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若将軍は旅がしたい!  作者: 高嶺の悪魔
第七章 馬蹄砦の合戦

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馬蹄砦の合戦 6

「鎧を変えたのか? もったいない。年代物の良い鎧だったのに」


 剣を抜きつつ、いけしゃあしゃあと言い放つ俺に、鎧から発せられている禍々しい気配が強まった。

 どうやら怒ったようだ。

 そりゃそうだろうな。何せ、二年前にヤツご自慢の鎧を台無しにしてやったのは他ならぬ俺なのだから。

 ぽっかりと空いた眼窩に灯る鬼火が大きく燃えた。襲い掛かってくるかと身構えたが、意外にもヤツは怒りを抑えたようだ。


『まあいい』


 人間だったら歯を食いしばっているような声でヤツは言った。


『貴様を待っていたのだ。その余裕もいつまで続くか、見ものだな』


 そう言い終えるなり、ウータヴァルが手にした巨大なメイスをヴェルダン卿めがけて振り下ろす。

 考えるよりも前に身体が動いて、その間に割り込んだ。とはいえ、完全金属性のそれと打ち合えば精霊鋼の剣はともかく俺の身体が無事では済まない。なので、撃ちあう直前に刃を逸らして、メイスを受け流した。

 それでも結構な衝撃が腕に伝わる。指輪を着けていてこれかと舌打ちを漏らしつつ、ヴェルダン卿を抱えて後ろへ飛んだ。


「ご指名は俺だろ?」


 悪態を吐くように言いながら、ヴェルダン卿をダイツたちに預けて下がらせる。

 オークならともかく、あの化け物相手となると彼らでは手も足もでない。

 いやまあ、俺ならどうにかなるとかそういう話じゃないのだが。何せ相手は悪霊だ。

 さてどうしたものかと思っている俺の前で、ウータヴァルが再びメイスを振り上げた。

 暴風を纏って振り抜かれるそれを、身を屈めて躱す。しかし風に煽られて態勢が崩れてしまう。

 慌てて身体を起こそうとしたそこへ追撃の一撃が飛んでくる。仕方なく剣で受け止めた。当然、受け止めきることなどできない。そのまま吹っ飛ばされて、背中から城壁に叩きつけられた。


「がっ……!」


 肺の中から、無理やり空気が追い出される。

 ちくしょう。

 遠のきそうになる意識を鷲掴みにして引き戻しながら顔を上げると、目の前には巨大な影が立ち塞がっていた。その影が俺に手を伸ばしながら言う。


『安心しろ。まだ殺しはしない』


「そりゃどうも。お優しいことで」


『だが、腕と足は折る』


 やっぱり全然優しくなかった。


『その後で、貴様にはこの砦にいる人間どもが死ぬところをじっくりと見せつけてやる。存分に絶望を味わわせた後で、惨たらしく殺してやろう』


「ああ、そうかい」


 実にこいつららしい。しかし、どうしたらいいものか。

 まともに攻撃を受けたせいで両腕が痺れている。これで何処まで戦えるだろうか。

 そう思いながら、俺を掴もうと迫る手を睨みつけていると何処からともなく飛んできた矢が、カン、と音を立ててウータヴァルの兜に当たった。

 レティだった。


「ルシオっ!!」


 叱るように彼女が俺を呼ぶ。

 そうだな、諦めてる場合じゃないな。

 わずかにウータヴァルの気が逸れた隙に、震える腕に力を込めて立ち上がる。そのまま転がるように移動して距離を取った。


『……あの小娘。なるほど、エルフと手を組んだか。やはり没落したとはいえ、北方王家』


 立ち上がった俺を見て、ウータヴァルがそんなことを言っているが。それは深読みのし過ぎだ。


『だが、無駄だ。貴様は今日、ここで死ぬ。ルシオ・アルバイン。我が主を長きにわたって悩ませた北方王家の血筋も途絶える。何より、その震える腕で何が出来る』


「なんとかしてみせるさ」


 強がってそう返すが、まあ正直、状況は悪い。

 せめて一度退いて態勢を整え直したいところだ。ヴェルダン卿も負傷しているし。

 などと色々考えていると、ふいにそれまで城壁の外から見ていただけのオークどもが騒ぎ出した。

 なんだろうかと、目だけ動かしてそちらを見る。視界の隅に小さな黒い影が映った。それは恐るべき速度でウータヴァルへと迫り、鋼が激突する音とともにその巨体をわずかによろめかせた。

 ……おいおい、マジか。


「変な手ごたえだな。何だ、こいつは?」


 若干呆れている俺にそう尋ねたのは、言うまでもなくレイブンである。

 剣を握っている腕をだらりと下げたまま、目の前にいる鉄の巨人を恐れる様子もなく見上げている。


「気を付けろよ。そいつは本物の化け物だ」


「そうか」


 質問に一応答えてやると、レイブンは納得したのかしていないのか分からない声で頷いた。


「アンタがコイツに吹き飛ばされるのを見た。それで面白そうだと思った。雑魚相手じゃ死に合いにならない」


 それだけ言うと、レイブンはウータヴァルに向き直って剣をまっすぐ立てた。


「アンタは強そうだ。一手、死合っていただきたい」


 そう言って、レイブンはこの世で最も恐るべき存在相手に、さっと一礼をしてみせた。

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