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若将軍は旅がしたい!  作者: 高嶺の悪魔
第七章 馬蹄砦の合戦

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馬蹄砦の合戦 7

『なんだ、きさ』


 なんだ、貴様はと言いたかったのだろう。しかし、ウータヴァルはそんな簡単な質問も最後まで言えなかった。言い終えるよりも先に、顔面に剣を叩きつけられたからだ。

 叩きつけたのはもちろん、黒づくめの剣士レイブンである。

 ドワーフ製の業物でも流石に叩き斬ることはできなかったが、ウータヴァルの被る黒鉄の兜が大きく揺れて、巨体がよろめく。

 巨体といっても肉体なんてないはずなのだが。やはり憑りついている鎧に攻撃されると衝撃くらいは感じるのだろうか。


『おのれ、混じりも』


 今度はおのれ、混じりもの風情が、とでも言いたかったのだろう。

 だが、止まらないレイブンの猛攻にそれも言い切ることができない。

 すごい。ものすごい空気読んでない。いいぞ、もっとやれ。

 鬱陶しくまとわりつく蠅を払うようにウータヴァルがメイスを振り回すが、そんな大振りな攻撃を喰らうようなレイブンではない。ひらりひらりと躱されては、暴風のような一撃が虚しく空を切っている。そして隙を突くように、鋼の一閃で大鎧を打つ。

 コイツには驚かされてばかりだ。

 ウータヴァルが暴風なら、レイブンは疾風といったところだろうか。

 ダメージこそ通ってないだろうが、速度だけであの黒鉄の幽鬼を圧倒している。

 よし。今のうちだ。


「退くぞ!」


 呆気に取られているダイツたちへ叫ぶ。それにダイツはハッとしたように負傷しているヴェルダン卿を抱え上げた。


『そうはさせんっ』


 後退を始めた俺たちを見て、ウータヴァルが怒号をあげた。

 ちょこまかと動き回るレイブンはもう無視することに決めたらしい。撃ち込まれる剣に構いもせず、メイスを振り上げた。漆黒の全身鎧から禍々しい魔力が溢れだし、奴を中心に暴風が渦巻きだす。

 不味いと思った時にはもう遅い。振り抜かれたメイスが、その実体以上の質量を持って正門広場を囲む内壁の一部を砕いた。


『よかろうっ! そうも抗いたいのであれば、存分に抗うが良いっ!!』


 黒鉄の咆哮とともに、城壁の外で待機していたオークどもが待ってましたとばかりに砦の中へ雪崩れ込む。

 砦中に非常事態を知らせる鐘や太鼓の音が響き渡り、あちこちから狂喜した化け物どもの吠え声と応戦する兵たちの掛け声、そして剣戟の音が聞こえ出した。


「将軍!!」


 どこからかノーバスター卿の声が聞こえて顔をあげると、城壁上にいる彼と目が合った。


「本城まで撤退します! お急ぎください!」


 まあ、懸命な判断だろう。

 今の一撃で城壁は完全に突破されてしまった。下手に兵力を分散させて全体を守ろうとするよりも、一か所に戦力を集めて戦った方が良い。

 問題は、ここまで追い詰められるのがちと早すぎたことか。


「ミゲル、リッツ! ヴェルダン卿を連れて先に行け!」


 まあ、砦の防衛計画をノーバスター卿たちに任せっきりだった俺が今さらあれこれと考えても仕方がない。撤退の了承を伝える代わりに、俺は遊撃隊の二人にそう指示を出した。

 二人とも、ダイツほどではないが大柄な方だ。二人がかりなら鎧を着けたままのヴェルダン卿でも運んでいけるだろう。


「ダイツ、俺たちは殿しんがりだ!」


「おうっ!!」


 ヴェルダン卿を二人に任せたダイツが、バトルハンマーを手に威勢よく応じる。


「レティ!」


「いるわ!」


「君も先に行け!」


 この乱戦では、彼女の弓もあまり意味がない。むしろ一度退いてもらって、安全な場所から援護してもらった方が良い。

 俺の指示にレティは城壁上を軽やかに駆けていった。

 それを見送ったところで、すぐ背後から猛獣のような唸り声が聞こえた。

 振り返ると、豚のような鼻をした狼が歯をむき出して唸っている。

 さて。魔狼の討伐報酬はいったいいくらだったか。

 そう思いながら、剣を手の中でくるくると回す。ウータヴァルの一撃を受けて痺れていた腕もすっかり元通りだ。

 魔狼が大きく一吠えして突っ込んできた。それを、身を捩って躱しながら、すれ違いざまに喉元をさっと薙ぐ。ごぼごぼと嫌な音を立てて、魔狼が頭から地面に崩れ落ちた。

 身体を起こすと、ぎゃいんという鳴き声とともに魔狼が目の前をすっ飛んでいった。飛んできた方向へ目を向ければ、ダイツがいる。バトルハンマーの調子は上々のようだ。

 地面に転がった魔狼が立ち上がる前に止めを刺してから、辺りをさっと見回す。

 レイブンは先程の一撃も難なく躱したようで、なおもウータヴァルへの猛攻を続けているが、破られた内壁の向こう側では騎士と守備兵たちが化け物を必死に押し止めようとしている。しかし、騎士隊の指揮官であるヴェルダン卿がいないせいか、どうにも動きに整合性がない。

 順調かに思われていた砦の防衛戦は、たちまち暗礁に乗り上げた。

 やれやれ、まったく。これだから戦は嫌だ。


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