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若将軍は旅がしたい!  作者: 高嶺の悪魔
第七章 馬蹄砦の合戦

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馬蹄砦の合戦 13

「門を開けよ!」


 轡を並べたノーバスター卿の掛け声で、城門に取りついていた兵たちがさっと身を引いた。

 助力を失った門扉が、バキバキと音を立てて崩れ始める。


「振り落とされるなよ?」


 補強のために打ち付けられていた木材が弾け、鉄の閂がみしみしと軋むのを馬上から見つめながら、俺は背後に乗せたレティへ声を掛けた。


「ご心配なく~」


 そう気楽な声で応じる彼女は、乗馬に関しては問題ないが、騎士のように馬上戦闘の訓練を受けているわけではない。集団の乱戦ともなれば、馬を繰りつつ弓を引いている暇などないだろうということで、俺が乗せてゆくことになったのだった。

 俺が馬を走らせつつ、近づいてくる敵を排除。レティには射撃に集中してもらう作戦だ。


「さて。来ますな、将軍」


 今にも破られそうな門扉を睨みつけながら、隣でノーバスター卿が口を開いた。


「ああ、来るな」


 俺が頷いた途端、ばきん、という大きな音が響いた。

 門を閉めていた鉄の閂が圧力に耐えきれず折れた音だった。

 蹴破られるように開け放たれた門の向こうから、狂気に駆られた化け物どもが堰を切ったように城内へ雪崩れ込む。


「行くぞっ、ローセオンの騎士たちよ! 名誉と誇りも知らぬ醜いけだもの共に、人間の意気地というものをみせてやれ!!」


 ノーバスター卿が剣を抜き放って、部下たちを鼓舞するように声を張り上げた。

 俺も剣を抜くと、先頭きって乗り込んできたオークへその切先を突きつける。


「突撃っ!!」


 叫ぶと同時に、右手で手綱をちょいと引いた。

 ラウルは賢い馬だ。それだけで主人の意を組んで、放たれた矢のように駆け出す。

 同時に背後のレティが矢継ぎ早に矢を放って、城内へ侵入してきたオークの先頭集団を数匹、転倒させた。

 敵の勢いがわずかに削がれたところへ、人馬の群れが突っ込む。

 戦場における騎士とは暴力の塊だ。

 馬の速度に鉄の重量を合わせた衝撃力は、たとえ化け物であろうと抗うことなどできない。門前に群がっていたオークどもを蹴散らして、俺たちは城を飛び出した。


 外へ出た俺たちの前に広がっていた光景は、敵、敵、敵。

 どこを見渡してもそこらじゅう敵だらけ。

 あんまりにもあんまりなこの状況に、思わず笑いが零れた。

 これはもう、絶望だとかそういう次元を遥かに飛び越している。


「なぁに笑ってるのよ!」


 俺の零した笑いを耳ざとく聞きつけたらしいレティが、後ろから叱るような声を出す。

 一応、謝っておいたが。それでも笑いは止まない。

 まあ無茶な作戦だというのは分かっていたことだが、ここまで無茶だと楽しくなってくる。

 そんな風に半ば自棄になりつつも、ひたすら目の前の敵を切り捨てて突き進む。

 あっという間に乱戦になった。

 しかし、意外にもあっさりと第二の壁まで抜けることが出来た。

 ノーバスター卿たち騎士隊も着いてきている。

 騎士隊の切り拓いた道を追ってくる歩卒部隊がまだ無事なのは、ドワーフたちのがなり立てる蛮声を聞けば分かった。

 敵の抵抗が思ったほどではない理由は、開戦初期にレティがかなりの数の指揮官級を狙撃で討ち取ってくれていたからだろう。

 戦に勝つために、数は確かに大事な要素だ。

 だが、それ以上に大事なのは、軍を指揮し統率する者の存在だ。

 奴らはそれを失った。今、化け物どもはこの戦に勝つためではなく、己の殺戮本能を満たすためだけに戦っている。

 だから目に入った獲物おれたちだけを我武者羅に追ってくる。


 敵を切り殺しながら背後に目をやると、ノーバスター卿と目が合った。

 俺の視線に気づくと、彼はオークの血でどろどろになりながらも、口元ににやりとした笑みを浮かべた。

 どうやら死ぬかいはありそうですなと言いたげなその顔に、俺も笑みを返す。

 このままいけば、非戦闘員の避難は成功するだろう。

 その代わりに俺たちはここで死ぬが。

 もちろん、ただで死ぬ気はない。

 もう少し。第一の壁さえ抜けることが出来れば、その先には馬の機動力を存分に発揮できる草原が広がっている。

 そこで一つ。騎士物語に語り継がれるような武者働きをしてみようじゃないか。

 そんなことを思った矢先だった。


 それまで我先にと襲い掛かってきたオークどもが道を開けるようにさっと引いてゆく。

 何事かと顔を上げた先に、黒い全身鎧を纏った巨人が立っていた。

 ウータヴァルが片手を上げると、引き連れているオークどもが一斉に槍を構えた。

 もう出てきたかと舌打ちをする。

 騎士隊の騎馬突撃を止めるつもりなのだろう。


「ちょっと、ちょっとルシオ! このまま突っ込むつもり!?」


 後ろでレティが騒ぐが、そんなこと言われても襲歩で駆ける馬は突然止まれない。


「君は飛べ!」


 槍衾まであと百歩。馬の脚なら、数秒で駆け抜けてしまう。俺はレティにそう叫んだ。

 普通の人間が全速で走る馬の背から飛び降りれば無事では済まないだろうが、彼女はエルフだ。どうにかなるだろう。

 そんなことを考えながらも、どうにか減速して軌道を変えようと手綱を引き寄せる。

 しかし、いかにラウルが賢い馬だとしても魔法は使えない。槍の穂先が並ぶ先へ向けて一直線に駆ける四本の足は力強く地面を蹴り続ける。

 これは死んだかな。

 他人事のように、そう思った時だった。

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