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若将軍は旅がしたい!  作者: 高嶺の悪魔
第二章 旅立ち

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いつもの流れ

 愚痴を飲み込んで、仕事を再開する。

 とは言っても、どこそこで魔獣の被害が出ただとか、人里の近くに魔軍の残党が棲みついているといった報告ならば、そこへ何名の兵士を送り込むよう指示を出すなど、俺でもある程度は考えられるのだが、やはり金銭の事となるとまったくもって分からない。

 なので、そういった書類は一旦、隣にいるリタへ回す。

 今も新設する衛兵隊の装備調達やらに関する予算を申請する書類を、ちらっと流し読みしてから彼女へ手渡した。

 リタはその内容を素早く確認すると、無言で突き返してくる。

 何かあれば言ってくるはずなので、要求されている金額は妥当なものなのだろう。

 なので、俺は何も分からないまま、書類にサインをする。

 大体が、こんな感じだ。

 本当に俺がやる必要あるんだろうか、これ。

 以前、そう零したところ、リタは「将軍は軍の全権を任されているのですから、与えられている予算をどのように分配するか、貴方が決裁しなくてどうするのですか」と叱られてしまった。

 そりゃ、言葉だけで言えばそうなのだろうが。


「っと、なんだこれ……? 街道の再整備に掛かる予算申請?」


 軍とは全く関係のない書類が出てきたので、その文面を読み上げながら、尋ねるようにリタへ視線を送る。

 こういう、全然関係ないところの書類が混じっていることはたまにあるのだが、それに彼女はああ、とため息のようなものを漏らしていた。


「それは内務卿から回されてきた案件です。街道の再整備に掛かる予算の一部を、軍にも負担することを求めています」


 内務卿というのは、王から国事を任されている国務卿の一人だ。

 国務卿は他にも外務卿、財務卿、法務卿などがいるのだが、その中でも内務卿は国内における行政の大半を担っているということもあって、大きな権限を持っているのだという。

 まあ、難しいことは良く分からないが、とりあえずこの国において、王や宰相に次ぐ偉い人だそうな。


「でも、街道の整備は軍と関係ないだろ?」


 作業員を護衛するために兵士を貸してくれと言ってくるならまだしも。

 そう思いながら訊いた俺に、リタは呆れ混じりの声で説明した。


「街道は騎士団や兵たちも利用するから、軍からも予算を出せというのがあちらの言い分です」


「はあ……」


 そりゃ、まあ。そうだが。

 なんだか納得がいかないと思っていると、どうやらリタも同じように考えているらしい。

 困ったようにこめかみを押さえている。


「他にも、隊商が使うからと商務卿に、外国の特使を受け入れる際、整った街道は必要不可欠であるとかいって外務卿に、果ては財務卿に脅しまがいの言葉で、予算の増額を迫っていましたね」


 やれやれと首を振るリタに、なんとなく理解する。

 つまり。この内務卿からの要求は筋違いだが、無下に断ることもできない案件、ということのようだ。

 軍もそうだが、各国務卿は与えられた予算の中から、与えられた仕事を遂行する。

 そのもとになるのが、国庫。要するに国家予算というヤツだ。

 この一年、体感で学んだに過ぎないが、国務卿の主な仕事はまずもって、この国家予算を奪い合うことにある。その次に、何か事業を行う際には、如何に自分の財布から金を出さないかが重要であるようだった。

 もちろん、俺は難しいことなどほとんどわからないのだが、前にこの考えを口に出した時には、リタも「まあそのようなものですね」と頷いていたので、認識としては間違っていないのだろう。

 となれば。

 そうだなあと、天井を仰ぐ。

 軍だって、予算が潤沢なわけじゃない。これでも結構カツカツでやっている……らしいのだ。

 金を出さずに済むなら、それに越したことはないだろう。

 そんなことを考えながら、思いついた言葉をぽつぽつと口にしていく。


「……だったら、作業員の護衛に、騎士を何人か出すから、タダにしてくれないかな」


 街道の再整備という事は、常に村や街の近くで作業できるわけでもないだろう。

 夜には野営をする必要があるかもしれない。

 そうなれば、魔獣ではなくても野獣に襲われる危険はぐっと高くなる。当然、オークやゴブリンといった化け物のことも忘れるわけにはいかない。

 もちろん、護衛は付けるつもりだろうが、一般の兵士や一時的に雇った傭兵たちよりも、王都の騎士団が守ってくれるとなれば、作業員だって集まりやすいのではないだろうか。

 そんな考えをたどたどしく語ったところ、リタはほうと、感心したような声を出した。


「それは良い案ですね」


 あ、畜生。どうやら、また良い案を出してしまったらしい。

 思わず顔を顰めるが、リタはもう俺になど目もくれていなかった。


「派遣する騎士たちの手当はこちらで持つといえば、悪い顔はしないでしょうし……その方向で交渉してみましょう」


 ほっそりとした形の良い顎に手を当てて、彼女はぶつぶつと呟きながら手元の紙に何事かを書きつけてゆく。

 この流れは、今までにも何度かあった。

 俺が適当に口にした思いつきを、リタが具体的な案として組み立て直す。

 そして、実際に知恵を出しているのは彼女だというのに、何故か、俺が発案したものとして王やその周辺に陳情するのだ。なんだか手柄を横取りしているみたいで嫌だとは何度もいっているのだが、彼女は聞く耳も持たない。

 結果。俺はできる奴だという評価を賜り、余計な名声が高まると共に余分な仕事が増える。

 最近でいえば、たとえば魔獣や魔物討伐の報奨金制度がそれだった。


「ふむ。では、午前中はひとまず、ここまでにしておきましょうか」


 また何か面倒が増えるんじゃないかと心配している俺に、書類を一枚片付けたリタが告げた。

 それに、俺はぐったりと椅子にもたれ掛かって脱力する。

 朝からぶっ通しで、ようやく一息つけるらしい。

 七日七晩、山の中でオークを追い回したあとよりも疲弊している気がする。

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