。普通の人間は一口目でぶっ倒れるらしい。

 試しに注がれた酒をちびちびと舐めてみる。ほんの少し舌先を湿らせる程度しか口にしていないはずなのに、口中が焼けるように熱くなった。とてもこのままでは飲めないので、水を貰って薄める。何度か試行錯誤した結果、だいたい酒と水が一対十くらいの割合で要約飲める濃さになることを発見した。

 酒が強いから、料理の味も濃くなったのか。

 料理の味が濃いから、酒も強くなったのか。

 それは分からないが、正直に申し上げよう。これは美味しくない。

 というか、強すぎる酒と濃すぎる味のせいで味覚が麻痺しており、もう何を食べているのかも分からない。


 しかし、自分から食べたいと言い出した手前、今さら食べられないと断るのもなんとなく気が引ける。

 これは彼らの流儀であり、文化なのだ。尊重しなくては。

 そんな義務感から、表面の塩と香辛料を削ぎ落した肉を黙々と口に運ぶ。全身が塩漬けになってゆくような気がする。

 どうにか出された料理を片付けたところで、ぬるい水を一気飲みする。ようやく一息付けたところで、背後から、おい、と声をかけられた。

 振り向いてみると、そこにいたのはゴウェルと呼ばれていた彼だ。


「ちょっと着いてきな」


 そういって店の外を顎でしゃくる。

 何だろうかと思いながら、俺は彼についていった。他のドワーフたちはもう良い具合に出来上がっており、もう俺になど目もくれていない。


「何でしょうか」


 外に出たところで、ゴウェルにそう尋ねた。

 彼はこの街でドワーフたちの顔役をやっていると聞いたため、一応、口調は丁寧なものにしておく。

 しかし、ゴウェルは俺に答えず、黙って歩き出した。

 仕方ないので後をついて行くと、彼は一軒の鍛冶屋の前で足を止めた。

 入れと手ぶりで示されたので、それに従う。作業場の火は落とされており、中の空気はしんと冷えていた。


「腰のもんを見せてくれねぇか」


 金床の横にどっかりと腰を下ろしたゴウェルが、油皿に火を点けながらそう言った。

 なんとなくそんな気はしていたが、今確信した。やはり彼はこの剣が何なのかを知っている。


「……なぜですか?」


 しかし、見せてくれと言われても、そうほいほいと見せて良いものではない。これでも一応、ご先祖様から受け継いだ家宝なのだ。

 剣の柄を握りしめながら警戒するように訊き返すと、ゴウェルはそんな俺を小馬鹿にするように鼻を鳴らした。


「頭を隠しても無駄だぞ。どうせ銀髪なんだろう」


「……気付かれてましたか」


 観念したようにフードを下ろす。


「思ってたより若えな」


 露わになった銀髪を見て、ゴウェルはわずかに目を細めた。


「その剣を持ってるってことは、そういう事なんだろうが」


「先代から継いだばかりです」


 答えた俺に、彼はさらに目を細める。


「まあ、いい。お前さんの一族のことだ。俺には関係ねえ」


 どうでも良さそうにいいながら、彼は俺の腰の剣を指で指した。


「別にその剣を寄こせっつってんじゃねえ。見せてくれと言ってんだ。盗りぁしねえよ」


 そう言って、彼は腰の剣を抜く仕草をした。

 どうやら剣を抜いて見せるだけで良いと言っているようだ。

 その目には、宝物を前にしたドワーフ特有の狂気は無い。

 しばし悩んでから、俺は言われた通りにした。どうせ正体はバレているのだ。精霊鋼の刃を、鞘から中ほどまで引き抜いてみせる。


「やっぱりな」


 手に持った火をかざしながら、ゴウェルが煌々と煌めく刃を見つめる。


「精霊鋼か」




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