馬蹄砦の合戦 16
やってきたのはレイブンだけでは無かった。
「おう、坊主じゃねぇか!」
「やっと追いついたぜ!」
がっはっはっと笑いながらオークの群れをなぎ倒してやってきたのは、ドワーフたちだ。
自らの身長ほどもある斧で鉄の胴鎧ごとオークを叩き斬る彼らが言うには、本城から出撃して今ようやくここまで辿りついたところらしい。
まあ確かに、身長とか足の長さとか。種族的な問題で足は遅いよな。
出撃前は散々、騎士隊じゃなくて自分たちに先陣を切らせろと駄々こねていたのだが。短距離なら馬にも勝てるとかやっぱり嘘だったんじゃねえか。
まあ、ともあれ助かった。
一人でオークの軍勢相手にしながらウータヴァルと戦うのは流石に無理がある。
ドワーフはこの大陸に住む主要三種族の中で唯一、オークに対して力負けしない。続々と追いついてきたドワーフの戦士たちがオークの群れを蹴散らしてゆくのを見て、頼もしい援軍に気分と口の端が緩んだ。
「坊主、背中は任せろ」
ドワーフたちを引き連れてきたゴウェルがひときわ大きな鉞を振り回しながら言った。
顎をしゃくった先にいるのはウータヴァルだ。
「流石のワシらでも、アレ相手じゃ荷が重いわい」
鉄の胴鎧を着こんだオークを力任せに叩き潰しながらそんなこと言われても信ぴょう性がないんだけど。
それにウータヴァルなら絶賛、レイブンが相手をしている。
ウータヴァルも先ほどの門前での戦いでヤツの鬱陶しさ、じゃなくて手強さを実感しているからか。例の衝撃波を出し惜しみもせずに打ちまくっている。
それもレイブンはゆらゆらとした影のような動きで躱しながら、ウータヴァルにぴったりと張り付いて離れない。一撃でも喰らえばただじゃすまないというのに。
アイツ、本当に怖いもの知らずだなと感心してしまう。
しかし、相手は疲れも知らない幽鬼だ。何時までも一人では分が悪いだろう。
そう考えた俺は、オークはドワーフたちに任せてレイブンに助太刀しようと駆ける。
飛んでくる衝撃波を避けつつ、やり合っている二人の間合いに入ったところで。
何故か、ウータヴァルのメイスではなく斬撃が襲ってきた。
「何してんだお前はっ!?」
完璧に首を刎ねる気で放たれた一閃を大きくのけ反って躱してから、なんのつもりだとその犯人を怒鳴りつけた。
「こいつは俺の相手だ」
それにレイブンはウータヴァルへの攻撃の手を止めることもなく応じた。
「さっき負けてただろうが」
「俺もこいつもまだ死んでない」
いや、そいつそもそも死なねーし。
というツッコミを心の中でしつつ、俺もウータヴァルに斬りかかった。
どうせコイツに協力なんて持ち掛けても無駄だろうし。もう勝手にやろう。
もちろん、連携など気にしない。各々、好き勝手に動いて、好き勝手に攻撃するだけだ。
しかし、返ってそれが良かったのかもしれない。
二人掛りの猛攻はさしもの黒鉄の幽鬼でも捌ききれないようだ。
レイブンの予想できない動きに、俺の堅実な一手。ウータヴァルがどちらに対応しても、もう片方が確実に一撃を入れる。そうやって幾十、幾百と剣を叩きつけて、黒鉄の巨人をじりじりと後退させ、遂に第二の壁まで押し込んだ時だった。
『エルフ、ドワーフのみならず、このような狂犬まで手懐けたか』
城壁を背にしたウータヴァルが、俺たちの攻撃をまるで無視するように背を伸ばした。
どこをどう見たら俺がレイブンを手懐けているように見えるのか分からないが、その口調にはまだまだ余裕が感じられる。
くそ、こっちはもう息が上がり始めているというのに。
やはり、どうにかして決定的な一撃を入れなければと焦り出した俺の前で、ウータヴァルが巨大なメイスを頭上に振りかぶった。
同時に、黒鉄の鎧から立ち昇る禍々しい気配が膨れ上がる。
怖気のするような妖気に、反射的に距離を取った俺とは反対に、レイブンは敵に突っ込んだ。敵が動きを止めたから、好機と見たのだろうか。
しかし。
「伏せろっ!!」
俺が警告を叫ぶのと同時に、ウータヴァルが振り上げたメイスを地面に叩きつける。
瞬間、足元が爆発した。
足元から噴き上がる爆風に煽られて、身体が宙へと浮き上がる。
どうにか地面に踏みとどまろうと踏ん張っっていると、背後から気配。
巻き上がる土煙の向こうから、空気を割くように衝撃波が飛んできた。いつの間に回り込まれていたのか。慌てて身を捩じりながら精霊鋼の刃でそれを受け止める。
だが、浮いた身体は衝撃に抗えない。弾き飛ばされ、城壁に衝突する。
全身を強く打った衝撃からどうにか立ち直ろうと顔を上げたところへ、再びウータヴァルがメイスを一閃させた。
くそ、と舌打ちをしながら剣とナイフを交差させてメイスを受け止める。
まるで山がぶつかってきたような衝撃に鉄のナイフがばきんと音をたてて砕け、吹き飛ばされた身体がそのまま背後の城壁を突き破った。
成すすべもなく吹き飛ばされた先で、地面に無様に転がる。
朦朧とする頭を抱えながら身体を起こすと、目の前にウータヴァルが立っていた。
黒い全身鎧を纏った巨人を無感動に見上げていると、その背後からドワーフたちが慌てたように砕けた城壁の向こうから走ってくるのが見えた。
周囲の状況はぼんやりとしか分からないが、馬蹄砦周辺の平原は敵で埋め尽くされているようだった。どうやら、砦の内部に入り込んでいたオークは軍勢の一部に過ぎなかったらしい。
聞くに堪えないオークどもの罵声に混じって、何処からか剣戟の音が響いてくる。
ノーバスター卿たちがまだ戦っているのだろう。
ならば、俺も戦わなければ。
立ち上がろうと、萎えた膝に力を籠める。
そこへ黒鉄の拳が飛んできた。ガツンと、超硬度の衝撃が脳を揺らす。
そして、世界がひっくり返った。




