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若将軍は旅がしたい!  作者: 高嶺の悪魔
第七章 馬蹄砦の合戦

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馬蹄砦の合戦 10

 城壁にようやく上がれたところで気絶しているレイブンを救護の兵に任せ、休む間もなくレティとダイツを連れて階下へ急ぐ。

 城門のある広間へ入ると、そこで指揮を執っていたノーバスター卿と合流した。

 ノーバスター卿は俺の無事を喜んでくれたが、その表情は優れない。

 城内にはどことなく、絶望的な雰囲気が漂い始めていた。

 無理もない。ここまで準備をしておきながら、城壁がたった一晩ともたずに突破されるとは思ってもいなかったのだろう。


 広間には、城門を破ろうとする敵が門扉に破城鎚を打ちつける、ずん、ずんという重苦しい音が断続的に響いている。兵たちが鉄や木材で補強された門扉に殺到してどうにか押さえこんではいるが、もしもまたウータヴァルが出てくれば。奴の妖術の前では、彼らの奮闘も無意味だ。

 兵たちもそのことに薄々感づいているのだろう。

 破城鎚が打ち込まれた衝撃に跳ね飛ばされて、その度に急いで門へ取りつくのを繰り返す彼らの動きは、戦うためというよりも少しでも長く生き長らえるための行動に見えた。


 そんな彼らを情けないとはいえない。

 むしろ、こんなことになってしまったのは完全に俺の失態だ。

 オークが統制された動きを見せている時点で、この戦にウータヴァルが出てくるのは予想できたことだ。ならば、あの化け物は俺が抑えなければならなかった。

 でなければ、何のためにご先祖様が魔法の指輪と精霊鋼の剣を遺してくれたというのか。

 そう自責の念に駆られていると、応急手当を終えたらしいヴェルダン卿が広間にやってきた。やはり右腕は折れているようで、包帯で吊っている。

 彼は俺とノーバスター卿の姿を見つけると、無事な方の腕を上げながら近寄ってきた。


「大丈夫か、ヴェルダン卿」

「なんの、これしき。片腕でも指揮は執れます」


 声を掛けたノーバスター卿に、ヴェルダン卿は頼もしい笑みを浮かべて応じた。

 それから俺に顔を向けると、小さく頭を下げる。


「またしても命を助けられましたな、将軍」

「お互い、運が良かっただけだ」


 ヴェルダン卿からの感謝を素直に受け入れられない俺はそうとだけ答えた。

 実際、神代の頃からこの世に恐怖を撒き散らしてきた化け物を前にして命が残っているのだ。幸運というより他にない。


 お互いの無事をひとしきり喜んだところで、ノーバスター卿から戦況の説明があった。

 被害は甚大という他ない。

 開戦からおよそ五刻。こちらは兵の三分の一を失った。

 やはりというべきか、被害は臨時で雇った兵に集中している。練度が低いのはもちろんだが、砦に詰めていた正規の守備兵のように兜や鎧など、身を守るための防具が行き渡っていなかったというのが大きな理由だった。


「彼らもローセオンの民です。覚悟の上でしょう」


 ノーバスター卿たちはそういうが。

 城の外からは時折、絶叫が聞こえてくる。門が閉まるまでに城内へ撤退できなかった者たちがあげている叫びだろう。

 オークに何をされているのかは、あまり想像したくない。


 失ったのは兵だけでは無い。

 開戦から続く射撃戦で、すでに矢の備蓄は当初の半分を切っている。

 敵の矢を戦友の身体から引き抜いて再利用している有様だという。


「まさか、夜を迎える前にここまで追い詰められるとは」


 ノーバスター卿が戦況説明を終えると、ヴェルダン卿が苦い顔で呻いた。


「せめて、女子供だけでも逃がすことはできませんか」


「……城の裏口から出て、山の中の洞窟を抜けてゆく道はある。そこを通れば、山の北側へ抜けられる」


 騎士としてせめてもの意地だとばかりに訊いたヴェルダン卿に、ノーバスター卿が答える。


「しかし、逃がした先も安全かどうか」


 オークに襲われているのはここだけではない。国中で化け物どもが暴れまわっているのだ。そんなところへ女子供だけで行かせるのは、果たして賢明な判断といえるのかどうか。

 逃がすにしても、護衛をつけるだけの余裕がここにはない。

 それにもうすぐ夜が来る。

 化け物相手では、夜陰に紛れて逃げるという手も使えない。むしろ、敵を利することになってしまうだろう。暗闇というのは人間にとって、最大の敵なのだ。

 尻すぼみになったノーバスター卿の答えを聞いて、ヴェルダン卿が難しい顔で唸る。

 そうこうしている内に、城門が嫌な音を立てはじめた。

 如何に鉄製の門扉であろうとも、それを金型や木材でどう補強しようとも、化け物の怪力で振るわれる破城鎚を絶え間なくうちつけられれば、いつまでも耐えられるはずもない。

 兵たちはそれでも懸命に門を守ろうとする。

 いや、守っているのではない。縋っているのだ。

 今や、彼らが必死になって押さえつけているたった一枚の金属板が、彼らの命そのものなのだから。

 そんな兵たちを眺めながら、俺はふと思いついた言葉を口に出した。


「……打って出るか」

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