北からの使者 2
「――そうか」
告げられた言葉に、俺は一拍おいてから答えた。
「雲の切れ目から陽射しが差し込む、珍しく暖かい日のことでした」
アルドがそう語り始めたところで、部屋の隅に控えていたリタが「あの」と遠慮がちな声を出した。
「私は外していたほうが?」
確認する彼女から目を離して、俺はアルドを見た。
どうするかはこちらに任せるというように、彼は肩を竦める。
「……ここで聞いたことは、誰にも言わないでくれるか?」
「閣下がそう望まれるのでしたら、たとえ国王陛下にさえも」
聞き返した俺に、リタが力強く答える。
「なら、居てくれ」
そう頼むと、彼女は「はい」と答えてから口を閉じた。
「それで。爺さんの最期はどうだった?」
「とても満足そうでしたよ。一族を集めて、一言ずつ述べてから、眠るように息を引き取りました。御年、214歳。大往生ですな」
まるで世間話でもするかのようにそう言って、アルドははっはっはっと声をあげて笑った。つられて笑っていると、怪訝そうな顔のリタと目が合う。
うん。まあ。長生きなんだ、我が一族は。エルフの血が入っているから。ずいぶん薄まったとはいえ、その気になれば四百才くらいまで生きられる。
もっとも。そこまで生きる者は少ない。
大抵、戦いで命を落とすからだ。
そうでなくても、身体が衰えて戦えなくなった者は自らの意思でこの世を去る。
自殺とは違う。十分に生きたと思った時、自らの意思で寿命を終わらせることができるのだ。これは、基本的に不死であるエルフにも与えられている恩寵でもある。
まあ、そういった次第で。俺たち一族は寿命を全うした身内の死を悼みこそすれ、悲しむことはあまりしない。
「そうか。爺さんが」
「はい」
ひとしきり笑って、ぽつりと呟いた俺にアルドが頷く。
こんな日がいつか来ることは分かっていたが。
そう思いながら、亡き祖父の冥福を祈る言葉を口の中で小さく呟いていると。
「ですから」
再び、表情を引き締めたアルドが口を開いた。
同時に、彼は羽織っていたマントの下から白い鞘に収められた一振りの剣を取り出した。
それを見たリタがわずかに身じろぎしたのを、手をあげて制する。動きを止めた彼女は、何か言いたげな顔で俺を睨んだ。
言いたいことは分かる。
王宮内の武器を持ち込んで良いのは一部の兵士と近衛騎士、それから俺のような将軍など、軍で重要な役職を任されている者だけだ。客人であるアルドが武器を隠し持っていたとなれば、彼らはもちろん、彼らが王宮に入ることを許した衛兵まで罰せられることになる。
が。ここは久々に、将軍としての特権を使わせてもらうことにしよう。
要するに、俺が持っていたということにすれば問題はないのだ。
剣を取り出したアルドは、それを両手で掲げ持つようにして、俺の前で片膝を突いた。
背後にいる二人もそれに倣う。
アルドは恭しい手つきで剣を差しだしながら、まっすぐ俺を見つめて言う。
「これよりは、貴方が我が一族の長となられます」




