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若将軍は旅がしたい!  作者: 高嶺の悪魔
第二章 旅立ち

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計画通り?

 すっかり三人が酔いつぶれてしまったので、今夜はお開きという事になった。

 片付けはサラさんたちに任せ、俺はおぼつかない足取りのアルドたちをどうにか寝室迄案内した。

 それから、帰宅するリタを門まで見送る。

 泊っていけばいいのにとは言ったが、断られてしまった。

 まあ。名家の御令嬢ともなれば、人前で度を越して呑みすぎるなどという不始末は犯さないのだろう。アルドたちに付き合って少なくない数の杯を干していたはずだが、その足取りはしっかりとしている。


 それではまた明日。そういって帰路に着く彼女を見送った俺は、庭で一人、小さく息を吐いた。

 酒精をたっぷりと含んだ吐息が、夏の夜の空気に溶けてゆく。

 ふと空を見上げると、深い群青の中にぽっかりと大きな月が浮かんでいた。

 どうやら、今夜は満月だったらしい。静かで、明るい、良い夜だ。

 夜風が酔いに火照った頬を撫でてゆく。その感触と心地よい酩酊感を惜しみつつ、俺は上着のポケットに入れていた金剛石の指輪を取り出した。

 それを左の人差し指に嵌めた途端、藍柱石の指輪と同じ酔い覚まし、もとい、解毒と精神強化の加護によって頭から酒精がさっぱりと消え去る。

 さてさて。

 ここまでは計画通りだ。

 すっきりした頭の中でそう思って、口の端をにやりと吊り上げたところで。


「……なにを、悪い顔をしているんですか」


「おわぁっ!?」


 突然、声を掛けられて、思わず大声をあげてしまう。

 気付けば、目の前にラキアが立っていた。


「なんだ、君か……どうした?」


「リタ様の見送りに出てから、中々戻ってこられないものですから。何をなさっていたのですか?」


 ほっと息を吐いて尋ねると、彼女はあくまでも丁寧な態度を崩さないまま答えた。

 なんだろうか。口調と態度は丁寧なんだけど、俺を見る目はジトっとしている。

 なにかを企んでいる子供を問い詰めるような、そんな目だ。


「いや、ちょっと酔い覚ましに夜風を浴びてただけだよ」


 誤魔化すように肩を竦めて答える。


「そうですか。もうすっかり、酔いも覚めたようですね」


 そう返したラキアの目が、俺の左手にちらりと向けられた。

 バレたかと思いつつ、俺はさりげない仕草で指から指輪を引き抜くと、上着の物入れにしまった。

 俺が魔法の指輪を幾つか持っていることは、別に秘密じゃない。リタ辺りから話を聞いたのだろう。まあ、彼女がこの指輪の効果をどこまで理解してるかは分からないが、少なくとも酔い覚ましの力があることだけは知っているはずだ。

 何故なら、俺が戦い以外で指輪を使うのは酒を呑んだ後だけだから。

 もちろん威張るようなことではないし、本来の用途でもないのだが。


「では。そろそろお屋敷へ戻られたらいかがでしょうか?」


 言いつつ、ラキアが片手を伸ばして屋敷の玄関を示す。

 いかがでしょうか、と促すような言葉とは裏腹に、その口調は有無を言わせぬ響きがあった。

 ……まあ、仕方がない。

 ここは素直に従っておくことにしよう。





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