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19・ドレスの仕立て

Side・マナリース


 ハンターズギルドで報告を終えた私達は、アルベルト工房へやってきた。エド達にもアルカに招待することはもちろんだけど、私のアーマーコートを作ってもらうことも目的の一つよ。


「本当にウインガー・ドレイクを狩ってきたとか、驚くより先に呆れるだろ。バカなんじゃねえかって思えるぞ?」


 そんなことを言うエドだけど、気持ちはわからなくもないわ。私はフェザー・ドレイクで作ってもらうつもりだったのに、大和がウインガー・ドレイクを使うって言い出したからマイライトの山頂に行くついでに狩ることになって、しかも本当に狩れてしまったんだから言葉に詰まるわよ。


「うるさいよ。手に入ったんだからいいだろ」

「まああたしとしては滅多に使えない素材だから、ありがたいけどね。既に六着も作ってるから、ありがたみは薄れてるけど」


 マリーナのぼやきもわからなくもないわ。今のフィールにはウインガー・ドレイクに限らず、異常種や希少種の素材がかなり多い。他の街のクラフターからすれば、羨ましい限りでしょう。その素材をほとんど毎日使ってるんだから、ありがたみが薄れるのも当然だわ。


「使えるんだからいいだろ。それでデザインなんだけど、基本は俺達と一緒でいいんですよね?」

「ええ。それでお願いするわ」


 私が大和達のアーマーコートを気に入ったのは、プリムのようなバトルドレス風の意匠とミーナのような騎士鎧風の意匠が違和感なく融合してる見た目はもちろん、高い実用性が好きだからよ。装甲板は魔銀ミスリルになるけど、ラピスウィップ・エッジっていう多節剣を瑠璃色銀ルリイロカネで作ってもらってるから、そこまで贅沢は言わないわ。いくらになるかわかったものじゃないもの。


「じゃあ魔銀ミスリルの装甲をどうするか、ですね。もう決まってるんですか?」

「ええ。大和、お願いしてもいい?」

「了解です。ちょっと待ってください」


 私が気に入ったのは大和のような大き目の肩甲、プリムのようなスカート状の腰甲よ。胸部は似たような感じになるから悩んでるけど、フラムみたいに肩甲と一体化してる感じにしてもいいかもしれないわ。あとは腹部だけど、これは腰甲を少し大きめにしてカバーしようと思ってるわ。色はほとんど白に近い紫色で、白菫色しろすみれいろっていうのにしたわ。


「ふむふむ。部分的には大和とプリム、それからフラムと似てるけど、全体的に見るとミーナより軽装っていうイメージですね。胸部が少し心配だけど、装甲を少し大きくして胸部を完全に覆うようにすれば大丈夫かな。こんな感じでいいですか?」

「そうね、肩の装甲は少し小さくしてもらえる?あと腰の装甲板だけど、一枚一枚を大きくして、数は減らしてもらえるかしら?」

「ということは……こんな感じでどうですか?」

「いいわね。これでお願いできる?」

「わかりました。じゃあウインガー・ドレイクの革がなめされてからになりますから、仕上がりは五日後ぐらいになります」


 ああ、革をなめす作業があったんだったわ。工芸魔法クラフターズマジックにタンニングっていう魔法があるから一日もあればなめせるけど、解体にも一日は見ておく必要があるから、それぐらいかかるのは仕方ないか。


「それでお願い」

「わかりました。任せておいてください」


 大和達のコートを仕立てたのはマリーナだけど、魔銀ミスリルの装甲板を作ったのはエドだって聞いてる。エドはGランクに昇格したけど、マリーナはまだBランクだったはず。これだけウインガー・ドレイクの革を使ってるんだから、そろそろSランクの試験資格は得られるんじゃないかと思うけど、クラフターのことはよくわからないから何とも言えない。

 ちなみにエドは青鈍色鉄アビイロガネの製錬とメルティングっていう新しい工芸魔法クラフターズマジックを奏上した功績が認められて、ほとんど特例で昇格してるから、参考にはならないのよね。


「ところでホーリー・グレイブのアリアさん、クラリスさん、バークスさんに翡翠色銀ヒスイロカネ製武器の品評依頼を出しただろ?どんな具合なんだ?」

「ああ、それなら昨日の夕方渡したから、今頃は狩りをしながら試し切りしてると思うぞ」


 エドが新たに開発した翡翠色銀ヒスイロカネは、魔銀ミスリル晶銀クリスタイトの合金になる。どちらもアミスターで採れる金属で入手も難しくないから、自前で金剛鋼アダマンタイトに匹敵する強度と硬度の金属が手に入ることは、ハンターとしても王家の人間としてもありがたいわ。


 魔銀ミスリルが魔力強度6、硬度5、魔力伝達率8、金剛鋼アダマンタイトが8、8、3、青鈍色鉄アビイロガネが7、8、6なのに対して翡翠色銀ヒスイロカネは7、7、8だから、強度と硬度は金剛鋼アダマンタイトに劣るけど高い魔力伝達率でカバーすることができるわ。しかも重さも魔銀ミスリルと同じだから、青鈍色鉄アビイロガネ金剛鋼アダマンタイトに取って代わるとしたら、翡翠色銀ヒスイロカネ魔銀ミスリルに代わる金属になりえる。


魔銀ミスリル晶銀クリスタイトでそんな合金ができるとは思わなかったな。単純に金剛鋼アダマンタイトを加えると強くて硬くなるだろうとしか考えてなかった」

「わからんでもない。俺だって最初は考えなかったからな。だけど金剛鋼アダマンタイトはバレンティアでしか産出しないから、アミスターじゃ欠品することも珍しくない。それならいっそ、アミスター産の魔銀ミスリル晶銀クリスタイトで合金を作ってみたらいいんじゃないかと思ってな。成功するかは未知数だったが、それを言ったら瑠璃色銀ルリイロカネの時もそうだったし、何より既に瑠璃色銀ルリイロカネは完成してるんだから、失敗しても構わねえっていう軽い気持ちで試したんだよ」


 そんな軽い気持ちで作られても困るけどね。


 晶銀クリスタイトはアミスターでも産出する地域が限られているけど、魔銀ミスリルは多くの地域で産出している。さすがに鉄程じゃないけど、それでも鉄より強いし錆びないし魔力も通すから、アミスターじゃ農作業用の道具も魔銀ミスリルを使ってる所が多いわね。加工の手間を考えれば鉄の方が楽だし値段も安いんだけど、使い勝手とかを考えると魔銀ミスリルの方が便利なのよ。


 ちなみに標準サイズの魔銀ミスリルのインゴットが2,000エルなんだけど、鉄のインゴットだと200エルとすごい開きがあるの。鉄のインゴットはBランクまでのクラフターが作ることが義務付けられているから不足することはないけど、それでも出来に差があるのよね。


「それなら鋼を作るのもアリだろ」

「前に言ってた強化鉄だな。それもアリだが、それこそお前がやれよ。クラフターズギルドとのユニオン登録考えてんだろ?」


 そういえばそんなことを言ってたわね。確かに大和がクラフター登録すれば、合金の技術はすごく発展しそうだわ。


「そうなんだけどな、今はハンターとして覚えることが多いから、そこまで余裕がないんだよ」


 ああ、そうだったわね。先日のアライアンスミッションの際、本来なら大和がリーダーを務めるはずだったのに、ハンターになってまだ一ヶ月も経っていないから経験が足りないということで、ファリスが代わりにリーダーを務めたという経緯がある。

 だから今はアライアンスリーダーになるための知識や戦術、兵法なんかも勉強中よ。


「そうなのか。ハンターっていったら魔物を狩るぐらいだと思ってたんだが、そんなのまで覚えないといけないんだな」

「そりゃ生死に直結するんだから、レイドリーダーでもそれぐらいは覚えるし勉強するわよ」


 レイドリーダーもメンバーの命を預かっているんだから、責任は重大よね。ウイング・クレストのリーダーは大和だから、それぐらいはしっかりと考えてくれてるだろうけど、どっちかって言ったら力技で物事を解決する傾向があるから、戦術とか兵法とかはしっかりと学んで欲しいわ。


Side・大和


 アライアンスリーダーか。正直、向いてないんだよな。気が付いたらなってたレイドリーダーだって手一杯なのに、異常種討伐や危険地域探索っていう高難度のアライアンスなんて俺の手には余るぞ。


 アライアンスの中心的な存在になるPランクハンターは個人活動が多いから、俺もそれに倣おうと思ってたのに、聞けばPランクハンターはレイドを組んでいたハンターが引退したり死亡したりで、気の合う仲間が少なくなってきていることが主な理由らしい。それを聞いた時は、顔から火が出そうなぐらい恥ずかしかったな。だから刻印具に入ってる兵法書とかを読んで勉強してるところなんだよ。


 それはそれとしてだ、翡翠色銀ヒスイロカネの使い勝手はホーリー・グレイブが戻ってくるまでわからないんなら、先にアルカに誘ってみるか。


「あれ?そういえばフィーナは?」

「お前らの獣車作ってるよ。奴隷からも解放できたし、完成したら三人で神殿に行く予定だ」


 まだ結婚してなかったのかよ。というかそれ、とてつもなくヤバいフラグだぞ。


「そうなの?」

「うん。ちなみに獣車は二、三日でできるそうだから、もうすぐだよ」


 あと二、三日か。なら俺達の披露宴もその頃にしよう。


「それなら披露宴の予定も立てやすいですね」

「そうですね。招待する方の予定もありますし、こちらも準備がありますから、だいたい一週間後ぐらいでしょうか?」


 短い気もするが、それぐらいでいいだろう。ドレスは大至急ってことでクラフターズギルドに依頼すれば、多分なんとかなるだろう。割増しになると思うが、それぐらいはやむを得ない。ついでってわけじゃないがエドとマリーナも連れて行ってフィーナに仕上がりの予定を聞いて、マリーナとフィーナのドレスも仕立ててもらおう。エドも稼いでるから、それぐらいは出せるだろうしな。


「ドレスねぇ。貴族じゃないんだから別にいらないでしょ」


 元貴族のセリフとは思えないプリムの発言だが、そういうわけにはいかんだろ。高ランクハンターは貴族に招かれることもあるが、依頼や報告だけじゃなく、夜会とかってこともあるんだからな。


「そういえばそうでしたね。忘れてたわけじゃないですけど、できれば遠慮したいですから考えないようにしてました」


 ミーナがそう言うと、フラムとレベッカがすごい勢いで頷いた。気持ちはわかるが君らも逃げられんからな?


「そういうことなら仕方ないか。ということはレベッカのドレスも仕立てるのね?」

「えっ!?」


 何を驚いてるんだ、義妹よ。当たり前だろう?


「俺とラウスはアーマーコートのままでも問題ないと思うから頼まないが、女性陣はそうはいかないだろうからな。そうなると当然レベッカもってことになるだろ?」

「納得ですけどレベッカは別に急ぐわけじゃないですから、フラム姉さん達を優先するべきだと思いますよ」


 そっちは別に一緒でもいいと思うぞ。


「そういうわけだからエド、お前も頼むんだろ?」

「悪いな。既にマリーナが自分で仕立ててるんだよ。さらに言えばプリム達のも出来てるらしいぞ」


 仕事早いな。というかいつの間に仕立てたんだよ?


「アーマーコート仕立ててるから、サイズは手元にあるんだよ。それにプリムが言ってたけど、あんたの世界じゃウェディングドレスっていう、結婚のためだけに着るドレスがあるそうじゃん?だから色々と考えて仕立ててみたんだよ」


 マジかよ。確かにプリム達に俺の世界の結婚がどんなものか聞かれたから、ウェディングドレスのことも含めて話したことはあるけど、それだけで考えたのかよ。どんなデザインなのかが気になるが、貴族のドレスもあるからそこまで遠いもんでもない気がする。

 というか俺的には、洋装よりも和装の方を何とかしたいから、落ち着いたら頼んでみよう。


「ちなみにフェザー・ドレイクの羽毛と皮を使ってるから、見た目もけっこう綺麗よ。さすがにウェディングドレス用ってことで試作を頼んだから、レベッカのはないけど」


 プリムも一枚噛んでたのかよ。確かにプリムのストレージにもフェザー・ドレイクは何匹か入ってたが、それを使うとは思わなかった。そもそもフェザー・ドレイクのドレスって、かなり高かったはずだろ?


「デザインは披露宴まで内緒にさせてもらうけど、ちゃんとみんな違うデザインになってるから、楽しみにしててね?」


 そう言われてしまっては首を縦に振るしかない。どうやら色も白じゃなく好みの色に染めたみたいだが、ここはヘリオスオーブなんだから白にこだわらなくてもいいだろう。多分色は、アーマーコートと同じだと思うが。


 マリーナとフィーナのドレスも報酬ってことで仕立ててあるそうだから、披露宴に着るドレスは問題ない。

 だけどウェディングドレスとパーティードレスは別物だから、やっぱり全員分仕立てておくべきだろう。後でクラフターズギルドにも行くとするか。

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