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若将軍は旅がしたい!  作者: 高嶺の悪魔
第七章 馬蹄砦の合戦

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馬蹄砦の合戦 15

 ラウルの背から空中に飛び上がった俺を見て、ウータヴァルが手にしている巨大なメイスを振り上げた。身を捩ってそれを躱しながら、着地するまでの間に頭、胴、そして膝に精霊鋼の刃を叩きつける。

 もちろん、手傷にはならない。ただの嫌がらせだ。

 足が地面に着くと同時に、大きく後ろへ飛んで距離を取る。


『……なるほど。エルフの協力を得たか。それもロスリオンの直枝とは。流石は、北方王家。やはり貴様の血筋は絶やさねばならぬ』


 兜の下に青く燃える鬼火で俺のことを見下ろしながら、ウータヴァルがゆっくりとメイスの柄頭を持ち上げた。

 応じるように、俺は左手で剣を構えながら右手で胸元に差しているナイフを抜く。

 ただの鉄製のナイフじゃ、精霊鋼の刃で傷一つ付かないあの鎧相手には役に立たないだろうが、今はとにかく手数で勝負だ。

 牽制しつつ、これからどうするかを考える。

 そんな考えを嘲笑うかのように、ウータヴァルのメイスが唸りを上げて迫る。

 本来であればこれだけの超重量、長射程の武器は取りまわした際の隙が大きいはずなのに、それをこの怪物はまるで小枝のように軽々と振り回す。

 半円を描くように振るわれる鉄塊を、腰をかがめて避ける。振り抜けた隙を打とうと剣を構えるがしかし、ウータヴァルは半月の刃が付いた柄頭を恐るべき膂力で制止させると、そのまま振り下ろしてきた。

 慌てて後ろに飛んで避けると、追いかけるように突きが飛んでくる。引き戻した剣でその一撃を弾こうとするが、逆に弾き返されてしまった。

 転びそうになるのを、何度か地面を蹴ってどうにか立て直す。

 額の右側から生温い感触が頬まで伝ってきた。少し切れたようだ。

 まあ、気にするほどの傷じゃない。血が目に入っては困るので乱暴に拭いながら剣を構えなおし、ナイフを逆手に持ち替える。


 戦闘態勢を整えたところで、ご親切にも待っていてくれたらしいウータヴァルへ斬りかかった。先ほどのように主導権を取られては、防戦一方になるだけだ。反撃の機会を与えぬように、ただひたすら、息つく暇もなく剣とナイフを繰り出す。

 数合の撃ち合いの末、わずかに出来た隙を突いてヤツの兜に渾身の力で精霊鋼の刃を叩きつけた。

 こぉん、と妙に澄んだ音が辺りに響く。

 魔法の指輪によって強化された腕力の全力だ。もしもこの剣が精霊鋼でできていなければ、砕けていただろう。

 だが、それでもウータヴァルの纏う鎧には傷一つつけることができなかった。


「一体、何でできてんだよ、それ」


 悔しさから思わずそう吐き捨てた俺に、ウータヴァルの目元に灯る青い鬼火がまるで嘲笑うかのようにちらちらと揺れた。

 次の瞬間、黒鉄の鎧から立ち昇る禍々しい気配が膨れ上がった。ヤツを中心に、風が渦巻き始める。

 これは城壁を打ち崩した時と同じだ。

 不味いと思って、ウータヴァルの兜に剣を叩きつけたままの体勢から後ろへ飛んだ。ほとんど同時に、ヤツの持つ巨大なメイスが横薙ぎに振るわれる。反応したのが早かったおかげでどうにか直撃だけは免れたが、振り抜かれたメイスから生じた衝撃波をまともに食らって、身体ごと吹き飛ばされてしまう。

 まるで質量を持った空気の塊に、思いきり胸を突き飛ばされたような感覚だった。

 そのまま、地面に背中を強かに打ち付けて呼吸が一瞬止まる。

 全身が砕けたような痛みを堪え、無理やり肺に空気を詰め込んで身体を起こす。

 来ると思っていた追撃は無かった。

 黒鉄の巨人は薄闇の中に君臨する王のように立ったまま、俺を見下ろしている。


『終わりだ、ルシオ・アルバイン』


 血の底から響くような重苦しく、空虚な声が静かに俺を呼ぶ。


『如何に上のエルフといえど、神性の薄れた今の世ではその力を十全に振るうこともできぬようだな。終わりだ、ルシオ・アルバイン。貴様も、貴様の仲間もだ』


 まるで死を宣告するようなウータヴァルの声とともに、ヤツの背後からオークどもがぞろぞろと現れた。手にした武器と、憎悪に歪んだ醜い顔に光る黄色く濁った瞳はまっすぐ俺に向けられている。

 そういえば、さっきよりも辺りが薄暗い。

 ちらと東の空へ目をやると、先ほどまで燦々と世界を照らし上げていた山吹色の光の柱が、まるで生き物のようにうねる暗雲に飲み込まれかけていた。

 くそ。

 小さな舌打ちが漏れる。

 考えて見れば、当然だった。

 あれほどの大魔術。如何にエルディン卿といえど、いつまでも発動させ続けることが出来るはずもない。


『終わりだ、ルシオ・アルバイン。敵ながら、貴様は良く戦った。だが、ここまでだ』


 地上に灯った小さな太陽が費えてゆく最中、奴が再び言う。


『しかし、貴様ほどの戦士がオークの手に掛かって死ぬのを見るのは忍びない。せめて、引導は儂自らが下してやろう』


 身も心も悪魔に捧げて、身も心も朽ち果てた分際で、まるで騎士のようなセリフを吐きながらウータヴァルがメイスを高々と掲げる。

 このまま殺されるつもりはもちろん毛頭ないのだが、しかし周囲は完全にオークに包囲されて逃げ場もない。

 さて、どうしたものか。

 いや。考えても仕方がない。とにかく、どうにかしてヤツの一撃を躱してから、敵を斬れるだけ斬って死ぬ。

 そう覚悟を決めて、剣を構えなおした。

 大気を打ち砕くような勢いで振り下ろされる鉄塊を迎え撃とうと腰を落としたところで、俺のすぐ脇を黒い影が烈風のようにすり抜けていった。


 ガキン、という金属音とともに、俺に向かって落ちてくるメイスの柄頭が横へ弾かれる。


『……なに?』 


 黒い兜の奥から、訝しむような声が響く。

 ヤツの一撃を弾いたのは俺じゃない。

 いつの間にか、俺と黒鉄の巨人の間に黒い影が一つ。

 痩せすぎの身体を黒装束で包んだその男は、ウータヴァルよりもよほど幽鬼という形容が似合う。


「お前……」


 目の前で、男が顔を上げた。純白と深紫、左右で一房ずつ異なる色に染まった前髪が小さく揺れる。


「何してんだ、お前」


 どうしてここに、とか。怪我はもういいのか、とか。聞きたいことは色々あったが、口を突いて出たのはそんな質問だった。

 そして黒装束の剣士、レイブンはそんな俺の質問など気にも留めずに、ウータヴァルへと斬りかかった。

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