表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
若将軍は旅がしたい!  作者: 高嶺の悪魔
第七章 馬蹄砦の合戦

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

109/121

馬蹄砦の合戦 11

「……打って出るか」


 別に、それで状況を打開しようだとか考えたわけではない。

 ただ漠然と、このまま門が破られるのを待つよりも、そうしてみるかと思っただけだった。


「将軍、打ってでるとは……」

「何のために、ですか?」


 案の定、ノーバスター卿とヴェルダン卿から訝しむような目を向けられてしまう。


「包囲を突破するつもりですか? 無理です。それに、もし仮に突破できたとしても逃げ場などない。結局は皆殺しにされるだけです」


「それはどっちみちじゃないか?」


 肩を竦めながら聞き返すと、ノーバスター卿はぐっと唸って黙り込んだ。


「名誉のためですか」


 その隣から、ヴェルダン卿が尋ねる。


「このまま追い詰められて皆殺しにされるよりも、どうせなら打って出て華々しく散ろうと?」


「そういう話じゃない。いや、どうかな。そうなのかも」


 彼の言葉に、曖昧に頷く。

 煮え切らない俺の返答に、ノーバスター卿とヴェルダン卿は心配そうな顔を見合わせていた。

 気持ちは分からなくもない。彼らには俺が、性質の悪い自殺志願者にでも見えているのだろう。

 まあ、実際そんなようなものだが。

 しかし、ここに籠っていても運命は変わらない。

 どの道、あの黒鉄の幽鬼が出てくれば城門など一瞬で吹き飛ばされてしまうのだ。

 ならば、打って出ても良いじゃないか。そう思っただけだ。

 北の一族としての名誉や誇り。そういうものが全くないといえば噓になる。

 このまま何もできずに化け物の餌になるのだけは我慢ならないという思いもある。

 だが、何よりも。


「ただ殺されるのを待つのは趣味じゃない。どうせなら、殺されに行った方が幾分、気が楽だ」


 要するにそれだけの話なのである。

 待つのは苦手なのだ。

 言うだけ言った俺を、ノーバスター卿たちはぽかんとした顔で見つめている。

 そんな彼らに、俺は続けた。


「もちろん、ただ殺されに行くだけじゃない。殺される前に一匹でも多くの化け物を道づれにしてやる」


 戦場で生きるか死ぬかは大した問題じゃない。

 大切なのはいつだって、この一つきりの命をどう使うかだ。

 たとえここで死ぬにしても、最後の一瞬まで踏ん張って、一匹でも多くの化け物を殺す。

 そうすれば、残された者たちがすこしは楽できるだろう。


「俺たちがここで全滅しても、それで人の世が滅ぶわけじゃない。女子供は逃がそう。逃げた先も危険かもしれない。多くの者が命を落とすかもしれない。だが、何人かは生き残るだろう。それで人の世は続く」


 我ながら、なんと無責任なと思わなくはない。

 だが、そう言い切った俺の前で、ノーバスター卿とヴェルダン卿は唖然とした顔を見合わせると、どちらともなくクスクスと笑い出した。

 笑い声は次第に大きくなり、最後には二人して腹を抱え出す始末だ。


「そうでした、貴方はそういう人でしたね」


 笑い過ぎて目元に滲んだ涙を指で拭いながら、ノーバスター卿が言った。


「そういえば、前回の時もそうだった。どんな絶望的な状況でも決して諦めず。何時だって我々の先頭を駆けて、導いてくれた」

「確かに。将軍の後を追っていくと時は、いつも冥界の門をくぐるような気になったものです」


 ノーバスター卿の横で、ヴェルダン卿が同意するように頷いた。

 そんな彼らに俺は言う。


「知ってるか? 俺が死んだら、俺の名前は三ヶ国共通の通貨単位の名称になるらしい」


「それは良いですな」


 ヴェルダン卿が楽しそうに笑いながら、無事な方の手で膝を打った。


「やりましょう、将軍」


 馬鹿笑いから一転、ノーバスター卿が精悍な笑みを浮かべる。


「あの醜い化け物どもに、我ら人間の意地というものを見せつけてやりましょう」


 そう言って、彼は辺りを見回した。

 いつの間にか、兵たちがこちらに注目している。それはまあ、そうか。絶体絶命の状況下で、指揮官たちが突然、声を上げて笑い出したのだから。

 中には心配そうな顔をしている者もいる。

 そんな彼らに、ノーバスター卿が快活に呼びかけた。


「誰か、アルバイン将軍と一緒に死にに行く気のある者はいるか?」


 その一言に、兵たちは面食らった表情を浮かべる。

 ノーバスター卿はそんな彼らに説明を始めた。

 説明といっても、要するに集団自殺の誘いなのだが。

 手の込んだ悪戯の計画を教えるようなノーバスター卿の態度に、どういうわけだか、聞いている者たちまで次第ににやにやと笑みを浮かべ始める。


「楽しそうな話してるじゃねえか、坊主」


「ゴウェルさん」


 後ろから声を掛けられて振り向くと、ゴウェルさん率いるドワーフの一団がいた。


「まさか、そんな楽しそうな話から俺たちを除け者にするつもりじゃあねえよな?」


 大きな鉞を肩に担ぎながら訊くゴウェルの背後から、ドワーフたちがにゅっと顔を出した。


「つーか、いつまで待機させとるんじゃコラァ!!」

「わしらは戦いに来たんじゃボケェッ!」

「大体、ふがいねぇんだよてめえら人間はよぉっ!」

「あっさり突破されやがって! わしらがいたらあんなバケモン風情……」


 なにやら血気盛んなドワーフたちにいきなり怒鳴り散らされた。

 話を聞いたところ、なんでもこれまでずっと待機していて出番が全くなかったらしい。

 言われてみれば確かに。籠城戦の初期はどうしても矢の撃ち合いになる。種族の特性として弓の扱いに不得手なドワーフたちには、戦闘が本格化するまで待機してもらっていたのだ。

 しかし、開戦からあっさりと城壁を突破され、守備隊が本城まで引き上げてしまったせいで出撃の機会をすっかり逃してしまったのだという。

 そんなわけで、彼らは鬱憤の塊だった。


「つーわけで、儂らも混ぜろ」

「嫌とは言わせねえぞ、坊主」


 いくら俺の半分くらいしか身長がないとはいっても、大きな斧を担いだ厳つい顔のドワーフおっさんたちに怖い顔で迫られてしまえば断ることなどできなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ