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若将軍は旅がしたい!  作者: 高嶺の悪魔
第二章 旅立ち

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北からの使者 3

「どうぞ」


「あ、ああ。これは、申し訳ない……」


 ラキアが差し出したグラスを、アルドが酷く恐縮したように受け取っている。

 ま。他人からそんな丁寧に扱われることなんて、基本的にないからな。我が一族は。

 気後れしてしまうのも分かる。俺もそうだった。いや、今でもそうなんだけど。

 それにしても、ラキアもだいぶ仕事ぶりが板についてきた気がする。

 突然の珍客に戸惑うこともなく給仕をしている彼女は、今やどこからどう見ても立派なメイドだ。

 そう褒めると、「いえそんなことはありません私など婦長様から見ればまだまだです」という返事が返ってくるのだが。

 婦長とはサラさんのことだ。この道何年なのか分からないあの人と、初めて一ヶ月の自分を比べるのは無理があると思う。


 三人を連れて戻った家では、すっかりもてなしの準備が整っていた。

 相変わらず、思いついたことをその場で口にする俺と違い、三人を家に招くことが決まったところで、リタが王宮から使いを出してくれたおかげだ。

 まず、荒れ地を越えてきて、服も身体もほどほどに汚れていた三人には湯浴みをしてもらった。それほど広いわけでは無いが、湯殿で湯船に浸かるなど、たぶん三人とも初めての体験だっただろう。言うまでもないが、男女は別である。腐っても豪邸なのだ。この家は。

 まあ、ミリアが使ったのは普段サラさんやラキアが使っている使用人用の方だが、そんなことに文句をつけるような人ではない。

 着ていた服は洗濯に出してしまったため、代わりに用意されていた柔らかい浴衣に着替えたアルドたちは妙にそわそわしていた。

 その感じには、俺も憶えがある。そもそも武器を吊っていないと落ち着かないのだ。


 湯浴みを終えたら、次は食事という運びになった。

 食卓にはサラさんの作った料理が所狭しと並んでいた。サラさんの料理はいつも絶品だが、今日のは少し気合いの入り方が違うように思えた。

 そういえば、この家に誰かを招いたのは初めてだったなと思いだす。

 もしかしたら、こうして存分に腕を振るう機会を待っていたのかもしれない。

 そう思うと、少し申し訳ない気持ちになった。

 アルドたちは出された料理一つひとつを、感動したように味わっていた。

 その気持ちも良く分かる。

 旨いものなんてないからな。あれの荒れ地。


 そんなこんなで食事を済ませて、今は応接間で和やかな歓談の時間だ。

 三人はラキアから給仕をうけながら、サラさんが用意してくれたちょっとした摘まみや甘味を楽しんでいる。


「さっきの料理もそうだったけれど……こんな美味しいものがこの世にあっただなんて」


 その美味しさを全身で表すように身悶えしながらミリアが頬張っているのは、サラさん特製木苺のパイだ。生地の上に木苺を敷き詰めて、糖蜜をかけて焼き上げたもので、彼女は特にこれがお気に入りのようだった。

 北の限らず、砂糖は貴重品だ。甘いものなど林檎か干しブドウくらいしか知らなかっただろうミリアは、一口一口を感動したように味わい、大皿からはどんどんパイが消えていく。


「恐縮です」


 自らの手料理を称賛するミリアに、サラさんが畏まったように頭を下げている。


「しかし。あまり食べ過ぎるのも良くありませんよ」


 横から、リタが忠告するように口を挟んだ。

 それにミリアは不思議そうに首を傾げる。


「どうして? こんなに美味しいのに」


「甘いものは太りやすいですから」


 その一言に、ミリアの動きがぴたりと止まった。

 自分の腹部を見つめてから、これまで食べたパイの量を確かめるように大皿を眺めている。それから、俺に大真面目な顔を向けたかと思えば。


「大変、ルー君。女の大敵が一つ増えたわ」


「え、ああ、ウン。ミリアなら大丈夫ダヨ」


 そんなこと言われてもどう答えたらいいものか分からず、棒読みで返答する。

 言うまでもないが、俺に女性の大敵云々を教えたのは彼女である。

 ミリア以外の男二人はといえば、おっかなびっくり酒に口を付けている。

 北では酔うほど酒を呑むことなどない。いつ化け物に襲われるか分からないからだ。

 里に戻って、どうしても眠れない時に少し舐めることはあるが、それよりもむしろ傷口の消毒なんかに使うことの方が多い。

 しかし。ここでは突然化け物に襲われることはない。思う存分、酔うことができる。

 ラルゴはその見た目通り、いつも岩のようにどっしりと構えているし、アルドはそれに輪をかけて堅物だ。そんな彼らが酔ったらどうなるのか。非常に楽しみだった。


 ……の、だが。




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