第十四話 本人曰く「割と簡単な技術です」
「おうおう、なんだぁ? 二人して、随分と元気そうじゃねぇか」
扉を開けて入ってきたのは、あの大男だった。一緒に三人の手下が入ってくる。
部屋に入りきらない連中は外で待たせているようだ。
ラキアが弾かれたように立ち上がり、部屋の奥で怯えている三人の女性を庇うように立つ。俺はそんな彼女たちに背を向けて、大男の前に進み出た。
これで、ラキアたちを人質にとられる心配はしなくていい。
「あん? 何だ、もしかして、やろうってのか?」
前に立った俺を見て、大男が馬鹿にしたように笑う。
「丸腰のくせに、いい度胸じゃねぇか。女の前で良い恰好したいってか?」
それに手下どもまで声を合わせて笑いだす。
「丸腰じゃないけどな」
俺はそう応じて、右足。履いているブーツに手を伸ばした。
取り出したのは、ブーツの底に仕込んでおいた小さなナイフ。
ナイフといっても、その刃は錐のように尖ったもので、何かを切ることはできない。それに握りもない。リング状になっている部分を指輪のように指に嵌めて使うのだ。
俺がナイフを取り出したのを見て、山賊たちの顔に一瞬、緊張が走った。が、それもすぐに、己の優位性を疑わない笑みへと転じる。
「なにかと思えば……そんな小せえナイフで、何しようってんだ? 林檎でも剥いてくれんのか?」
大男が言って、手下が笑う。
もう何回目だ、この流れ。飽きないのか、こいつらは。
「いや。十分だろ、これで」
ナイフのリングに左手の薬指を通して握り込みながら答えると、途端に山賊たちが殺気立った。
おお。どうやら、この程度の煽り文句は理解できるらしい。
「そんなに言うなら、やってもらおうじゃねぇか」
と、大男の横から進み出てきたのは、木から削り出した棍棒を持った禿げ頭の山賊だった。
「いいですよねえ、お頭? 仕掛けてきたのはコイツの方ですから」
「殺すなよ」
了解をとってくる禿げ頭に、大男が詰まらなそうに答える。
「安心してください。ちょっと手足全部と、あばらを何本かぶち折るだけですからねえ!!」
そう言って、禿げ頭が俺に向かって棍棒を振りかぶる。
手足を折るとか言っていたくせに、思いきり大上段から振り下ろしてくる。
骨をぶち折るっていうか、頭をかち割る気満々だ。
だが、動きが大振り過ぎる。隙だらけだ。
禿げ頭が棍棒を振り下ろすその瞬間を狙って、一歩、その懐に踏み込む。
「くたば――」
禿げ頭の言葉は最後まで続かなかった。
俺が左手に握り込んでいるナイフの切先が、その喉元にぴたりと当たっているからだ。
「動くなよー、棍棒振り下ろしたら、コイツがお前の喉笛に突き刺さるぞー」
そう言いつつ、本当に喉を掻き切らないように力加減に気を付ける。
オークのような連中だが、人間だ。
人間はできるなら傷つけたくないし、殺したくもない。
「てめえ……!」
と、今度はナイフを手にした山賊が突っ込んできた。
その刃は俺の持っている物よりも大きいが、問題はない。
山賊の足さばきに目を落として、一歩、二歩。
今だ。山賊がナイフを突きだした瞬間、右足をわずかに後ろへ引く。
「うっ――」
今度はナイフ持ちが動けなくなった。俺が禿げ頭に突きつけていたナイフを、素早くその喉に当てたからだ。
「こ、この野郎……」
「しゃべるのもやめといたほうがいいんじゃないか?」
言って、皮膚を裂かない程度の力で喉に刃を押し当てる。
それにナイフ持ちはうっと唸って、身を引いた。入れ替わりに禿げ頭が突っ込んでくるが、もう一度その喉に刃を突きつけると、すぐに大人しくなる。
その後も、ナイフ持ちと禿げ頭が入れ替わり立ち代わりに突っ込んできた。
まともな戦闘訓練を受けたことが無いらしく、ろくな連携も取らず、がむしゃらに突っ込んでくるので、喉を裂かないようにするのが大変だった。
そうやって、しばらく二人からの攻撃を捌いたところで。
「彼女たちを解放して、俺の剣と持ち物を返してもらおう。そうすれば、痛い目に遭わずにすむぞ」
ちょうど禿げ頭の番になったので、その喉にナイフを突きつけながら、俺は先ほど大男から言われた言葉をそのまま返した。
もう十分、実力差ははっきりしたと思ったのだが。
「んだとぉ……」
それを聞いた大男は額に青筋を浮かべると、手下たちを怒鳴りつけた。
「てめえら、何を遊んでやがる! そんなちっちぇえナイフ一本で、いいようにされやがって!!」
「で、でもよぉ……お頭ぁ……」
「こいつ、とんでもなく強ぇっすよ……」
俺が手を抜かなければ、かれこれ数十回は死んでいることを理解しているのだろう。
怒鳴り散らされた手下たちは口々に泣き言で反論する。
「黙れ馬鹿野郎ども! おい!」
それを一喝して、大男は背後に控えていたもう一人を肩越しに呼んだ。
進み出てきたのは、剣を持った山賊。先の二人よりも背が高く、黒い前髪をやけに長く伸ばしている。
「こっちの方が数は多いんだ! 一斉にかかれば、どうってことねえ!」
大男がそう檄を飛ばすが、そこまで言うなら自分でかかってくれば良いだろうに。
そう思っていると、背の高い山賊が剣を抜いた。鉄の剣だ。あまり手入れしていないのか、刀身はところどころ鈍く光っている。あれじゃあ、大した切れ味でもないだろうな。
俺がそちらばかりに気を取られていると思ったのか。ナイフ持ちが切りかかってきたので、禿げ頭を突き飛ばしてそれを避ける。
自由になった禿げ頭が再び、俺に向き直った。
どうやら、お頭の檄が効いたらしい。その顔には、自信ありげな笑みが滲んでいた。
どこまで単純なんだ、こいつら。
あ。
あけましておめでとうございます。




