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若将軍は旅がしたい!  作者: 高嶺の悪魔
第五章 三人旅

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ドワーフの街 3

 外へ出ると、通りは結構な騒ぎになっていた。手に手に凶悪な鉄の塊を持ったドワーフたちが、街の外へと急いでいる。そんな彼らを、人間の住民たちが不安げに見送っていた。


「何があったんだ?」


 外へ出たところで、ちょうど目の前を通りかかかったドワーフに声をかけた。

 大きなまさかりを担いだ彼は、その武器の重さ故か。先を急ぐドワーフたちを、ゆっくりとした足どりで追っている。


「西の見張りが、街に近づこうとしていた萎び猿を見つけた。矢を射って追い散らそうとしたが、猿どもは少し離れるだけで逃げようとはせなんだらしい」


 彼は迷惑そうな顔で俺のことをちらと見てから、言葉少なにそう教えてくれた。

 寡黙な性質なのか。それだけ聞いて理解しろと言わんばかりの態度だ。

 が、十分だった。

 萎び猿とはゴブリンのことだ。ドワーフは奴らのことをそう呼ぶ。萎びた猿みたいな見た目をしているからだろう。

 なるほど。本来臆病なゴブリンは、普通なら矢を射かけられた時点で逃げだすはずだ。だが、そうしないという事は。近くにオークがいるということだ。


「斥候だな」


 呟くと、寡黙なドワーフはむっつりと頷いた。


「俺にも手伝わせてくれないか?」


「人間の小僧は引っ込んどれ。ここはわしらの山じゃ」


 頑固なドワーフらしい返事だ。

 自分たちの山は自分たちで守ると。恐らく、それなりに大きな街だというのに騎士団や衛兵隊が常駐していないのも、彼らがそういって断っているからだろう。


「ほら、そう言ってるわよ?」


 こんな奴らほっとけば、という顔でレティがちらちらと俺を見てくる。

 しかし、ここで退くわけにはいかない。

 何故ならば、オークを二匹殺せば銀貨一枚の討伐報酬がもらえるからだ。

 六匹狩れば、明日は全員で温泉に入れる。

 天が与えてくれたこの機会をみすみす逃してなるものか。


「妙に張り切ってると思ったら、そんなこと考えてたわけ」


 小声で討伐報酬制度について簡単に説明した俺に、レティが呆れたような半眼を向けた。

 いや、もちろん奴らは皆殺しにするが。


「別に手伝った報酬を寄こせなんて言わないからさ。自分で討ち取った分の分け前だけもらえればいい」


 俺はレティから鉞を担いだドワーフへ顔を向けると、羽織っているマントの裾を少しだけ捲り上げて、腰に吊っている剣をちらと見せつけた。流れの傭兵か何かだと思ってもらえれば、そう考えての行動だったのだが。剣の柄を目にした途端、ドワーフが両目を見開いた。


「お前は」


 突然立ち止まった彼は、あり得ないものを見るような顔で俺のことを見上げる。

 この反応は。しまったな。剣を見せたのは軽率だったかもしれない。

 ドワーフの審美眼ならば、この剣が何でできているのかを見抜くかもしれないと考えるべきだった。

 精霊鋼だとばれたら、どうなるだろうか。この剣自体はドワーフとエルフの合作だが、何しろ宝物にはがめついドワーフである。これはわしらのもんだ、返せとでも言い出されたらどうしよう。

 流石にこればかりはそうですかと手放せるものではない。

 どうやって言い訳をしたものかと言葉を探していると、いつの間にか街の入口まで来ていた。


「ゴウェルさん!」


 赤々と燃やされた松明に照らされる中、武装したドワーフの集団が駆け寄ってくると、一緒に来た彼を取り囲んだ。口々に、彼をゴウェルさんと呼んでいる。


「全員揃っとるか」


 俺から目を離して、鉞を担ぎ直したゴウェルの問いに、ドワーフたちが応と声を揃える。

 どうやら、彼はこの街のドワーフたちのまとめ役か何かのようだ。


「人喰い鬼はまだ見えんが、萎び猿どもがさっきよりも集まってきとる」

「奴ら、西側から来とるようじゃ」

「どれくらい来るのかのう」

「何匹来ようが、全部まとめて斧の錆にしてくれるわい」

「落とした首を炉にくべて暖をとってやろうかのう」


 等々。中々に野蛮、もとい、好戦的な台詞を口にしながら、不敵な笑みを浮かべるドワーフたち。そこへ、咆哮が聞こえてきた。ゴブリンの甲高い鳴き声ではない。野太い、獣のような咆哮だ。


「もっと焚き火を燃やせ! 薪に油をぶっかけて、盛大に燃やすんじゃ!」


 ゴウェルが周りにいたドワーフたちを怒鳴りつけた。

 化け物との夜戦では、如何に明るい範囲を広げられるかが重要になる。もちろん太陽光ではないので奴らの目を焼くことはできないが、暗闇の不利を埋めなければまともに太刀打ちできない。

 オークの遠吠えが聞こえたからか。俄かに周りが慌しくなった。ドワーフだけでなく、人間の男たちも薪や油壺を運ぶのを手伝っている。

 ゴウェルがドワーフたちを引き連れて街の外へ出てゆく。


「何じゃ、お前」


 その後に黙ってついて行こうとしていた俺に、ドワーフの一人が気付いた。たちまち、そこにいたドワーフたちの視線が俺に集まる。


「怪しいヤツじゃの。なんで夜なのにフードなんぞ被っとるんじゃ」


 疑うような顔でドワーフたちが迫ってくる。


「ええと」


 下手に見られない方が良いだろうと、マントの上から剣を押さえつけながら、どうしようかな、と思っていると、ゴウェルの声が聞こえた。


「その小僧なら好きにさせておけ」


「しかし、ゴウェルさん」


「良いんじゃ」


 頑なな彼の態度に、まあ、ゴウェルさんがいうならと、他のドワーフたちが不承不承ながらも従う。ほっと息を吐いたところで、ゴウェルと目があった。軽く頭を下げておく。彼はふんと鼻を鳴らして踵を返し、街を囲む塀の外へ出て行った。


「着いてくるのはええが、足は引っ張るなよ、小僧」


 最初に俺に気付いたドワーフが、そんな憎まれ口を言い捨ててゴウェルの後を追ってゆく。


「足は引っ張るな、か」


 実に頑固なドワーフらしい物言いに、思わず苦笑してしまう。


「ねえ、どうするの」


 そんな俺にレティが囁いた。自分はどうすればいいかと訊いているのだろう。

 そうだなと顔を上げると、街の入口の脇に立てられている見入り台が目に入った。


「レティ、あの上から援護できるか」


「分かった」


 そう頷くと、彼女は軽やかな身のこなしで見張り台へ登ってゆく。それを横目に見ながら、俺は街の外へ出た。



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