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若将軍は旅がしたい!  作者: 高嶺の悪魔
第七章 馬蹄砦の合戦

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馬蹄砦の合戦 3

「おい」


 レティとのやり取りから気を取り直したところへ、ひょっこりとレイブンがやってきた。

 まともな食事を取らせたからか、やつれていた顔もわずかに血色が良く見える。腰に佩いているのは、砦の武器庫で見つけたドワーフ製の長剣だ。かなりの年代物だが、ゴウェルに見せたところとんでもない業物だと言っていた。


「……手を貸すとはいったが、俺は自由にやらせてもらうぞ」


 城壁の下に群がる化け物どもを見下ろしながら、レイブンがそう言った。


「ああ、好きにしろ」


 投げやりにそう返しておく。

 どうせコイツに集団行動など無理だ。

 下手に守備兵たちと組ませても、邪魔になるだけだろうし。

 が。何を思ったのか、俺の返答を聞くなりレイブンは突然、胸壁の上に立った。


「お、おい?」


 ノーバスター卿をはじめ、周囲の兵たちの訝しむような視線が集中する中。

 俺が何するつもりだと聞くよりも早く、レイブンが城壁を飛び降りた。


「何してんのお前えぇぇっ!!」


 自由にしていいとは言ったけど、そこまでの自由を許した覚えはない。

 慌てて壁際へ駆け寄り、レイブンが飛び降りた先を見る。

 そこで。

 レイブンはまるで獣のようにしなやかな身のこなしで着地するなり抜剣し、オークの群れに突っ込んでいった。瞬く間に隊列の先頭で黒い血飛沫があがる。

 未だ合戦開始の号令すら掛かっていないのに、と呆れて眺める先で、レイブンは次々とオークを切り殺してゆく。城壁の上にいる誰もがその光景を唖然として眺めていた。

 オークどもにしても不意打ちを食らったどころの話ではないのだろう。乱れた隊列のそこかしこから怒号のような吠え声が上がっている。


「……何あれ?」


「分からん」


 白けた声で訊くレティに、胸壁に腕を乗せたまま放り出すように答える。


「将軍、将軍もあれと同じことができますか?」


 単身でオークの群れの只中へと突っ込み、次々と化け物を屠っているレイブンを見ながら、茫然とした声でそう訊いたのはノーバスター卿だった。


「いや、できる、できないっていうか……」


 やりたくない。

 だってオーク臭いし、汚いんだもん。


 誰も予想しないレイブンの奇行というか、独断専行によってなし崩し的に合戦が始まってしまった。こうなってしまっては仕方がないと、ノーバスター卿が隷下部隊に射撃開始を叫ぶ。

 応じるように化け物どもも射撃を開始した。


「各自、自由に射撃してよろしい! ただし、できるだけ敵隊列の中ほどを狙え!」


 瞬く間に周囲の空間が矢で埋め尽くされる中。そんなものをまるで無視したような態度でノーバスター卿が叫ぶ。敵の中ほどを狙うように指示したのは、たぶんあの冗談みたいな男への誤射を防ぐためだろう。

 そのレイブンはまるで烈風のような勢いで敵陣を切り裂きながら、縦横無尽に動き回っているため、あまり意味があるとは思えないが。

 それにしてもまあ、大したものだ。一撃で確実に敵の息の根を止めている。その太刀筋はどことなく北方流剣術に似ているような気もする。とにかく実戦で叩きあげてきた技術なのだろう。

 あれ。これもしかして俺は必要ないのでは。

 降り注ぐ矢をナイフで弾きながら、ほんのちょっとそう期待したところで、城壁から弓隊の一人が悲鳴を上げて落ちてゆくのが見えて、一気に現実へ引き戻された。

 何を甘いことを。今は戦の真っ最中だぞ。

 そう自分を叱りつける。

 城壁上から打ち下ろしているこちらの方が有利とはいえ、やはり被害が皆無というわけにはいかない。

 落ちていった兵をオークが取り囲み、切り刻み始めた。彼は落下の衝撃で死ねただろうか。

 死に様がどうであれ、彼は責務を果たした。どうか安らかにと願いながら、俺は先程まで隣にいたレティの姿がないことに気付いた。


「レティ! レティ―ス!」


「ここよー」


 彼女の名を繰り返し怒鳴ると、頭上から返事が降ってきた。

 見上げると、城壁上に設けられている尖塔の屋根の上にレティの姿を見つける。

 どうやって登ったのだろうか。とてもお父上に見せられないぞ、あんなの。


「他のよりも身体の大きいオークが見えるか?」


 心の中でエルディン卿に詫びながら、レティに尋ねる。


「んー、何匹か見えるわ」


「そこから狙えるか?」


「ちょっと暗いけど、まあ、なんとか」


「よし、任せた」


 そう言って、城壁の外へ目を戻す。

 ただのオークを一匹殺すのと、指揮官であるハイ・オーク一匹を殺すのではその意味が大きく異なる。ここで下級指揮官の数を減らしておけば、後々有利になるだろう。

 まあ、そんなことを考えるのは本来、俺の仕事じゃないのだが。

 城壁に取りついた連中が石の壁を力任せに壊そうとしているのだろうか。嫌な振動が足元から伝わってくるが、まだ俺の出番はなさそうだった。

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