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若将軍は旅がしたい!  作者: 高嶺の悪魔
第七章 馬蹄砦の合戦

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馬蹄砦の合戦 14

 唐突に、空が明るくなった。

 夜を燦々と照らし出す山吹色のその光は、夜明けの太陽の輝きそのものだ。

 突然の眩さに、目前で槍を構えていたオークたちが悲鳴を上げて武器を投げ捨てた。ウータヴァルも事態が飲みこめていないらしい。

 おかげで、わずかな軌道修正だけで騎士隊はオークどもの陣を突破することが出来た。

 ウータヴァルのすぐ脇をすり抜けるように駆け抜けながら、俺は茫然と空を見た。

 空は未だ暗雲に包まれている。そもそも今は夜だ。夜明けはまだまだ先のはず。月明りならばまだしも、陽光など。

 だが、事実としてこの光は柔らかく俺たちを照らし上げている。


「お父様だわ」


 混乱している俺の耳に、レティの呟きが聞こえた。


「なに?」


 聞き返しながら、思わず彼女に振り返る。その途中。東の空に、山吹色の光の柱が立っているのを見た。

 確かに、それはレティのお父上であるエルディン卿の住むロスリンの森がある方角だ。


「口ではなんだかんだ言ってても、貴方を助ける気満々だったじゃない。お父様は」


 どこか呆れ混じりの声でそういったレティに、そうなのかと呟く。


「まあ、まさか家宝まで持ち出すとは思わなかったけれど」


 その一言に、あの光の正体がぴんときた。


太陽の玉石セアレンディア……あれ、君の家が持ってたのか」


 流石、世界の始まりから続く家。なんだか神話の続きを見ているような気分だ。


「将軍、これはいったい……!?」


 そこへノーバスター卿が追いついてきた。

 やはり混乱しているようだが、今は説明している暇がない。


「どうやら、神々もこの戦に加担してくれるらしい」


 適当な言葉を返すと、それをどう受け取ったのか。


「また貴方の魔法ですか」


 ノーバスター卿が、どこか気の抜けた声を出した。


「いや、別に俺がやったわけじゃ……」


 否定しようとする俺を無視して、ノーバスター卿は横を併走する部下に将軍の仕業だと説明してしまう。その話が瞬く間に騎士隊に知れ渡ると、先ほどまでの混乱が嘘のように治まった。

 それは良いのだが。いや、良くはないが。

 何だまた将軍が何かやったのかと呆れ半分に納得されるのはなんだか癪だった。

 前々から思ってたけど、こいつら自分じゃ説明できない不思議なことを全部俺のせいにしようとするよな。


『ルシオ・アルバインっっ!!』


 そこへ、雷鳴のような怒号が轟いた。

 大気そのものを打ち砕くような怒りに満ちたその声の主が誰なのかは、確かめるまでもない。


「ノーバスター卿、このまま部下を連れて進め」


 さっと表情を切り替えた俺はそう命じた。


「将軍はどうなさるのですか」


「ご指名とあらば、馳せ参じないわけにもいかないだろ」


 心配そうに聞き返すノーバスター卿に、俺は努めて何でもないように肩を竦めてみせる。


「この好機を逃すなよ」


 そう言ってラウルを大きく旋回させて、来た道を引き返す。

 太陽の輝きを封じたという神代の宝玉。

 陽光と全く変わらぬ眩さに目を焼かれたオークどもは恐慌に駆られて武器を放りだしている。あれでは戦うどころじゃないだろう。

 行く手を遮るものがない今、魔狼も速度に乗った馬には追い付けない。ゴブリンは陽の下でも動けるが、主人共が慌てふためいているのを見て早くも逃げ腰だ。

 先ほどまでの絶望感が嘘のように吹き飛んで、形勢は完全に逆転したといっても良いだろう。


 だが。まだだ。

 まだ最大の敵が残っている。

 雑魚をどれほど蹴散らしたところで、ヤツ一人が残っている限り、この戦に勝機はない。

 俺たちはヤツを滅ぼせないが、ヤツは一人で俺たちを皆殺しに出来るだけの力があるのだから。

 明るく色彩を取り戻した世界に、そこだけぽっかりと穴が空いているような黒鉄の巨人。


「レティっ」


 ウータヴァルめがけてまっすぐにラウルを奔らせながら、俺は鋭くレティを呼んだ。


「すぐに離れるんだぞ」


 鞍から腰を持ち上げながら、確認するように言う。彼女はそれだけでこちらの意図を察してくれたようだ。手放した手綱をレティが素早く掴んだのと同時に、俺は馬上から飛んだ。

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