第十一話 山賊団
男は、自分たちは山賊の一味だと言った。
山賊団は頭を合わせて二十名ほどだという。街の北にある森の中の、うち捨てられた大昔の砦を隠れ家にしているそうだ。
その手口は、門番に扮した男が、こうして街を出入りする旅人の身なりを確かめて一味に報告する。やってきた旅人が弱そうなら、一味の何人かで取り囲んで身ぐるみを剥がす。強そうな者に対しては、貧民街の人たちを脅して、金目のものを盗ってこさせる。というものだった。
初め、盗みに行かせるのは子供を使おうと思っていたらしいが、あのラキアという少女がそれを許さなかった。子供たちの安全と引き換えに、自分がその役を引き受けたそうだ。
まあ、彼女はあの通りの身体能力だ。優秀な手駒だったという。
他にも、貧民街から連れ去った女性たちのことなど、聞いているだけでうんざりするような話がたくさん出たが、その辺は詳しく聞かなかった。
聞きだした情報をもとに、俺は街の北にある森へ向かった。
全てを白状した男には、すぐに街を出ること。これ以上、この街で悪事を働かないことを約束させて解放した。
本来なら街の自警団にでも突き出すべきなのだろうが、そうすると俺の嘘がバレる可能性がある。
王都にでも照会されようものなら、本当に騎士団が乗り込んでくる事態になりかねない。
森の中をしばらく行くと、男が言っていた砦を発見した。
恐らく、大昔の戦いで使われていたものだろう。
こうした古代の大戦の遺構は、大陸の至る所に残されている。
それは兵舎と見張り台を兼ねた石造りの建物だった。
ほぼ真四角の建物には正面に大きな木の扉があり、その上に胸壁が設けられている見張り台が突き出すように乗っかっている。
しかし、無数の蔦が絡みついている壁の一部は大きく崩れており、見た目は廃墟そのものだ。元々は、建物の四方を囲むように石の壁があったのだろうが、それもほとんど残っていない。もう砦としては機能しないだろう。
だが、根無し草の山賊たちが雨風を凌ぐだけなら十分か。
俺の故郷でも、こうした砦の幾つかを拠点として活用していたし。
さて。どうしたものか。
フードを被ったまま、木陰から砦の様子を窺う。
建物のてっぺんにある見張り台には二人の山賊が立っていた。どちらも薄汚い服を着て、顔の半分は伸ばしっぱなしの髭で隠れている。まさに山賊そのものといった風貌だ。
一人は短弓を、もう一人は棍棒を手にしている。
真正面から斬り込んでもいいが、しかし。ラキアが捕まっているとなると、最悪、連中は彼女を人質に使うかもしれない。
あまり乱暴な手は使えないか。
どう手を出したものか悩んでいると、そこへ街で門番をしていた男が砦に駆け込んでくるのが見えた。
あれだけ脅したのだが、仲間に警告でもしに来たのか。意外に律義な奴なのかもしれない。
「てえへんだ! お頭ぁ!」
砦の前で、男が焦ったように大声を出した。
少し待っていると、建物の中からぐんずりとした大男が姿を現す。
「なんだ、ボッツ。おめえ、街での仕事はどうした」
大男が罵るような声で、門番の男に訊いた。どうやら、こいつが一味の首魁らしい。
「そ、それがよぅ! お頭、さっき、こないだの旅人が来てよぅ、そいつは実は王都の騎士で、き、昨日、あの小娘が盗ってきた短剣を返せって! 返さねえと、騎士団を呼んで俺たち全員の首を刎ねるってよぅ……!」
「馬鹿か、おめえ」
焦ったように事情を説明する門番を、大男がもう一度罵った。
「それで、なんだ? 言われた通り、お返ししますとでも言ったのか? あぁん?」
次の瞬間、門番の男が吹き飛んだ。大男が彼を思いきり殴りつけたからだ。
「王都の騎士だぁ? そんなもん、嘘に決まってんだろうが! こないだの旅人ってのは、例の銀髪の野郎だろ? 北の物乞いが、騎士になんぞなれるわけがねえだろうが!」
嘲るように笑いながら大男は蹲っている男に向かい、片足を持ち上げた。
どうやら、まだ殴るつもりのようだ。仕方がない。
「嘘じゃないぞ」
その言葉と共に、俺は木陰から飛び出した。
これ以上、あの男が殴られるのを黙ってみているのは気分が悪い。
一族については、別に今さら物乞いと言われようが、なんと言われようが気にはならない。
それがうちの一族の心構えだ。
「もっとも、騎士ではないが。国王陛下に仕えているのは本当だ」
言いながらも、剣は抜かない。
穏便に済ませられるのなら、それに越したことはないからだ。
「ほぉ……?」
大男は一瞬、驚きの表情を浮かべたが、すぐにそれも消えて。俺を見る目つきは、値踏みするようなものに変わっていた。
「なるほど? 確かに。銀髪のくせに、中々結構な装備をしているじゃねえか……こいつは売ったら金になりそうだ。おい、野郎ども!」
にやにやと厭らしい笑みを浮かべながら、大男が吠えた。
それに、建物の中からわらわらと十人ほどの手下たちが出てくる。薄汚い身なりの山賊たちが一様に、親分と同じようなにや着いた笑みを浮かべているのを見て、思わずため息が漏れた。
分かりやすすぎる。
「おい、兄ちゃん。今すぐ持ってるもん全部置いて消えるってんなら、痛い目には合わずに済むぞ?」
挑発するように大男がそう言った。
「本当かい?」
とりあえず、そう訊き返しておく。
「ああ。本当だ。約束してやる。男と男の約束だぜ?」
にやにやとした笑みをさらに大きくしながら、大男が答えた。
まあ、十中八九、嘘だろう。
その証拠に、背後に気配。男が一人だ。たぶん、見張りの一人を森の中に潜ませていたのだろう。じりじりと近づいている足音からして、棍棒か、何か重いものを持っている。
というか、足音ぐらいもっとうまく消して欲しい。
剣に手を伸ばし、ふと思い止まって、その手を下ろした。
「さっさと決めろよ? でねえと……」
大男は、今にも吹き出しそうな表情をしている。
俺は次に起こるだろうことに備えて、奥歯を噛み締めた。
「こうなるぜ!!」
大男の合図と同時に、背後の山賊が俺の頭めがけて棍棒を振り下ろした。
ガツンという衝撃が脳を揺らす。別にこれくらいで気絶などしないのだが。
まあ、いいか。
膝から力を抜いて、如何にも失神しましたとばかりに地面へ倒れ込む。
そんな俺を見て、山賊たちは大笑いしていた。
「間抜けな野郎だぜ。これが、王都の騎士だって? そんな大法螺吹いて、恥ずかしくねえのか、コイツは」
そう言った大男に、手下たちは笑い声をさらに大きくする。
大男が自分も笑いながら俺に近づいてくる。肩を蹴られた。たぶん、意識があるかどうかを確かめているのだろう。
情けない状況ではあるが、今は我慢だ。
されるがままになっていると、誰かが俺の腰をまさぐり始めた。
男にそういうことをされていると思うと、かなり気持ちが悪い。いや、別に女だったらいいとかそういう事でもないのだが。
「お、お頭! コイツ、金貨なんて持ってますぜ!」
そうこうされている内に、上着の物入れをまさぐっていた山賊の一人が嬉しそうな声をあげた。
「そ、それに、銀の指輪が三つも!」
「すっげぇ……この剣……本当に鋼でできてやがらぁ……」
「こっちの鉄のナイフだって中々のもんだぞ」
「すげえ……これで俺たち、もう一生喰うのに困らねえんじゃ……」
「おう、こら、てめえら! 盗ったもん全部、こっちに寄こしな! それは俺のもんだ!」
喜びに沸く手下どもを大男が一喝すると、山賊たちは一斉に不満そうな声を漏らした。
「あんだ? なんか、文句のあるやつがいるのか?」
拳をバキバキと鳴らしながら大男が唸って、手下たちを黙らせる。
そんな実に破落戸らしいやり取りを、寝たふりをしながら聞いていると。
「ところでお頭。こいつはどうしますか?」
誰かが、俺の頭を指でつつきながらそう言った。
「ここで殺しますか? それとも、ふんじばって森の中にでも捨てておきますか?」
「まあ、待て。そう早まるな」
ひひひという嫌な笑いを漏らしながらそう尋ねる手下に、大男は意外にもそう答えた。
「こいつは相当昔に聞いた話なんだがな。こいつら銀髪の連中は大昔、自分たちの国が滅んだ時にな、王城からありったけの財宝を持ち出して、それを北の荒れ地のどこかに隠したっていうんだ。それでいつか、自分たちの国を建て直そうって腹なんだろうな。だがな、この話を聞いた時、俺は何を馬鹿なと思った。これを俺に聞かせた野郎は、北の物乞いどもがどんな粗末な身なりをしているのか、見たことがねえのかと思ったよ。だがよぉ、これを見ろ」
眼を閉じているので分からないが、“これ”というのは、俺から盗ったもののことを言っているのだろう。
「こいつはきっと、その時に持ち出された金銀財宝の一つだろうぜ。たぶん、銀髪どもはこんな宝を山ほど持っているに違いねえ。そうじゃなきゃ、こいつがこんなに上等な剣を持てるわけがねえ」
「それは、つまり……?」
得意げに語る大男に、手下の一人が期待に満ちた声で訊いた。
それに応える大男はたぶん、にやっとした笑みでも浮かべているのだろう。
「そろそろ、あの街での仕事もやり辛くなってきたからな。次の獲物は、北の物乞いどもだ! どうせ、他の連中もこいつみてえに間抜けばっかりだろうしなあ! そのために、まずはコイツから宝の在処を聞きだすぞ、身ぐるみ剥いで、奥の部屋にぶち込んでおけ!」
その命令に、手下どもはおおと声をあげて従った。
数人がかりで俺の身体を持ち上げて、何処かへ運んでいく。
思わぬ展開だが、どうやらうまくいったらしい。
いやはや。何やら勝手に盛り上がっているが、寝たふりをしているこっちは笑いを堪えるので大変だ。
隠し財宝、ねえ。あったらいいな、そんなもんが。
それにしても。物乞い扱いはともかく、山賊如きが北の一族を指して獲物とは。
流石にここまでくると舐められ過ぎじゃないか。うちの一族。




