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若将軍は旅がしたい!  作者: 高嶺の悪魔
終章 新しい旅へ

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終章 新しい旅へ 1

 吹き鳴らされた角笛の音色と共に、騎乗した騎士たちが地響きを轟かせながら丘を掛け下ってくる。

 圧巻ともいえるその光景を、俺はどこか気抜けした心持ちで眺めていた。

 東の空から差す山吹色の光を黄金の兜に反射させながら先頭を進むのはローセオンの騎士王、レイズゲル王だろう。その彼をローセオンの国旗を掲げた旗手と、豪奢な鎧を身に纏った騎士が追走している。

 突撃時に国旗を掲げて全軍の先頭を進む旗手は、騎士の中でも最も卓越した馬術の技量を持つ者だ。流石は騎士の国、ローセオンというべきか。旗手と馬は、人馬一体という言葉そのままに、疾走するその姿は一種の芸術品のようだ。

 そして、その旗手と併走してなお見劣りすることのない手綱さばきのあの騎士は、まあ間違いなくサルタン侯爵だろう。

 その彼らが率いる騎士たちも見たことのある顔ばかりだ。

 ローセオンの騎士だけでなく、アンヌ―レシアの近衛騎士団長のユースタスや、元近衛騎士のマルクロメイン伯爵までいる。

 まさかこれほど早く援軍が来るとは思ってもみなかったが、その顔触れを見れば納得できる。どんな強行軍にも耐えられるだけの、とびきりの精鋭だけを引きつれてきたという事だろう。

 となれば。

 そう思って、騎士たちが突撃を始めた丘の上に目を向ける。

 やはり、いた。

 黒い法衣のような服を着た、眼鏡の女性。リタだ。

 どんな魔法を使ったのか知らないが、アンヌ―レシアの王都からここまで近衛騎士を連れて救援に来るなんて、そんな離れ業が出来るのは彼女しかいない。


 それまで俺たちを取り囲もうとしていた魔軍の一部が、新たに出現した敵を迎撃しようと隊列を組みなおしている。

 が、ローセオンの騎士たちはそれを意に介することもなく粉砕した。


『おのれっ』


 ウータヴァルが忌々しそうに唸った。


『愚図どもめ。やはり、所詮はオーク。雑兵の役にも立たぬか』


 どうやら怒りの矛先は自らが率いてきた化け物に向いているらしい。

 まあ、確かに。オークどもは虚を突かれたとはいえ、数ではまだ勝っているのだ。

 まともに戦えば負けることはない。

 だが、迎撃しようとしたオークの一群は瞬く間に騎士たちに蹴散らされて、今は右往左往しているだけだ。

 肝心の指揮を執れる頭のいいやつが少ないのだ。

 戦意こそ失ってはいないが、今の連中はただ殺戮本能のままに動くけだものに過ぎない。いくら数が揃っていようが、個々で襲い掛かってくるオーク相手に、集団で戦う騎士たちが負けるわけがない。


 オークどもを蹴散らしながら、レイズゲル王率いるローセオンの騎士たちは化け物の海で孤軍奮闘しているノーバスター卿たちの下へ向かっていく。

 が、その途中で一騎だけ隊列の中から抜け出してこちらへ駆けてくる騎士がいた。

 いや、正確には騎士ではないが。それは、今ここで一番会いたかった人物だ。


「随分と苦戦しておられるようですな、若」


 毛並みの良い栗毛の馬を駆って化け物どもを次々と切り伏せながらやってきたその人物は馬上からにやりと俺に笑いかけた。


「アルド!」


 思わず駆け寄りそうになるのをどうにか堪えた俺の前で、アルドは馬上からひらりと身体を躍らせた。


「若、周りの有象無象はお任せあれ。若はその敵に集中して下さい」


 剣を握る手の指に緑柱石の輝石を煌かせながら、アルドは群がってきたオーク数匹をたったの一太刀で斬り伏せて、馬を逃がしながら俺にそう言った。

 その剣はまさに閃光。

 同じく魔法の指輪で強化されているはずの俺の目でも、彼の剣閃は追えない。

 そりゃそうだろう。今、北の一族で最強の剣士は誰かといえば、間違いなく彼なのだ。

 たとえ一万のオークが相手だろうと、アルドが負けるところなど想像できない。


「相手を変わってくれるんじゃないのか」


「何を言ってるんですか。年寄りに無茶させるものじゃありません」


 ちょっと甘えたことを言ってみた俺に、アルドが呆れたように返す。

 まあ、見た目は若作りでも、もう七十越えてるもんな。

 下らないことを言い合っていると、気分が良くなった。

 改めて、ウータヴァルに向かい剣を構えなおす。


「若ならば大丈夫です。貴方は我が一族最高の剣士なのですから。勝利への執着と諦めの悪さだけなら誰にも負けないでしょう」


 褒められているのかどうかよくわからない激励の言葉を背に受けて、俺は再び黒鉄の巨人に対峙した。


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