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21・温泉での相談

Side・プリム


「それでプリム、問題はほとんど解決したと思うけど、フレデリカ様のことはどうするの?」

「もちろん決まってるわ。だけどリカさんは侯爵家の当主だから、結婚するにしても国王陛下の報告はしなきゃいけないし、マナのことがあるから、すぐにってわけにはいかないと思うわ」


 あたしは湯殿で、母様と密談をしていた。密談っていってもみんなもいるし、母様に無理やり引っ張ってこられただけだし、特に隠すようなことでもないんだけどね。


 母様と話してたのは、リカさんのこと。ゲート・クリスタルを渡せばどこにいてもアルカに来ることができるから、距離的な問題は一気に解消されたと言ってもいい。つまり大和と結婚する最大の障害が消えたことになる。

 残る問題があるとすれば、侯爵家当主が結婚することになるわけだから、アミスターの国王陛下に報告をしなければいけないということ。普通なら何も問題はないんだろうけど、今回はちょっと問題がある。

 あたしの幼馴染で親友のマナリース・レイナ・アミスター第二王女は、大和に嫁ぐためにフィールに来ている。もちろんマナが断ればすぐに立ち消える話だから問題はなくなるんだけど、今はまだ答えを出してないから、あたしやミーナ、フラムは既に結婚してるからいいとしても、侯爵家当主リカさんが結婚してしまうと何かしらの問題が起きてしまう可能性がある。

 傍から見たらとっくに落ちてるのに、なんでまだ決められないのかしらね?今度せっついてみようかしら?


「マナリース様って、とっくに落ちてるんでしょう?」

「落ちてるわね。だけど本人は認めないし、大和もどうしていいのかわからないって感じだから、全然話が進まないのよ」


 そのくせ大和はマナに、ウインガー・ドレイクのアーマーコートをプレゼントしようとしてるのよね。あたしの幼馴染だからってことで優遇してるだけかもしれないけど、それならフェザー・ドレイクのアーマーコートでもいいと思うんだけど。


「それは私も気になってましたけど、大和さんは大和さんで、マナリース様がどう決断してもいいように考えてるんじゃないでしょうか?」

「私もそうだと思います。大和さんは自分に向けられている好意にはものすごく鈍感ですから、マナリース様の想いにも絶対に気が付いていません」


 いつの間にかミーナとフラムも寄ってきたけど、悲しいかなあたしもフラムの意見には賛成なのよね。あたし達はもちろん、リカさんの想いにも全く気が付かなかったんだから、マナの想いにも気が付いてないってことは断言してもいい。


「そうなると、やっぱりマナね」

「そうなりますよね」

「プリムさん、マナリース様を焚き付けるとまでは言いませんけど、なるべく早く決めていただくことってできませんか?」

「それができたらやってるんだけどねぇ」


 実はさっきアーマーコートを頼んだ際、マナのウェディングドレスも頼んでいるの。あからさまに採寸させてもらうわけにはいかなかったけど、オーダーメイドでアーマーコートを仕立てることになったから、マリーナに事情を話してお願いしたのよ。


「できれば披露宴までに決めていただけると助かるんですが、私達から催促するのは失礼が過ぎますし……」

「そこはプリムに任せるしかないわ。何か決め手になるようなことがあれば一番いいんだけど、そんなことが簡単に起きるわけもないから、せっつくしかないでしょうね」


 母様の言う通りなのよね。ミーナとフラムがマナに催促なんてできっこないから、あたしがやるしかない。決め手になるようなことだって人それぞれなんだから、仮に起きたとしてもマナが素直になってくれるとは限らない。

 だけど無理にせっついてもロクな結果にならないから、ここはマナの気持ちを確認するぐらいでとどめておくべきでしょうね。ああ、大和がどう思ってるのかも知りたいから、そっちも聞いておきましょう。


「とりあえず、こんな感じかしらね」

「それしかなさそうですね」

「ですね。でしたら大和さんへは、私が聞いてみます」

「でしたら私はリカ様に、大和さんと結婚できるかどうかをお聞きしてみますね。リカ様は結婚されたいと思ってらっしゃるでしょうが、侯爵家の当主ということも気にされておられるでしょうから」


 フラムが大和に、ミーナがリカさんに確認か。リカ様は問題ないと思うけど、それでも聞いておくことは大事よね。じゃあそれでいきましょう。


「そっちはそれでいいとして、披露宴はどうするの?アルカでやるつもりなのは聞いてるけど、招待する方も決めないといけないし、お料理のことだってあるでしょう?」

「そっちはだいたい決まってるわ。お料理もレラやシリィ達コロポックルがやってくれることになったから、調理師を雇う必要もなくなったし」

「食材もフェザー・ドレイクはもちろんウインガー・ドレイクもありますし、アルカで養殖しているお魚もいますから」

「野菜や果物も育ててるそうですから、ほとんどアルカにある物で賄えるそうです」


 招待客も領代、各ギルドマスター、ホーリー・グレイブ、カミナさん、レックス団長、ローズマリー副団長、ミーナの直接の上司や同僚だった騎士、リチャードさん、タロスさん、マリーナの両親、エドとマリーナの友人ぐらいね。ってけっこう多いじゃない。領代はご家族も招待しなきゃいけないから、ざっと見積もっただけでも40人もいるとは思わなかったわ。


「ソフィア伯爵はお一人で赴任されてきてるけど、アーキライト子爵は奥様と小さな子供も何人かいたわよね?」

「はい。アーキライト子爵は奥様が三人おられて、お子様はお二人だったはずです」

「50人超えちゃいそうですね。クラフターズギルドとバトラーズギルドから何人か雇うことを考えた方がよくありませんか?」


 コロポックルは七人しかいないんだから、その方がいい気がしてきたわね。アマティスタ侯爵家の使用人とかは手伝ってくれるかもしれないけど、ミュンさんはリカさんの母親代わりでもあるからそっちに回ってもらうわけにはいかない。そうなるとアマティスタ侯爵家には頼みにくくなる。

 何よりアマティスタ侯爵領はワイバーンなら一日あれば行けるから、お母様も呼んだ方がいいかもしれない。ゲート・クリスタルを使えるようにするためにも一度行っておかないといけないし、転移石板があればすぐにフィールに戻ってこられるんだからね。


 そうなると当初の予定通りクラフターズギルドから調理師を、バトラーズギルドからメイドを雇った方がいいわ。調理師は二人か三人で大丈夫だと思うけど、バトラーズギルドからは10人はほしいところかしら。


「何の話をしてるの?」


 丁度いいタイミングでマナとリカさんがこっちに来た。


「十日後に予定してる披露宴のことよ」

「ざっと数えただけでも50人近い人を招待することになりますから、コロポックルさん達だけじゃ人手が足りないんじゃないかって思ったんです」

「ああ、なるほどね。確かにけっこうな人数よね。じゃあバトラーズギルドから人を雇うわけね」

「はい。研修にも丁度いいと思うから、そこそこ人は集められると思うんです」


 Iランクバトラーの派遣は認められないけど、Cランクバトラーなら研修としても丁度いいでしょうからね。


「あとは調理師ね。領代とかギルドマスターを招待するわけだから、さすがにランクが低い調理師を雇うわけにはいかないわ」

「確かにね。ということはGランクぐらいは確保しときたいか。異郷の都に頼むのが無難かしら?」

「あとは魔銀亭ぐらいでしょうか。もちろん他にもいらっしゃいますけど、個人でお店を開いている方が多いですから、雇うとしたら報酬をしっかりとしないといけないと思います」


 そうなのよね。


 フィールに限らず、アミスターには個人で経営している食事処はけっこう多い。これはサユリ様だけじゃなく、過去の客人まれびともほとんどがアミスターに現れていることもあって、アミスターは客人の世界の料理が多いことが理由になっている。

 そういった個人経営のお店は味もいいことが多いし、客人の料理は手間がかかるものも多いから、それぞれの街でも人気が高い。しかもそういった調理師はだいたいGランク以上になってるから、雇うとしたらお店を休ませることなる埋め合わせ分も含めなきゃいけないから、金貨数枚は確実ね。


「クラフターズギルドを通して、調理依頼を出すことになるでしょうね。さすがに駆け出し調理師なんてのは困るから、条件としてGランク以上、最低でもSランクが妥当かしらね」

「それなんだけど、本当にうちからは使用人を出さなくてもいいの?」


 リカさんが不安そう、とはちょっと違うけど、これでいいのかって顔をしている。普通当主の結婚ともなれば、その家の使用人が方々駆けずり回って準備とかをするんだけど、披露宴を行う会場はアルカだし、アマティスタ侯爵家の侍従長でもあるミュンさんはリカさんのお母さんでもあるから、今回は遠慮させてもらっているのよ。


 リカさんもウェディングドレスを着てあたし達の隣に立ってもらうことは伝えてあるけど、ものすごく恐縮されちゃったわ。リカさんの立場が立場だから結婚できないだけで、あたし達はリカさんは大和の妻の一人っていう認識でいるし、大和も子供がアマティスタ侯爵家を継いだら結婚することを考えてるから、それなら一緒に披露宴に出ても問題ないと思うしね。


「それはありがたいんだけど、うちの使用人も私が相手を見つけたことを喜んでくれてるから、できれば手伝いぐらいはしたいみたいなのよ」


 あー、なるほどね。それなら何人かは手伝いに来てもらうのもアリかも。

 そうなるとまた考え直しね。だけどこれはこれで楽しいし、狩りとかで殺伐とした日々を送ってるあたし達には新鮮だわ。だから一生忘れられない披露宴にしたいわね。

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