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若将軍は旅がしたい!  作者: 高嶺の悪魔
第七章 馬蹄砦の合戦

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馬蹄砦の合戦 9

「将軍、もう十分です!」


 門を締め切る準備が整ったと、ノーバスター卿が俺を呼んだ。

 ダイツに、先に中へ入るように言った時、広場の向こうで爆発があった。

 正確には爆発ではなく、城壁の一部が吹き飛んだのだろう。

 咄嗟にそちらを見ると、レイブンが血を流して倒れていた。

 どうやら、気を失っているらしい。今の一撃をまともに受けてしまったのだろうか。

 その後を追うように、もうもうと土煙が立ち込める中から黒鉄の巨人が姿を現す。

 巨人はゆっくりとした足どりで倒れ伏しているレイブンへと近づいていく。


 このままだと、レイブンが殺される。

 駆けだすのに躊躇は無かった。焦った声で俺を呼びとめるノーバスター卿とダイツには門を閉めろと怒鳴り返しておく。

 視線の先で、ウータヴァルが緩慢な動きでメイスを持ち上げた。

 まるで、お前にこいつが救えるかとでもいうように、わざとらしくゆっくりとした動きだ。

 喧嘩を売られているのは間違いない。

 上等じゃないか、この鎧お化けが。


 金剛石の指輪からありったけの魔力を引き出して駆ける。強化された脚力の生み出す爆発的な速度に任せて、レイブンの頭へ振り下ろされる鉄塊を横へ弾いた。


『ほう』 


 感心するような声を漏らすウータヴァルを無視して、駆け込んだ勢いそのままにレイブンの腕を掴んで奴の前からかっさらう。

 思いっきり乱暴に引きずったせいで余計に頭を打ったかもしれないが、こいつはこれ以上おかしくならないだろうし。まあ、いいか。


 ウータヴァルから大きく距離を取ってから立ち止まる。ぐったりしているレイブンを肩に担ぎあげて、左手一本で剣を構えた。

 当たり前だが、四方八方どこをみても敵だらけだ。オークどもが手にした武器を突きつけながら、歯をむき出しにして醜く唸っている。


『あの状況なら、貴様は来ると思っていた、ルシオ・アルバイン』


 そんな俺を見下ろすように、ウータヴァルが低い声で囁いた。

『だが、どうする? もはや逃げ場はないぞ。さあ、どうする?』


 言われなくても今考えてんだよ。一々うるせーな、この暗黒鉄仮面は。

 勝ち誇ったようなウータヴァルにそう言い返したいところだが、流石にこの状況で敵を挑発しても俺がすっきりするだけで良いことはない。

 そう思った俺の沈黙をどう誤解したのか。ウータヴァルはますます満足そうに鼻(?)を鳴らすと、部下のオークどもに暗黒語で何事かを命じた。

 まあ、大方の予想通り。碌でもない内容だった。

 どうやらまだ俺を殺すつもりはないらしい。が、死なない程度に痛めつけられて、四肢の動きを奪われるのはどうにもぞっとしない話だ。

 かといって一人で、それもレイブンを担いだままこの数の化け物を相手にするのは無理がある。レイブンが目覚めてくれればどうにかなるだろうが、よほどの痛手を被ったらしく、力なく閉じられた瞼は当分開きそうにもない。

 こうなったら、仕方ないか。やられる前に、一匹でも多く殺してやる。

 そう覚悟を決めたところへ、レティの声が響いた。


「ルシオーー!!」


 頭上からの呼び声に顔を上げると、こちら目掛けてレティが城壁を駆け下りてくる。片手に握っているロープは片方を城壁のどこかに括りつけてあるらしい。


「捕まって!」


 なんつー無茶を、と呆気に取られている俺にレティが手を伸ばした。


『いかん、逃がすな!』


 ウータヴァルが慌てたように叫ぶと、オークどもが一斉に突っ込んでくる。血のりでぎらつく武器の切先が届くより先に、俺は差し出されたレティの手を掴んだ。そのまま攫われるように、化け物の中心から離脱する。


「お、重いぃ……」


 振り子の要領で揺れるロープと俺の手を掴みながら、レティが呻いた。

 そりゃそうだろう。そんな細い腕で男二人分の体重を支えているのだから。


「捕まれ」


 振り落とされる前レイブンを肩に担ぎ直してから、ロープを掴んで彼女の隣まで昇る。


「なんつー無茶なことを」


「しょうがないでしょ、他にどうすれば良かったのよ! ていうか、アンタに無茶って言われたくないわ」


 密着しつつ、揺れるロープにつかまりながらそんなやり取りをする。

 まあ、なんにしても助かった。


「とりあえず、しっかり捕まっとけよ」


 レティに礼をいってから、城壁を何度か蹴って揺れるロープの勢いを殺す。


「登れるか」


 揺れが収まったところで城壁に両足をついてロープをぴんと張りながら訊くと、レティはもちろんと頷いた。そのままひょいひょいとロープを登ってゆく。

 彼女が城壁上まで辿り着いたところで後に続こうとすると、すぐ傍を矢が飛び過ぎていった。城壁に当たって弾けたそれはもちろん、オークが射かけてきたものだ。

 レティが慌てて応射を始め、俺も空いている手で剣を抜いて、飛んできた数本を弾き落とす。砦からも援護射撃が始まった。しかし、これでは上に登れない。

 どうしたものか。

 下を見れば、餌を求める池の鯉のようにオークが群がっている。

 できればあそこには落ちたくないなあと、他人事のように思っていると。


「兄貴!」


 上からダイツの声が聞こえた。


「手を離さないでくださいね!」


 その言葉とともに、ロープがするすると引き上げられていく。

 やれやれ。ひとまず、助かった。

 しかし、この後が辛そうだな。

 気絶しているレイブンの横顔をちらと見てから、足元に広がる化け物の沼を見下ろすと、思わず小さな溜息が漏れた。


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