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若将軍は旅がしたい!  作者: 高嶺の悪魔
第三章 ローセオン

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気ままな旅路 3

 何はともあれ。問題なく(?)街に入ることは出来たので、まずは交易所で討伐証明を換金した。

 今回はゴブリンの耳が三十と、オークの右手が三つ。実際に倒した数よりもかなり少なめに持ってきたつもりだったのだが、それでも受付のおっさんには随分と驚かれてしまった。

 それよりも驚いていたのはラキアだった。

 そういえば化け物退治のことは彼女に秘密にしているのだった。一体、いつの間にと聞いてくる彼女に、いやまあ森で食料探すついでにとかなんとかいって誤魔化す。

 いまいち納得していないラキアの気を逸らすためと、ちょっとした好奇心から、オークの討伐報酬は幾らなのか聞いてみた。

 ローセオンでは銅貨八枚で、二匹で銀貨一枚分になるのだそうだ。

 そんなもんだったかなと、前回のことを思い出しながら首を傾げる。

 確かに、前回あの街へ持ち込んだ討伐証明のほうが多かったが、数で割ってみると銅貨の枚数が合わないような気がしたのだ。


「アンヌ―レシアとローセオンでは硬貨の交換比率が違うのよ」


 そんな俺の疑問に答えたのは、ラキアだった。


「アンヌ―レシアでは銅貨が三十六枚で銀貨一枚分だけど、ローセオンだと銅貨十六枚で銀貨一枚だから。たぶん、アンヌ―レシアで換金したらオーク一匹の討伐報酬は銅貨十八枚になるんじゃないの」


 人差し指を顎に当てながら計算した彼女に、受付のおっさんがその通りとばかりに頷いていた。

 硬貨の交換比率か。そういえばリタがそんな話をしていたような気がする。

 なんて面倒な。

 そうか。だからシェルヘルミナ殿下は三ヶ国の通貨を統一しようとしているのか。

 頑張れ姫様。でも、俺の名前を通貨単位に使うのだけはやめてくれ。

 心の中で殿下を応援しつつ、それよりも。


「随分詳しいな。いつの間に覚えたんだ?」


「リタ様と婦長様から色々と教わったから」


 感心しつつ訊いた俺に、ラキアは肩を竦めながら答えた。

 そういえば、サラさんもメイドの仕事以外にもいろいろと教えていると言っていた。リタもラキアは飲み込みが早いと褒めていたが、たった一月で簡単な算術まで修めたらしい。

 思ったよりもラキアは頭脳明晰なのかもしれない。


 ちなみにゴブリンは一匹で銅貨二枚だった。

 今回の討伐報酬は全部合わせて銀貨四枚と銅貨が十二枚。おっさんが受付台の下から取り出した報酬を受け取ろうとしたところ、全部銅貨で貰うべきだと横からラキアが口を出した。

 どういう意味があるのか分からないが、受付のおっさんもそうだなと頷いているし、金の知識は俺よりも彼女のほうが上だと分かったばかりなので、言われるとおりにした。


「どうして全部銅貨で受け取ったんだ?」


「どうしてって、銀貨なんてどこで使うのよ」


 交易所を出たところでラキアに尋ねると、逆に訊き返されてしまった。

 やはり。良く分からない。金の使い道なんて一つしかないだろうに。

 そう思ったところで、通りに漂う匂いが鼻をくすぐった。難しいことなど、どうでもよくなる。


「よし。さっそく何か食べよう」


 決意したように言って、俺は歩き出した。

 交易所はこの街の目抜き通りに面している。門をくぐってからここまで、道沿いにはずらっと屋台が軒を連ねていた。中には店舗を構えている店もあった。

 ようやく先立つものが手に入った今、目下の最重要課題はどこから手を付けるかである。

 肉や魚の焼ける香ばしい匂い。店先に並べられている瑞々しい果実。ここまでより取り見取りなのは、あの街以来だ。あの街で買い食いできなかった分を、ここで取り戻そう。

 そう思って通りを見回していると、一軒の屋台が目に留まった。

 串焼きを売っている店だ。炭火に炙られているのは、茶色い肉の塊。


「ラキア! あれ食おう、あれ!」


「ええ、牛肉……? 固いんじゃないの?」


 屋台の前まで引っ張っていくと、ラキアは疑うような声を出した。


「何言ってんんだ、それが良いんじゃないか」


 ラキアの言う通り、牛を食べるために育てている王都のような大都市はともかく、牛肉は普通、固くて筋張っていて、あまり旨いものではない。

 地方では牛は貴重な労働力であり財産だ。その肉が出回るのは、老いて農作業や荷運びなどの仕事が出来なくなったものを潰した時だけ。今、目の前で焼かれているのも、そうした老牛の肉だろう。当然、それは固く締まっているはず。

 だが。

 見つめる先で、炙られている肉からしみだした脂が炭の上にぽとりと落ちた。じゅっと音をたてて白い煙が噴き出し、香ばしい匂いが鼻腔を刺激する。

 思わず、ごくりと喉が鳴った。

 肉を焼いている禿頭の店主に値段を聞いたところ、一本で銅貨三枚だと言われた。すぐに支払った。金を受け取った店主が一瞬、おや、という顔になる。時々、こういう顔をされることがあるのだ。まさか、銀髪がバレたのだろうかとフードを深く被りなおすが、店主はすぐに笑みを浮かべると、特に大きな肉の刺さった串を渡してくれた。

 こういうのは熱いうちが華だ。受け取ってすぐ、その場で齧りつく。


 これだよ、これ。

 思った通りの味と食感に、感度も頷く。

 確かに、王都で食べる牛肉のほうが柔らかくて美味い。

 だが。

 塩と香辛料で大雑把に味付けされた、良く言えば噛み応えのある、悪く言えば固いだけの肉を思いきり噛み締める。奥歯を押し返すほど弾力のある肉からじわりと肉汁が滲みだし、野趣に富んだ味が口中に広がった。

 蝶よ花よと愛でられて育った牛にはない、過酷な環境の中でも強く、逞しく生き抜いた牛の味だ。焦げた脂の香りもなんとも堪らない。

 どちらの方が美味いのかと聞かれれば、もちろん王都で食べる牛肉のほうが美味しい。

 だが、この肉の旨さはそうした料理とは比べられるものではないのだ。

 屋敷でサラさんが腕を振るって作った繊細で洗練された食事よりも、こうして屋台で買い食いする方が俺の性には合っているというだけかもしれないが。


 ああ、これは良い買い物をしたなあと、串を片手に歩き出す。

 行儀が悪かろうが何だろうが、こうした気軽さが屋台巡りの醍醐味なのだ。

 と、数歩進んだところで、ラキアが着いて来ないことに気付いた。

 どうしたのかと思って振り返れば、何故か屋台の前に立ったまま店主を睨んでいる。

 何だろうか。やっぱり食べたくなったのだろうか。それなら遠慮せずに言えばいいのに。

 そう思いながら彼女の下へ戻ると。


「おじさん、おつりは?」


「い、いきなりどうしたんだい、お嬢ちゃん?」


 やや棘のある声とともに片手を差し出したラキアに、店主が面食らったように訊き返した。

 それに、俺も首を捻る。

 おつり?

 なんだろうか、それは。

 残っている肉をもぐもぐと頬張りながら成り行きを見ている俺の前で、ラキアはますます眦を吊り上げてゆく。


「誤魔化さないで。さっきこの人が支払ったのは半銅貨二枚と、大銅貨一枚だったでしょう。その串焼きが一本で銅貨三枚なら、四枚分多く支払ってます。その分を返してって言ってるの」


「え、あー、それは……お嬢ちゃんの勘違いじゃないか?」


 詰問するような口調の彼女に、店主はのらりくらりとした調子で応じる。

 いったい、何の話をしているのだろうかと思いながら、最後の肉を飲み込んだ時だった。


「ルシオ、ちょっと財布貸して。確かめるから」


 突然、こっちをむいたラキアからそう言われた。


「え? ああ……」


 訳も分からないまま、言われた通りに財布を彼女に手渡す。その際、マントの前が広がって腰に吊っている剣が露わになった。

 精霊鋼の剣は何処までも実戦に重きをおいて鍛えられたため、見事な装飾が施されているわけでもないが、柄の拵えはただの旅人が佩いている剣にしては立派だ。もしかしたら、俺が士分にあるものだと思ったのかもしれない。

 剣を見た途端、店主の態度が一変した。


「あっ、ああ! すまん、すまん! 嬢ちゃんの言う通りだった! 勘違いしてたよ」


 手元を確認する素振りを見せた店主が、言い訳のように大きな声を出した。

 それから、ラキアが差し出している手の平に銅貨を四枚乗せる。


「ええ、分かってくれたならいいけど」


 ラキアは受け取った銅貨を財布にしまうと、それを俺に返してくる。


「……?」


 俺はしばらく、財布を見つめながら首を捻った。

 銅貨が増えた。いったい、どういう事なのだろうか。




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