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22・獣人連合への旅程 ☆

 リカさん、アプリコットさん、エド、マリーナ、フィーナをアルカに招待した翌日、俺達は本殿の大食堂で今後の予定を話し合った。


 エド達には北西の副殿を使ってもらおうと思ってたんだが、マリーナとフィーナが湯殿が近いからってことで南西の副殿を希望した。

 南東の副殿は従魔殿に、南西の副殿は湯殿への途中にある。そのため一階の一部が渡殿になっているため、敷地面積は北東、北西にある副殿に比べると若干だが狭い。だから最初は北西の副殿を予定してたんだが、理由としては納得できるし意見が一致してるなら問題ないから、三人には南西の副殿に住んでもらうことに決まった。

 引っ越しも獣車の引き渡しや結婚の儀式もあるから、明々後日を予定している。ゲート・クリスタルはその時に渡す予定だ。


 アプリコットさんは俺達と同じ本殿を希望している。現在リカさんの屋敷に滞在してもらってる理由は、俺達が狩りに出ている間にバリエンテの刺客に狙われないようにすることだから、より安全なアルカに住むと決めた以上、こっちに来てもらったほうがいい。ミーナとフラムも賛成してくれてるからあとはアプリコットさん次第だったんだが、副殿じゃなくて本殿って言われるとは思わなかった。

 幸い部屋はあるから、アプリコットさんは二階にある一室を使ってもらうことになった。

 本殿の二階南側の一部には客殿と同じような客間があるが、客間から三階、四階に上がってくることはできない。だがアプリコットさんが住む部屋は同じ南側だが、一階はもちろん三階への階段もある。これは招待客がプライベートスペースに入ってこないよう、予め考えられて造られたからだ。

 プライベートスペースは二階に上がった先にあるドアを開けるとホールになっていて、貴族の屋敷でいうと一階に当たる。三階に上がる階段もここにあるが、ホールの先は大きなリビングになっており、その先の廊下を進むと部屋が七つある。アプリコットさんにはこの中の一つを使ってもらうことになる。


 そしてリカさんだが、アマティスタ侯爵家当主のリカさんはアルカに住むことはできないから、ゲート・クリスタルでいつでも好きな時に来てもらうことになっている。部屋は俺達同じ三階だ。

 リカさんは俺と結婚するわけじゃないからってことで遠慮してたんだが、俺からすれば結婚したも同然の人だし、プリム達も同じだった。子供が生まれてアマティスタ侯爵家を継いだら正式に結婚するつもりもある。

 そう思ってたんだが、アルカにはゲート・クリスタルという転移用魔導具があるから、俺がアマティスタ侯爵家に入る必要も、侯爵領に拠点を移す必要もなくなった。マナリース姫のことがあるからまだ無理だが、そっちがはっきりしたら確認をとってからリカさんにプロポーズしようと思ってる。


 そのマナリース姫は、俺と結婚するかどうかはまだ決められてないみたいだが、答えに関わらずアルカを使ってもらおうと思ったから、既にゲート・クリスタルは渡してある。部屋はアプリコットさんと同じく本殿の二階だ。


 ゲート・クリスタルは現在七つ完成しているため、プリム、ミーナ、フラム、ラウス、レベッカ、マナリース姫、リカさんに渡している。何日かすればまたいくつか完成するから、エド達には引っ越しと同時に、アプリコットさんには完成次第渡すことにしている。俺もアマティスタ侯爵領の領都メモリア用とフィール用に一つずつ持っておくつもりでいる。


 今更ではあるが、俺達が住むことになる屋敷は日乃本屋敷と呼ばれていて、屋敷の造りこそ寝殿造だと思うが、屋敷はそれぞれが日本の城を模して建てられている。

 本殿は安土城、副殿は北東が名古屋城、北西が姫路城、南東が熊本城、南西が松本城、客殿は東が岡山城、西が小田原城、従魔殿は首里城、工芸殿が高知城、そして湯殿は大阪城によく似ているから最初は驚いた。この屋敷を造った客人まれびとには城マニアでもいたんじゃないだろうかと思えるほどよく似ているが、本殿は四階建て、副殿は三階建て、客殿と湯殿は二階建て、従魔殿、工芸殿は一階建てだからあくまでも似ているってレベルに留まってるぞ。


 なのでこの機会に、複数ある副殿と客殿に名前を付けることにした。副殿は北東が金鯱殿きんこでん、北西が白鷺殿しらさぎでん、南東が銀杏殿ぎんなんでん、南西が深志殿ふかしでんで、客殿は東が金烏殿きんうでん、西が小峰殿こみねでんだ。それぞれの城の別名だが、悪くないんじゃないかと自画自賛している。


挿絵(By みてみん)


「さて、それじゃあ一度フィールに戻るか。だけどエド、リチャードさんとタロスさんには、本当にゲート・クリスタルを渡さなくてもいいのか?」

「ああ。そもそもアルベルト工房は親父も継ぐ予定はないから、タロスさんが継ぐことになってるんだよ。じいちゃんは引退したらこっちに来るかもしれないが、タロスさんはあそこから動くことはねえ」


 それは知らなかったな。確かにアルベルト工房にはタロスさんと奥さんも一緒に住んでるが、そういうことだったのか。


「マリーナとフィーナはいいの?」

「うちは父さんも漁師だし、フィールから離れさせるわけにはいかないよ」

「私の家族はバリエンテですし、大家族ですからそこまで甘えられません」


 マリーナとフィーナも家族を住まわせるつもりはないか。ミーナもお父さんが近衛騎士だからってことで断ったし、フラムの両親は既に亡くなってるから、今のところはプリムのお母さんであるアプリコットさんだけか。まあ無理を言うつもりもないし、時々遊びに来てくれればそれでいいか。


「前から聞きたかったんだけど、フィーナってどこに住んでたの?」

「セルカに近い小さな村です」

「あいつの領地か。大変だったわね」


 セルカっていうのは中央東を治める王爵の住む都市だが、昔からその王爵の評判は悪かったらしい。何度もプリムに無理な求婚をしてきたそうで、心の底から毛嫌いしている。常に重税を課したり突発的に徴税したりは当たり前で、その税金を使って現獣王ギムノスの即位にも手を貸し、その結果王爵の中では最も高い権力を握っているとか。フィーナは突然課された税を払うことができなかったため、たまたまバリエンテに来ていたフィールの商人に身請けを頼んで奴隷になったという経緯だが、他にも身請け奴隷になった村人は多いそうだ。


「それなら尚更、フィーナの家族をアルカに、それが無理でもフィールに連れてきた方がいいんじゃないか?」

「俺もそう言ったんだよ。さすがにフィーナの家族まで養うのは無理だから仕事を探してもらう必要があるが、そんな村にいたら今度は弟か妹が身請けする可能性もあるからな」


 それは俺も同感だ。さすがにプリムを連れていくわけにはいかないが、俺が行けばすぐにアルカには連れていけるし、フィールまでもすぐだ。それぐらいならいつでもやるぞ。


「で、ですけど、Pランクのハンターにそこまでしてもらうわけには……」

「それは関係ないって。友達の家族が困ってるなら、助けるぐらいはするさ」


 俺は二度と家族には会えなくなったが、自分で決めたことでもあるから後悔はしていない。だけどだからこそ、みんなには家族を大切にしてもらいたい。


「ありがとうございます……」

「それなら私もついていくわ。もしかしたら妹と会えるかもしれないしね」


 俺一人で行って、近くに着いたらフィーナを呼ぼうと思ってたんだが、マナリース姫が手を挙げてくれた。確かにマナリース姫はアイス・ロックのシリウスと契約してるから、小柄なフィーナとエドを乗せるぐらいはできるし、何より道案内をしてもらえると俺としても助かる。


「あたしも行きたいけど、まだバリエンテに戻るわけにはいかないから、今回は留守番しておくわ」


 バリエンテはプリムがフィールに逃れたことを、おそらく知らない。アミスター王家もそれを懸念して、表向きフィールを救ったのは俺一人ということにして、プリムの生存を匂わせる情報は徹底して封鎖してくれている。

 だけどプリムは、エンシェントフォクシーに進化してしまった。翼族のエンシェントフォクシーであり、三人目のエンシェントクラスということで話題に上がるのは時間の問題だ。しかもエンシェントヒューマンの俺と結婚してるんだから、話題にならない方がおかしい。そうなったらバリエンテだって絶対に気付くから、アミスターにプリムの身柄引き渡しを要求してくるだろう。

 幸いアミスター王家はプリムを引き渡すつもりはないし、俺だって愛する嫁さんを渡すわけがないだろって話だから、それを理由に戦争を起こすっていうなら受けて立つつもりだ。


 そういうわけでいくら時間の問題とは言っても、プリムが自分から生存を明らかにするのはマズいことになる。だから今回はお留守番をしてもらうしかないわけなんだよ。


「じゃあフィーナの村には俺とマナリース様、それからエドとマリーナ、フィーナで行くとするか」

「あたしも?」

「そうするべきでしょうね。三人とも小柄だからシリウスには乗れるし、私も道案内はしてもらいたいから、最低でもフィーナにはついてきてもらうつもりだったわ」


 マリーナも行けるんなら行くべきだよな。なにせ二人ともエドと結婚するんだから、家族に紹介しておくに越したことはない。


「ありがとうございます、マナリース様、大和さん」

「まあどこかで一泊しなきゃいけないから、アルカには戻ってくるんだけどな」


 セルカっていう街までは、空路を使っても二日かかる。だからどこかの街で一泊する必要がある。

 だけど俺達はアルカに戻ればいいだけだから、いちいちどこかの街に入る必要はない。フィーナの家族を迎えに行くわけだから、バリエンテ側にはあまり情報を与えたくないっていう理由もある。

 ついでってわけじゃないが、マナリース姫の妹も迎えに行くことにしたから、しばらくはバリエンテで動くことになりそうだ。まあ妹さんのユーリアナ・レイナ・アミスター第三王女には知らせる方法がないから、予定される帰路を探すしかないんだが。


 出発はエド達の引っ越しを待つことに決まった。エド達にもゲート・クリスタルを渡せるし、俺もフィール用とメモリア用に一つずつ確保しときたいからな。アルカ経由になるが、移動時間を短縮できるのはありがたいから、これからも増産しといてもらおう。

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