表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
若将軍は旅がしたい!  作者: 高嶺の悪魔
第一章 銀髪の放浪者

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

19/121

第十九話 女の敵に鉄槌を

 それから半刻ほど。周囲の森を捜索して、オークの生き残りがいないことを確かめてから、俺は砦へと戻った。

 山賊たちはすでに戦いが終わったと思っていたらしい。砦の前では、大きな焚火が焚かれていた。


「おうおう、お疲れさん! 本当にあのバケモンどもを一人で皆殺しにしたのか!」


 戻ってきた俺を見て、山賊の首領である大男が大声を出した。

 その背後には手下どもがずらりと並んでいる。


「……何をしている」


 俺は目を細めながら訊いた。

 大男の脇に、ラキアたちの姿があったからだ。全員、手を後ろに回されている。


「まあまあ、そう怖い顔すんなよ」


 一歩踏み出した俺を制するように、大男は片手を上げた。


「お前が強いのは分かった。王都の騎士ってのは、本当だったんだな。笑って悪かったよ」


「何をしているのかと、聞いたんだが」


 卑しい笑みを浮かべながら言う大男に、俺はもう一歩近づいた。

 すると。


「待て待て! 俺たちはもう、お前とやり合うつもりはねえんだ!」


 言いながら、大男はラキアの髪を掴んだ。

 あ、とラキアが痛みに声をあげる。大男は彼女の髪を持ち上げるようにして、無理やり自分の前に立たせた。


「なあ、取引といこうや。俺たちを見逃してくれたら、お前の持ち物は全部返す。あの金ぴかの短剣もな」


 提案するような口ぶりで言って、大男はみすぼらしい上着の物入れから、俺が回収しなかった二つの指輪を取り出して焚火の灯りにかざした。


「アンタ、馬鹿じゃないのか? 相手はあの数のオーク相手に、たった一人で勝つような剣士よ? どんな得があって、そんな取引に応じると思ってるわけ?」


 黙って大男の話を聞いていると、俺が心の中で思っていたことを、ラキアが代弁してくれた。


「うるせえ!! 黙ってろ小娘!!」


 そう言った彼女を、大男が地面に引き倒した。

 叩きつけられたラキアが苦しそうに呻き、それを見た女性たちが悲鳴を漏らす。

 ちょっと。いい加減にして欲しいな。これは。

 化け物以外はできるだけ殺したくないんだ。俺は。

 そう必死に自分を押さえつけている俺の前で、大男は指の間に残ったラキアの紅い髪を鬱陶しそうに払いながら言った。


「当然、ただでとは言わねえよ。この女どもも解放してやる。いや、どうだ。こいつらを、お前にくれてやろうか? このガキ以外は俺たちのお手付きだが、まだまだぐ――」


 駄目だった。

 気付けば、激情のままに抜き放った剣を大男めがけて投げつけていた。

 だが。怒りに身を任せたのが不味かったのか。それが結果として良かったのか。

 剣は激しく回転しながら大男の頬をわずかに裂いただけで、そのまま大きな音とともに、背後にある砦の壁に突き刺さった。

 鋼とはいえ、剣が石の壁に突き刺さったのを見た山賊たちが唖然とした顔を俺に向ける。

 大男もまた、言葉を失っているようだ。

 そいつに向けて、俺は踏み出した。


 故郷で、俺を教育した人の一人が言っていた。

 この世には、女の大敵が三つあると。

 一つは化けオーク

 一つは冷え。

 最後は、化け物によく似た、浅ましい獣欲に支配されたろくでなしども。


 この教えを受けた時は、正直、いまいち意味が分かっていなかった。

 だが。

 化け物は殺さねばならない。これは俺にも分かる。

 冷えは正直、男の俺にそれを教えてどうしろというのかと、今でも思っている。

 そして。三つ目。なるほど。これは、敵だ。今なら分かる。

 その人は言っていた。そんなろくでなしに対する報復はただ一つ。

 ただただ、鉄槌を下すのみ。

 その教えと共に、俺は左手を思いきり握りしめた。


「ひっ――」


 それを見た大男が、怯えたように後ずさった。下がった先に小石でもあったのか。足が縺れたのか。腰でも抜けたかのように、その場に尻もちをつく。


「殺しはしない」


 恐怖に満ちた大男の顔を見下ろしながら、俺はそう言って。

 その顔面目掛けて、拳を振り下ろした。

 鼻が砕けて、歯も何本か折れただろう。意識は当然、残っていないはずだ。

 だが、殺してもいない。

 ずしゃりと、大男の身体が地面に転がった。


 しんと静まり変える森に、薪の弾ける音だけが響く。

 その中で、俺は遠巻きにこちらを見ていた山賊たちへ顔を向けた。


「俺の短剣は?」


 静かにそう訊くと、何人かが悲鳴のようなものを漏らしながら砦の中へ駈け込んでいった。

 すぐに戻ってきたそいつらの一人が、怯えたように俺の前へ進み出てくる。

 その手には黄金の柄に大小さまざまな宝石の散りばめられた短剣が乗っていた。

 差し出されたそれを受け取って、ベルトの間に挟み込む。

 それから、俺は山賊たちに言った。


「全員、砦の中に戻れ。俺が街の自警団を呼んで戻ってくるまで、誰一人外には出るな。一人でも居なくなっていたら、森中を捜索してでも探し出す」


 流石に。首領だけ叩きのめして、はい、お終いというわけにもいかないだろう。

 それに、この大男に従っていた以上、こいつらも無罪ではないのだ。

 山賊たちは俺の命令に、反撃も反論もせずに従った。

 そいつらに命じて、気を失っている大男も砦の中に運ばせる。目を覚ませば碌なことをしないだろうから、手足を縛って口にも何か布を嚙ませておくように言っておく。

 それから、手持ちの中で最も清潔な布を持って来させた。

 解放した女性たちに渡すためだ。

 砦の壁に突き刺さったままの剣も回収した。かなり乱暴に扱ったから、刃毀れくらいはしているかもしれないと思ったが、驚いたことに刀身にはひび一つない。

 流石、ドワーフ製だなと感心しながら、それを鞘に納めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ