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14・山頂の石碑

Side・ミーナ


 私達は今、マイライト山脈の山頂に来ています。

 昨日一日でなんとか武器は使えるようになりましたが、それでもやはり大変です。私の剣と盾、フラムさんの弓は、デザインはともかく性能はシンプルですからまだマシですが、フラムさんと同じ弓を使うレベッカちゃんは槍にもなってしまう弓を、ラウス君なんて盾から刃が出てきて二刀流みたいに使うことができるんですから、一朝一夕で使いこなせるような物ではありません。


 それはさておき、マイライト山脈の山頂は、話に聞いていたように湖があるのですが、思っていたよりも大きいです。さらに湖畔には大きな木が一本あります。王都にいた頃によく似た木を毎日見ていましたから、おそらくあれがマイライト山脈にあると言われている世界樹だと思います。


「あれが世界樹か。話には聞いてたが大きいな」

「あたしも王都やエスペランサにある世界樹以外だと初めてね」

「私もよ」


 世界樹は王都にある大世界樹を含めて、フィリアス大陸に13本あると言われています。有名なのはバシオン教国の教都エスペランサの大神殿にある世界樹ですが、アミスター王国ではビスマルク・ボールマン伯爵領にある世界樹も有名です。他にはソレムネ帝国のオアシス、レティセンシア皇国の滝の上も比較的容易に目にすることができますが、その他の世界樹は難所にあることが多いため、あまり人目には触れていません。

 ちなみに世界樹は100メートル近いの巨木ですが、大世界樹は1,000メートル以上あり、王城は大世界樹内に作られています。他にも小世界樹という、数メートル程の木がありますが、こちらはバシオン教の聖樹でもありますので、多くの場所に植樹されています。


「だけど世界樹もすごいけど、湖もデカいよな。あるって噂はあったが、ここまでとは思わなかった」

「わかるわ。だけど綺麗よね。水面に山や雲が映りこんでるわ」

「本当ですね」


 周囲は丘のようになっていますが、ほとんどが岩肌が剝き出しになっています。それでも水面に映える風景はマナリース様やフラムさんの仰る通りとても綺麗です。ですが……


「こんなに綺麗なんだからスピカやブリーズも呼んであげたいところだけど……」

「魔物がどこにいるかわかりませんからね」


 私はマナリース様と一緒に小さく溜息を吐いていました。スピカはマナリース様が、ブリーズは私が契約しているバトル・ホースなので、一緒にここに来ることはできませんでした。下から登ってくるなら大丈夫なのですが、それでも高ランクの魔物に襲われる可能性が高いですし、何より私達は空から来ましたから、空を飛べないバトル・ホースに乗ることはできなかったんです。二匹とも置いていかれることがわかっていたので、とても寂しそうでした。


「その魔物だけどさ、あれを見てよ」

「あれ?フェザー・ドレイク!?」


 プリムさんの指す方にはフェザー・ドレイクが数匹、こちらを睨んでいるように見えます。ですが襲い掛かってくる素振りは見えません。おかしいですね。明らかにこちらに敵意を持っているのに襲ってこないなんて。というか二匹ほど羽毛の色が違いますし、何より一回り大きく見えるんですが?


「もしかして、ここって結界の中なの?」

「だと思います。だけど断定はできないから、ちょっと確認しますよ」


 そう言うと大和さんは、無造作にフェザー・ドレイクに歩み寄っていきます。


「や、大和さん!ウインガー・ドレイクがいます!気を付けてください!」


 フラムさんがクエスティングで確認されたようで大きな声を上げています。って、ウインガー・ドレイク!?希少種じゃないですか!


「わかってるって。狙ってた獲物が向こうから来てくれたんだから、ここはありがたくいただいておくよ」


 話が通じてない気がしますが、そういえば確かに大和さんとプリムさんは、ウインガー・ドレイクを狩ると言ってた気がします。だからといって、無造作に近付いていかれると心臓に悪いです!


「『アイス・スフィア』……『アイス・アロー』」


 そうこうしているうちに、大和さんがアイス・スフィアという魔法を四方に飛ばし、そこからアイス・アローという魔法を放ちました。弓術師も真っ青の矢の雨がフェザー・ドレイクの群れに降り注ぎ、次々とフェザー・ドレイクが氷り付いていきます。


「予想通り、ここは結界の中みたいだな。これだけやってもウインガー・ドレイクが近付いてこないし」

「っぽいわね。というかあたしじゃ燃やしちゃうから、任せてもいい?」

「了解。素材は大事だからな」


 確かに素材は大切ですけど、こんな状況だとそんなことを気にしている余裕はありません。それなのに大和さんは、ウインガー・ドレイクにコールド・プリズンという刻印術を使い、あっという間に倒してしまいました。


 フェザー・ドレイクはBランク、ウインガー・ドレイクはS-Rランクですが、ウインガー・ドレイクは希少種ということもあって、Sランクでもハイクラスに進化している人が数人がかりで倒せるかどうか、GランクやPランクでも単独討伐は不可能と言われている魔物です。ですからいくらエンシェントクラスといえど、あんなに簡単に倒すことはできないと思います。


「水気も飛ばしたし、二匹も手に入ったのはありがたい。これでマナリース様のアーマーコートも作れるな」

「そうね……」


 マナリース様も呆れています。確かにマナリース様も私達と同じアーマーコートをご希望ですが、ウインガー・ドレイクの皮は私達の分で全て使い切っていますから、フェザー・ドレイクで作られるつもりだったんです。

 なのに大和さんがウインガー・ドレイクを使うことを提案され、今日狩ることにしていたんですが、こうまであっさり手に入るなんて、さすがに私も想定外でした。


「まあ結界があることはわかったから、ミーナ、スピカとブリーズを呼びましょうか」

「え?あ、はい。そうですね。『コーリング』」

「『サモニング、バトル・ホース。その名はスピカ』」


 私の従魔ブリーズとマナリース様の召喚獣スピカが魔方陣から、嬉しそうに姿を見せました。カーバンクルのルナは最初からいますから、これで従魔、召喚獣が勢揃いということになります。今後増える可能性は高いですから、現時点でという但し書きが付きますが。


Side・大和


 ミーナとマナリース姫もバトル・ホースを召喚したか。フェザー・ドレイクとウインガー・ドレイクは俺のストレージに収納してあるから、従魔や召喚獣は俺達の近くで遊ばせておいて、俺達は少しここを調査してみるか。

 と言っても空からみた限りじゃ森もないし、湖畔も少し草が生えてるぐらいだから、調査も何もない。少し下れば普通に森があり、そこがフェザー・ドレイクの巣になってることは間違いないが、さっき俺が群れを倒しているから数は減っているだろうし、何かあるとしても山頂付近の森の中より山頂の湖畔の方が可能性が高い。

 実際何もないように見える湖畔だが、一点だけ不自然な物が視界に入る。不自然どころか明らかな人工物だから、もしかしたらあれが結界の起点だっていう可能性もある。世界樹っていう可能性も十分あるんだが、あれは魔力を吸収して成長するそうだから、結界の起点にはならないと思う。


「それにしても、あからさまに怪しいわね。それにこの……文字だと思うけど、なんて書いてあるのかさっぱりわからないわ」

「ですね。それにこの石碑、もしかして晶銀クリスタイトじゃないでしょうか?」

晶銀クリスタイト?それにしては大きすぎませんか?」

「そうよね。普通、晶銀クリスタイトは手で持てる大きさだし、これだけ大きな晶銀クリスタイトが産出したら、確実に王家にも報告が入るわ」

「昔の物だから、記録が残ってないってことはないんですか?」


 全員で石碑を調べている、というか見ているだけだが、浅緑色に輝いてるから晶銀クリスタイトで作られてることは間違いないだろう。


 だけど俺にとって、そんなことはどうでもよかった。


「それはありえるわね。大和、あんたはどう思う?大和?」

「どうかしたの?」


 絶句した俺に気が付いたプリムとマナリース姫が声をかけてくれたみたいだが、俺の耳は届かなかった。

 そりゃそうだろう。まさかこんな所で見ることになるとは、思いもしなかったんだからな。


「……これ、俺の世界の文字だ」

「えっ!?」


 驚いたなんてもんじゃない。まさかこの世界で俺の世界の文字、しかも日本語を目にすることになるなんて、思ってもいなかったからな。


「な、なんて書いてあるの?」

「……ここを訪れし異世界の客人まれびとが、我らと志を同じくするものと信じ、これを遺す」

「我らって……複数いたってことなの?」


 そういうことになるよな。正直、なんて言ったらいいのかわからない。石碑に記されていた日付は天暦1934年9月13日。今が天暦2034年9月20日だから、約100年前ということになる。


「確か記録に残ってる最後の客人って、丁度この時期だったよな?」

「ええ。あなたと同じくこのアミスター王国に現れて、当時の王家に嫁がれたサユリ・レイナ・アミスター様。私のご先祖様でもあるわ。だから多分、サユリ様が遺したものだと思うんだけど……」


 だが確かサユリ様も、俺と同じく一人だけでこの世界へ飛ばされてきていたはずだ。複数人もいれば必ず記録に残るし、隠しようもない。俺だってうっかりライブラリーを見せちまったからバレたし、そこからは隠してはいないが、いつまでも隠しきれるものじゃないとは思っていた。


「大和?」

「え?ああ、すまん。ちょっと考え事してた」

「無理もないわね。まさかサユリ様がそんなものを遺してたなんて、聞いたこともなかったし。それで、どうするの?」

「もちろん調べるさ」


 マナリース姫にとってはご先祖様だろうけど、俺にとっては同郷の人間だ。生まれた時代は違うけど、それでも同じ世界だということは間違いない。だから調べないという選択肢は最初からない。それに石碑には、とんでもないことも書かれていたからな。


「私もサユリ様が遺された物には興味あるけど、どこを調べるの?言っちゃなんだけど、ここにあるのは晶銀クリスタイトの石碑だけで、他には何もないのよ?」


 マナリース姫も興味津々だが、それでも周囲には他に何もない。

 だけど石碑を読める俺には、どこを探すかは既に決まっている。


「いえ、探すのはあっちです」

「何もないけど?」


 俺が指したのは空だが、確かにそこには何もない。みんなが訝しむのも当然の話だ。


「いや、どうやら空にあるらしいんだ」

「え、ええええええっ!?」

「そ、空にっ!?」


 石碑には過去の客人が遺した天空島への転移陣も刻まれていた。多分これを使えば、俺達は天空島とやらにいけるのだろう。ヘリオスオーブで転移といえばトラベリングが真っ先に思いつくから、多分それを応用してるんじゃないかと思う。


「なるほど、天空島ね。面白そうじゃない」

「でしょう?」


 正直、天空島なんてものがあるとは思ってもいなかった。サユリ様が遺した天空島がどんなものかはわからないが、島と言う以上、某天空の城が真っ先に思い浮かぶし、実際そんなにかけ離れてはいないと思う。それに石碑はここにあるわけだし、この場所に戻ってくることもできると思う。万が一戻ってこられなくてもジェイドとフロライト、シリウスがいるからそこから直接飛んで帰ることもできるだろうしな。


「ちょっと怖いけど、興味深いですね」

「空に浮かぶ島かぁ。客人まれびとの遺産じゃなかったら信じられないところね」


 ラウスとプリムも興味津々だ。全員異議なしってことでいいかな。


「ああ。それじゃ行くぞ」


 トラベリングは魔法陣を門に見立て、異なる二点間をつなぐことで転移を可能としている。トラベリングが付与されてるってのは俺の予想だが、トラベリングを基にした従魔魔法のコーリングや召喚魔法のサモニングを見る限りじゃ間違ってはいないと思う。


 俺はゆっくりと、石碑に刻まれていた転移陣に魔力を流した。すると転移陣が光を放ち、俺達を中心に直系3メートルほどの魔法陣が現れた。どうやらこれをくぐれってことみたいだな。

 視線を交わし頷き合うと、俺達はゆっくりと、魔法陣に向けて歩を進めることにした。

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