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若将軍は旅がしたい!  作者: 高嶺の悪魔
終章 新しい旅へ

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終章 新しい旅へ 4

 しん、と。

 唐突に、あれほど騒がしかった戦場が静けさに満ちる。

 オークの喚き声も、騎士たちの蛮声も。その両者が撃ちあう剣戟の音さえ止んだ。

 ここにある全ての目が俺たちに注がれているのが何となく分かった。

 人間であればちょうど顔面のど真ん中に光の刃を突き刺されたまま、ウータヴァルは微動だにしない。メイスを今まさに、俺に叩きつけようという姿勢のまま固まっている。

 俺もまた、身じろぎ一つせずに光刃によって貫かれた青い鬼火を睨みつける。

 自分の鼓動と呼吸の音ばかりがうるさかった。


 その静けさを突如、板金を引き裂くような甲高い絶叫が引き裂いた。

 肌が泡立つような悍ましい叫びはウータヴァルが発しているものらしい。

 鎧の関節部のそこかしこから黒い蒸気が噴き出して、俺とヤツを中心に風が奇妙に渦を巻き始める。

 ウータヴァルの手からメイスが落ちた。ごぉんと、重い音をさせて巨大な戦鎚が地面に転がる。それからヤツは全身をがくがくとさせながら、空いた手を俺に向かって伸ばした。

 それを思わずのけ反って躱しそうになるのをどうにか堪えて、俺は霊光の剣をさらに奥深くヤツの兜の内側へとねじ込む。

 すると、鎧から噴き出す蒸気の勢いがさらに増し、鼻先まで迫っていた黒鉄の手甲が、がらがらと音を立てて崩れた。

 崩壊は手のみに留まらず、腕甲が、肩当てが、脚甲が、そして胸甲が。次々と崩れてゆく。

 遂に、兜の中に灯っていた青い鬼火が消えた。とげとげとした黒鉄の兜が形を失って、排煙のような黒い煙に溶けてゆく。

 それは俺の周りを吹き荒れるつむじ風に乗って、やがて朧げな人の形をとり始めた。

 初めに煙が形どったのは、雄々しく逞しい戦士の姿だった。だが、その肉体はみるみる内に萎びてゆき、枯れ木のように痩せ細り、最後には影とも煙ともつかないものへと変わる。

 それでも影は俺のことを捕えようと手を伸ばそうとして、颯爽と吹きこんだ西風にさらわれて消えた。

 影が吹き飛ばされていった方向へ目を向ければ、中央大連峰の山々を赤い光が縁取っている。

 どうやら、夜が明けようとしているようだ。

 空を覆っていた暗雲もいつの間にか晴れ、空には夜明け前の星々が静かに瞬いている。


 黒鉄の幽鬼、ウータヴァル。

 そう呼ばれるようになる以前の奴は、誰からも尊敬される人間の戦士だったという。

 並々ならぬ腕力と強靭な意思で、数多の怪物を討ち取った英傑。

 それが何故、敵であったはずの闇の王の手先になど成り下がったのか。一説によれば、鍛え上げた鋼の肉体が老いによって失われてゆくことに耐えきれなかったからだという。

 そこをつけこまれたのだろうか。如何にもあの馬鹿のやりそうなことだ。

 確かに、ヤツは闇の王に与えられた力によって人の身では決して手に入れることのできない力を得ることができた。

 しかし、結局は肉体を失い。磨き上げてきたはずの武技まで失った。

 闇に堕ちた者を哀みはしないが、消える間際に見たヤツの姿は惨めだった。


「やっぱり、闇になんて堕ちるものじゃないな」


 一人、朝焼けを見ながら感傷に浸って呟くと、雄大な山々の隙間からさっと朝日が差し込んだ。

 途端、オークどもが恐慌に陥ったように喚きだした。

 あの命知らずの人殺し好きの化け物どもが、泡を食って逃げ去ってゆく。

 先ほどまで劣勢に立たされていた騎士たちは、それを見て追撃に移る。

 その光景をぼんやりと眺めていると、ようやく実感が湧いてきた。

 どうやら、勝ったらしい。


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