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若将軍は旅がしたい!  作者: 高嶺の悪魔
第四章 エルフの森

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ロスリンの森 3

「さ、着いたわよ」


 レティのあとに続いて森の中をしばらく進むと、折り重なるように茂っていた木々が唐突に途切れた。


「わあ……」

「おお……」


 開けた視界に飛び込んできた景色を前に思わず、ラキアと二人、感嘆の声を漏らしてしまう。

 木々が途切れた先は、背の低い草に覆われた草原になっていた。その先には、幅は広いが水深はそれほどでもなさそうな小川が流れている。

 川には小さいが立派な造りの白い石造りの橋が架けられていた。

 橋を渡った先とこちら側では、まるで森の雰囲気が違う。

 対岸に生えているのは、これまで散々に見飽きてきた緑の木々ではなく、銀色の木の葉を茂らせた白い木だ。そして、そのさらに奥。中央大連峰の最高峰であるベラス山の切り立った山肌を背景に、黄金の葉を茂らせた巨大な大樹が聳えていた。

 その樹高は、恐らくこの森に生えているどんな巨木よりも高い。遠近感が狂っているのかと錯覚するほどに巨大なその幹は、まるで天空を支えるために大地へ打ち立てられた柱のようだ。天辺は雲に隠れてみることができない。幹のところどころから突き出す枝の一つひとつでさえ、そこらに生えている木々よりも大きく、黄金の葉をいっぱいに茂らせて輝いていた。


「すごい」


 隣に立ったラキアが、感動したようにぽつりと呟いた。俺は無言でそれに頷いた。


「ようこそ、私たちエルフの里、ロスリアンへ」


 レティがどこか誇らしげな声でそう言った。胸を張るのも無理はない。これは大した景色だ。


「さて、里の入口はあの橋を渡った先よ。もうちょっとで着くから……って、ちょ、ちょっと? なんでいきなり座り込んだの?」


 黄金の大樹を見つめながらその場に座り込んだ俺に、レティが驚いたような声で訊いてくる。


「いや、もうちょっとここで眺めてたくて」


「え、なんで?」


 なんでって。

 そりゃ、ここに住んでる彼女にとっては見慣れた光景かもしれないが。こっちは幼い頃から繰り返し聞かされてきた物語に出てきた場所を、いま目の当たりにしているのだ。もう少しこの感動に浸っていたい。


「ここまで来たんだから、近くに行ってから見ればいいじゃない」


 だが、レティはさも当たり前のような口調でそんなことを言う。違う。そうじゃないのだ。何事にも順序というものはある。まずはここで、この壮大な景色を目と心に焼き付けてから。近づくのはその後だ。

 だというのに。


「ね、ねえ、ルシオ? あそこが目的地なんでしょ? それに、レティさんの言うように近くで見た方がもっと綺麗だと思うの」


 何故か、ラキアまでレティの側につくようだ。


「ラキア、“さん”はいらないわよ。私だって、貴女のこと呼び捨てにしているし。もっと気楽にいきましょ?」


「う、そ、そう?」


「そうそう」


 何やら仲良くなったらしい二人を尻目に、俺は大きく深呼吸をした。ああ、空気が旨い。最高の景色。最高の天気。最高の環境だ。もう今晩はここで一泊しよう。


「いや、何を落ち着いてんのよ、アンタは。さっさと立ちなさいよ」


「なんだよ、別にいいだろ。エルフのくせに気が短いな、君」


「そういう問題じゃないのよ。あのさ、ほら、あの橋の向こう側。衛兵が立ってるの見える? さっきからずっと、こっちを見てるんだけど」


 そう言ってレティが示す先をみれば確かに。小川に架かってる橋の向こう側にはアーチのようなものが建てられていて、その脇には白銀の軽鎧に身を包んだ衛兵が一人立っているのが見えた。

 衛兵が手にしている槍には銀糸で編んだ旗が括りつけられている。描かれているのは輝く輝石を包み込むように伸びるイチイの枝。ロスリンの紋章だ。

 ……で、それがどうしたのか。


「いや、彼、知り合いなの。突然地べたに座り込んだヤツと一緒にいるところをまじまじと見られて恥ずかしいのよ」


 首を傾げた俺に、レティが冷たい声で答えた。


「ね、ねえ、レティ? あの金色の木の下にも、いろんなものがあるのよね?」


「え? いや、普通に家があるだけだけど……え? あー、そう、ね……ええっと、ここからは見えないけど、里の周りは湖になっていて、館の裏手には小さいけど滝もあるわ」


「ほら、湖と滝だって、ルシオ」


 そういうの好きでしょと、ラキアがこちらへ振り向く。

 何だろうか。今、レティが質問に答えている途中で、ラキアが何か耳打ちしていたような気がするんだけど。

 それはそれとして。エルフの里にある湖と滝か。なるほど、確かに心惹かれる光景だ。

 いや、でも。やっぱりもう少しここからの眺めを堪能しておきたいんだけど。


「いつでもまたここに戻ってくれば良いじゃない。それにほら、なんだか人を待たせてるみたいだし?」


「……まあ、それもそうか」


 やけに必死なラキアからそう言われて、仕方なく俺は立ち上がった。

 なぜそんなに急かしてくるのかは謎だが、レティのいうお父様なる人物が俺のことを待っているのは確かなことらしい。まあ、いいか。先にそっちの用件を済ませてから、ゆっくりと観光すればいいのだ。


「危なかったわ」

「何なの、突然」

「危険だったわ。ああなったら最悪、三日はこの場を動かなくなるから、あの人」

「なにそれ? どんな呪いをかけられてるの、彼?」


「おーい、早く行くんじゃなかったのかー?」


 何やらひそひそと話し込んでいる二人にそう声をかけたら、誰のせいだと怒られた。

 何なのだろうか、いったい。それにしてもまあ、似たような年頃だからか。この短い間に随分と仲良くなったなあ、二人とも。



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