三ヶ国通商協定 2
「通商協定を結ぶ上で、まず先に、そして最も大きな問題となったのが、三ヶ国のそれぞれで用いられている通貨単位と交換比率が異なるという点でした」
言いながら、彼女は俺の真向かいに腰を下ろすとポケットから幾つかの硬貨を取り出した。
「たとえば、これは我がアンヌ―レシア王国で使われているソブル金貨、シリン銀貨、グレイン銅貨の三種ですが」
言いながら、彼女は金貨、銀貨、銅貨を机に並べてゆく。
これは俺も見慣れたものなので、別に改めて説明されるまでもない。
「この三つの交換比率は、金貨1枚に対して銀貨が12枚、銅貨が432枚となっています。
対して、東のローセオン騎士国ではこちらのガレリア金貨、セイズ銀貨、ディポン銅貨と呼ばれるものが用いられており、この交換比率は金1に対して銀が25、銅が400と、我が国とは異なっています」
新しく取り出した金、銀、銅貨を、既に並んでいるものの横に置きながら、彼女は続ける。
「これは硬貨一枚あたりに含まれている貴金属の含有量の違いからくる差なのですが、それを説明したところで余計に将軍が混乱するだけなので割愛するとして」
机の上には二枚づつ並んでいる金、銀、銅貨を俺は見比べた。
正直、何が違うのか俺にはまったく分からない。
強いて言えば、刻印されている肖像や文字がちょっと違うかな、くらいだ。
そこへリタは、今度は色の付いた水晶のようなものを取り出した。緑、黄色、赤と三色に色分けされたそれを、彼女は並んでいる三種類の硬貨の横に置いてゆく。
「西のムトユルグ公国では、このシェルピーと呼ばれる領内の山から産出した晶石を特殊な方法で磨いたものが使われています。
そこで、三か国は話し合いの末に、まずこの通貨単位と交換比率を統一するべきという結論に至りました。
しかし、既に各国で流通している通貨を全て回収して、新しいものにつくり変えるというのは中々に現実的ではありません」
「はあ」
「そこで、これです」
リタが、俺の手から紙切れを取り上げて、掲げるように持った。
「この紙に記されている記号は各国の通貨に対応しており、その横にある数字はそれと同額の通貨と交換できることを意味しています。換金は協定を結ぶ三ヶ国にある交易所などで行うことができ、それを国家が保証することによって、この紙は記されているものと同額の価値をもつものとして扱われるのです。
……ここまでは、よろしいですか?」
「全然」
さっぱりだ。
首を横に振った俺に、リタはやっぱりとため息を吐いた。
「ちなみに、この紙幣を発案したのはシェルヘルミナ殿下なのですが」
「姫様が?」
リタの口から出た名前に驚いて、思わず聞き返す。
シェルヘルミナ・アンヌ―レシア。この国のお姫様である。
穏やかというよりは、ほんわかとしている印象の強いあの姫様が、こんな難しい事を思いつくとは。
とはいえ、まあ。曲がりなりにも王族だしな。俺よりも教養はあるだろうし。
「もちろん、細かな点については財務卿などと一緒に詰めたのでしょうが。きっかけは貴方だそうですよ、将軍」
「俺?」
補足するように口を開いたリタに、首を捻る。
しかし、そんなことをしたところで当然、思い当たるふしはない。
何故なら、俺は今までの話をほとんど理解していないからだ。
そんな俺に、リタは呆れたような顔で教えてくれた。
「以前、銅貨や銀貨は重くてかさばるから、持ち歩くのが大変だと漏らしたことがあるそうですね」
「ああ。それは」
言った、ような気がする。
実際、銅貨や銀貨は重いのだ。あの街で初めて手にした金貨はそれに輪をかけて重かった。
できるだけ身軽であるべしという旅人の信条からすれば、お金というのは結構な荷物なのである。
とか。そんな話をしたことがあるような、無いような。
「まったく。貴方がそんな調子では、殿下も浮かばれませんね」
おぼろげな記憶を手繰っている俺に、リタがやれやれと嘆息している。
そんなことを言われてもなあ。




