表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
若将軍は旅がしたい!  作者: 高嶺の悪魔
第二章 旅立ち

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

31/121

そんな日常 軍制改革

「貴方はいい加減、人からかしずかれることに慣れたらどうですか」


 一部始終を見ていたリタが、溜息交じりにそう口を開いた。


「無理だ。育ちが悪いんだ、俺は」


 きっぱりと答える。

 人に傅かれる趣味も、人を傅かせる趣味もない。


「そもそも。なんであの子は俺に、その、なんだ。敬意を抱いてるんだ」


 シェルヘルミナ殿下なら分かる。

 理由はどうあれ、俺がこの国を救う一因になったのは確かだから。

 だが、彼女と関わったのはほんの一日にも満たない時間だった。

 そこまでの感情を抱かれるようなことをした覚えはない。

 そんな俺に、リタは呆れ果てたような溜息を漏らす。


「ある日突然、雲上の人だと思っていた人物がやってきて、窮地にある自分を救ってくれた。あの年頃の少女が好意を抱くには十分な理由ではないですか」


「人がせっかく回りくどい言い方で表現したのに、そんなあっさりと好意とか口にするなよ」


 確かに、話だけ聞けばそうかもしれないが。

 そもそも。俺が彼女と出会ったのは王印の短剣を盗まれたからだ。山賊たちから彼女を助けたのはそのついで。もっと言えば、若き戦士との約束を守っただけだ。

 ちなみにだが。ラキアが王印の短剣を盗んだことについては、リタには内緒にしてある。

 彼女のためというより、俺が叱られたくないからだ。

 要するに自己防衛。それだけ。


「……まあ、将軍閣下がそういった扱いを好まれないのは重々承知していますが」


 黙り込んでいる俺に、リタは諦めたようにそう零して、ワインを一口飲んだ。


「だとしても。宮中の晩餐会やらの誘いを断りっぱなしなのは良くありません」


 どうやら、ラキアに関する話題は終わりのようだ。その代わり、説教が始まるらしい。


「だって堅苦しいんだもん」


「だもん、じゃありません」


 答えた俺に、リタが叱るような声を出す。


「このままでは、他の大貴族や重臣の方々との溝は深まるばかりですよ」


 そんなこと言われてもな。

 宮中の晩餐会は実際、堅苦しいどころじゃないのだ。

 誰がどの席に座り、何の話をどの順番で話すか、料理をどう食べるかまで決まっているのだ。あんなものは食事とはいわない。認めない。

 不謹慎かもしれないが、あんな場所で物を食べるくらいなら戦闘真っただ中の陣中で干し肉でも齧りながら剣を振っていた方が数億倍マシだ。

 などと考えている俺に、リタは憂いに満ちた吐息を漏らす。


「ただでさえ、将軍の行った軍制改革のせいで昔気質の貴族たちから目の敵にされているというのに。味方を増やさなくてどうしますか」


「改革ってほど、大した事じゃないと思うんだけどなぁ……」


「国王を中心とした軍制度を整備して、常備軍を編成したことが大したことではない?」


 本気で仰っているのですかと、リタが非難するような目を俺に向けた。

 そう言われても、俺からすれば今までのこの国の軍制度がおかしかったのだ。


 元々。この国の王が自由に使うことのできる戦力は近衛騎士団のみだった。

 如何に国中から集められた精鋭が揃っているとはいっても、たかだか二百人程度の人数では戦争などできない。

 そこで、戦時には各地の諸侯たちを招集して、彼らが従える騎士団を中核として軍を編成するのが一般的な流れだった。

 だが、これが酷く手間がかかる。誰が何人の騎士を出すか、どれだけの兵を集めるか。そのための資金や資材は誰が、どの程度の割合で出し合うのか。それに対する褒賞はどれほどか、等々。

 それらを取り決めた上で、貴族一人ひとりと契約を結ばなければならなかったからだ。


 これまでは、それでもよかった。

 人間同士の戦はともかく、魔獣や魔物などといった闇の勢力が何か大きなことを企んでいる時には、それを警告する者たちが居たからだ。

 それは星々の瞬きから世界で起きていることを見通す上古のエルフだったり、世を放浪する魔法使いたちだった。

 賢者たちと呼ばれる彼らは、古くから只人では見通すことのできない闇の深淵を覗き、暗闇の裡に隠された恐るべき企みを暴いては、諸国に危機を知らせてきた。王や諸侯は彼らからの警告を受けて、軍を集結させるなどして危機に備えることができたのだ。

 ちなみに、いま俺が任されている将軍職とは本来、こうして編制された臨時の軍の指揮を執るため前もって王から指名されていた者の役職だったそうな。つまり、本当なら平時には名誉はあってもやることが無い肩書きのはずだったのだ。


 だが、三年前の魔獣大襲来と、その後に続いた魔軍戦争は違った。

 賢者たちからの警告が無かったのだ。或いは遅れたのかもしれないが。

  ともかく、中央三ヶ国の国々はまったく備えが無い状況のまま、魔獣の群れや魔軍の侵攻に対処しなければならなくなった。

 その結果として、初戦における混乱は酷いものだった。

 敵が攻めてきているというに、一々契約だのなんだのと言っていたのだから、それはそうなるだろうとは思ったが。

 あっちの軍資金の負担が大きいだの小さいだの。こっちの方が多く兵を集めたのだから兵站はそっちでやれだの。聞いているだけで頭が痛くなるような話し合いだった。


 だから、戦争が終わって、この国の将軍に任じられた時。

 俺はそうした手間をかけずとも、王の一存で動かすことのできる戦力を整えることにした。

 近衛騎士団とはまったく独立した指揮系を持つ、王直轄の常備軍。

 王軍の設立である。

 兵士は平民から募り、そこに各貴族が抱えている騎士団から、その規模に応じた人数の騎士を召し出してもらった。兵を訓練し、指揮を執ってもらうためだ。

 ゆくゆくは王軍の中にも指揮官を養成する制度を作っていくべきなのだろうが、今はまずその下地を作らねばならない。

 王軍の規模は現在、約七千名。これを十二個の大隊に分けて運用している。

 最終的にはこの二倍ほどの人数を揃えたい。

 できる者は身分問わず取り立てるという王の方針によって、人材はどんどん揃ってきているし、それもそう遠くない未来の話だろう。


 兎にも角にも。こうして軍としての体裁はどうにか整ったのだが。

 当然、お抱えの騎士を召し出すことになった貴族たちの反発は物凄いものだった。

 リタが言うには、貴族がこれまで独占してきた武術や用兵などに関する知識が平民に知れ渡ってしまえば、自らを権威づけている後ろ盾が失われると思っているらしい。

 そんなもの、国が滅んでしまえば何の意味もないだろうと思うのだが。

 中には、頑として聞く耳を持たない者も居たので、仕方なく王から勅命を出してもらって押し通した。たぶん、それが恨みを買った一番の理由だろう。


 救いだったのは、当の召し出される騎士たちがこの計画に乗り気だったことだ。

 実際に現場で戦っている者が多いからか。彼らも上の意思決定の遅さに関してやきもきしていたのかもしれない。

 中には長年仕えてきた主家に背いてまで、王軍指揮官の座に就いてくれた者までいる。そこまでして協力してくれた彼らの存在が無ければ、王軍の設立などは夢のまた夢だったはずだ。


 そのほかにもまあ、部隊の編制やらなにやら、細かいことも色々とやったが。

 要するにまあ、俺がやったのはその場で一から軍を編成しなければならないという伝統を取っ払って、常備軍を打ち立てたというそれだけである。

 その方法も、別に俺が思いついたわけでは無い。

 今は無き北方王国の軍制度を流用しただけだ。

 その目的はただ一つ。もう一度、三年前と同じだけの戦いが起こったとしても、それを乗り越えられるだけの力を人間の国に持っていてもらうため。

 だから、貴族からどれほど嫌われようが気にはならない。


「ま、資金面に関してまったく問題が無かったというのも、追い風ではありましたね。魔軍から奪還した山々をドワーフたちに返すべきだという将軍の意見に従ったおかげで、彼らからは莫大な礼金が贈られてきましたから。そのおかげで、これほど早く復興も進んでいるわけですし」


 これまでの話を補足するようにリタが言った。

 また金の話だ。

 まあ、確かにドワーフから贈られてきた金銀財宝のおかげで、戦乱によって国庫が大きく傾いた三ヶ国はこれほど早く立ち直れたという話は聞いている。

 連中にもっとも高く売れるのは金銀財宝でも、魔法の品でもなく、恩なのだ。


「王軍の運用も軌道に乗り、各地の魔獣討伐や魔軍の残党狩りでは目覚ましい成果を出していますから、反対派の貴族たちもすっかり大人しくなりましたし……」


「つまり。もう俺なしでも大丈夫ってことだな」


 リタの言葉を引き継いで、うんうんと頷く。

 そうなのだ。ぶっちゃけ、一番の問題だった王軍の設立はどうにかなった。

 あとは放っておいても、俺よりも賢い連中がうまいことやるだろう。

 そうなるようにしたのだから。

 要するに、今の俺はお飾りの将軍なのである。

 しかし、リタはなにか言いたいことがあるようだ。


「もう、やめやめ」


 そんな彼女が口を開くより先に、何もかも放り出すような声を出す。


「せっかくサラさんが作ってくれた料理を、仕事の話しながら食べるなんてもったいない」


 言って、ナイフで切り取った肉を一つ、口に運ぶ。

 あの街の宿で出た料理も美味かったが、サラさんの料理は格が違う。

 わずかに赤身を残して焼き上げた肉は柔らかく、嚙むほどに繊維がほぐれて、肉汁が溢れだす。香辛料や香草で作られたソースの味は複雑で、一口ごとに違った味を楽しませてくれた。付け合わせの野菜は瑞々しく、ほっとするような味わいのスープにも、何の文句もない。

 だが、それでも。釣り上げたばかりの魚を焚火であぶって齧りつきたいなあと思ってしまう俺は贅沢なのだろうか。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ