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13・新装備品評

 オークの集落を潰した翌日の夕方、俺達は待ちに待ったミーナ、フラム、ラウス、レベッカの武器を引き取りにアルベルト工房にやってきた。これでしばらくは瑠璃色銀ルリイロカネを作らなくてもいいから、エドも少しは楽になるだろう。まあ青鈍色鉄アビイロガネ翡翠色銀ヒスイロカネの製錬があるから、忙しいことに変わりはないだろうけどな。


「これが私の弓ですか……」


 フラムが手にしているのは、露草色つゆくさいろをした弓だ。装飾はシンプルだがアッパーリムにはフェザー・ドレイクによく似た魔物の意匠が施されている。

 フラムの弓は薄く伸ばした瑠璃色銀ルリイロカネを何層にも重ね、弦は溶けた瑠璃色銀ルリイロカネに浸したウインガー・ドレイクの健を、フェザー・ドレイクに似た装飾にはウインガー・ドレイクの骨を使用している。


 金属の弓は重くて扱いにくいんだが、ヘリオスオーブの場合はフィジカリングを使えば片手でも持てるぐらい身体能力を強化することができるし、弓で魔物の攻撃を防ぐことも珍しくないため、壊れやすい木製の弓は需要が少ない。木製の弓でも魔力を流せば鉄より強化することはできるが、やはり木製だから不安は残る。だから金属製の頑丈な弓の方が好まれるってのは俺によくわかる話だ。


 フラムは露草色っていう、露草の花にちなんだ明るい薄青色が気に入ったみたいで、アーマーコートもこの色だ。

 アーマーコートの特徴としては、弓術師らしく腰に予備を含めて二つの矢筒を吊るすことができるベルトがあり、肩甲は弓を構えることを考えて左側が大きく上腕部や左胸まで覆っている。右側の肩甲は小さいが、それでも右胸はしっかりと覆っているため、胸甲の代わりにもなっている。

 スカートは脛の真ん中ぐらいまであるロングスカートだが、ウインガー・ドレイクの皮で作られているため、防御力は高い。このスカートは紺に近い色になっている。


「綺麗な弓だよな。それにそのフェザー・ドレイクっぽい意匠も悪くない。エド、もしかして何かの魔法が付与されてたりするのか?」

「いや、何もしてねえよ。だけどウインガー・ドレイクの骨を使ってるから、矢の初速が増して飛距離も伸びてると思う」


 そうなのか?

 どうやら魔物の素材を使った場合、魔物の能力が武器や鎧に付与されるみたいだ。初速と飛距離の増加はフェザー・ドレイクの弓の特徴でもあるから、希少種のウインガー・ドレイクを使った弓ならそれ以上の効果が出ても不思議じゃないってことらしい。


 ちなみにウインガー・ドレイクの皮を使ったアーマーコートやトラウザー、スカートだが、こっちは魔力を流すと皮や羽毛が硬化し、僅かだが身体能力を上げてくれる効果を持っていたぞ。あと装甲板はいずれ瑠璃色銀ルリイロカネに換装するから、今は魔銀ミスリルで色も変えてない。


「そ、そうなんですか?そんな弓を、私なんかが使ってもいいんでしょうか……」

「いいんだよ。それにフェザー・ドレイクなら前に大和達が大量に納品してあるから、今フィールにいる弓術師はほとんどがそれを使ってる。クラリスさんの翡翠色銀ヒスイロカネ製の弓もにも使う予定だからな」


 フェザー・ドレイクは弓の素材としては最高の物らしいからな。マイライトに登ると群れに遭遇する可能性が高いから、まれに山から下りてくる個体を狩ることになるが、モンスターズランクはBだからハイクラスハンターが数人いれば単体ならさほど労せず倒せるっていうのも大きい。

 まあそんな事情だから流通量は少なく高級品になってるわけなんだが、当然異常種や希少種になると性能も価格も跳ね上がる。クラリスさんの弓にはエビル・ドレイクを使うつもりらしいから、普通に買ったら神金貨とまではいかないが、白金貨数枚はするだろうな。


「この剣もですけど、盾も軽いですね。すごく扱いやすそうです」


 次に装備を手渡されたのはミーナだ。白銀色に輝く刀身を持つ、勇者の剣を思わせるガードや装飾が施された片手用直剣と、紺藤色の毛皮を張り付けた、こちらも勇者の盾を思わせる白百合色しらゆりいろに輝くカイトシールドを手にしている。アーマーコートがけっこう重装備ってこともあって、全部装備すると麗しの騎士様って感じになるな。あ、紺藤色ってのはウインガー・ドレイクの羽毛の色だぞ。


 ミーナのアーマーコートは、白百合色っていう少し黄色がかった白を基調としている。コートの基本デザインは全員一緒だが、肩甲や胸甲なんかで差別化を図っているんだよ。

 肩甲は騎士みたいなデザインで付けられているが、大きいは必要最小限だ。胸甲は腹部から腰部まで覆っているから見た目は完全に鎧に見える。スカートはフラムと同じウインガー・ドレイク製だが、色は白百合色に染められていて、丈は膝下だ。


「こうして見ると、完全に麗しの白騎士様よね。フィールの騎士は羨ましがってるんじゃない?」

「はい。何人かに言われました」

「でしょうね。同じ鎧なのに、大和の世界の鎧って本当にすごいわ。お父様に進言してみようかしら?」


 女性比率が高いヘリオスオーブだと、当然女性騎士も多くなる。だけど鎧は男女共用の無骨なデザインのものが多いから、改善要求は毎年のように上がってくるらしい。ミーナは騎士を辞めてハンターになってるから騎士団の鎧を着けることはもうないが、それよりも見た目が女性らしい鎧を身に着けているわけだから、元同僚や先輩方からは羨望の視線を何度も浴びていたな。


「マリーナ、確かローズマリー副団長に、裾を短くしたサーコート風の鎧を売り込んでたよな?そっちはどうなったんだ?」

「王都に問い合わせてるから、その結果次第だって。第三騎士団だけ勝手に変えると風紀が乱れるから、変更するとしたら騎士団で一斉にってことらしいよ」


 あー、王様の許可がいるのか。ってことは変更できるかどうかは微妙なとこだな。


「私もこのデザインは好きだし、こっちの方が武骨な鎧より親しみがもたれると思うから、私からもお父様にお願いしておくわ。というか私もこのコートほしいんだけど、仕立ててもらうことってできないの?」


 マナリース姫も気に入ってくれたか。それなら手紙を出してもらえるお礼に仕立てるのもいいな。


「素材ってまだ残ってるのか?」

「全部使っちゃったよ。フェザー・ドレイクならまだあるけど、どうします?」

「それでもいいわよ」


 それも悪い気がするんだよな。ああ、明後日マイライトに行くんだから、そこで狩ればいいか。


「待ってください。せっかくなので明後日ウインガー・ドレイクを狩りましょう」

「それはいいわね。元々狩りに行く予定だったんだから、マイライトに行くついでに狩れるだけ狩っておきましょう」


 プリムがすぐに賛同してくれたが、やっぱり親友にはいい装備を渡したいってことなんだろう。後は遭遇できるかどうかだが、空から探索系もフル活用して探せば時間はかからないと思う。


「いや、嬉しいことは嬉しいんだけどさ、ウインガー・ドレイクなんて気軽に狩る魔物じゃないからね?」

「マナ様、この二人に言っても無駄ですよ」


 全員がマリーナの意見に大きく頷いた。待てやこら。


「マリーナさん、ちょっといいですか?」

「ほいほい。どうしたの?」


 そのマリーナは、何故かミーナとフラムに呼ばれてしまった。なんか三人でヒソヒソ話をしているが、何を話してるんだよ?


「まあいいわよ。だけどウインガー・ドレイクが狩れなかったら、フェザー・ドレイクで作るからね?」


 それは当然だろう。せっかくだからってことで提案したが、狩れなかったら意味はないんだからな。その場合はフェザー・ドレイクになっちまうのも仕方がない。いや、意地でも探すけどな。


「そんな無茶苦茶に付き合わされる身としては、たまったもんじゃないんですけどね」

「そうだよねぇ。だけど今更じゃない?」


 失礼なことを言ってくるのは、装備を確認し終わったラウスとレベッカだった。こいつらも遠慮ってもんがなくなってきたな。いや、別にいいんだけどさ。


 ラウスは紺桔梗色こんききょういろのナックルガードがついたカットラスと呼ばれる片刃の曲刀と、同じく紺桔梗色の丸盾を装備している。カットラスは瑠璃色銀ルリイロカネそのままの色の刀身が美しいんだが、問題となるのは丸盾の方だろう。

 一見普通の丸盾に見えるが、よく見ると一部に突起のようなものが二つある。実はここには瑠璃色銀ルリイロカネの刃が仕込まれており、魔力を流すと飛び出してくる仕組みになっている。盾で攻撃することは当然あるんだが、ラウスはよりアグレッシブに攻めたいらしいので、こんな形に落ち着いたわけだ。二刀流とは少し違うが、それでも似たような使い方をするために、盾はウインガー・ドレイクの革ベルトに左手首を通してから保持する形になっている。ちなみに普通の盾は持つだけだ。


 そしてアーマーコートはミーナに次ぐ重装備になっているが、デザイン性は真逆だ。なにせ装甲板にはフェザー・ドレイクの牙や爪が随所に散りばめられていて、刺々しいデザインになっているんだからな。もちろんコートの色は紺桔梗色だ。

 なんでここでフェザー・ドレイクなのかと言うと、装甲板が魔銀ミスリルだからだ。瑠璃色銀ルリイロカネの装甲板に換装する際は、その爪と牙がウインガー・ドレイクに変わることになっているぞ。このようにふんだんにフェザー・ドレイクの牙と爪を使っているから、ラウスのアーマーコートが一番高かったりする。


 レベッカは珊瑚色さんごいろの弓を持っているんだが、その弓のアッパーリムには刀身のような物が備え付けられている。この弓もフラムの弓と同じ製法で作られてるんだが、完全に弓術特化のフラムと違い、レベッカはある程度の接近戦もこなせる。そのために鉄のナイフも持っているんだが、それでもとっさにナイフを構える余裕がないことは多い。

 だから弓に刀身を備え付けておくことで、いざというときはその弓を振るって戦おうという考えみたいだ。その場合は弦が邪魔になるが、魔力を流せば弦はアッパーリムに収納されてしまうという機能が付けられているから、普段は槍のように使うことも視野に入れることができる。工芸魔法クラフターズマジックコネクティングを調整して付与させたそうだが、このギミックの完成が一番時間がかかったらしいぞ。


 弓と同じく珊瑚色のアーマーコートは、フラムとは異なり胸甲以外は左右対称だ。胸甲はにフェザー・ドレイクの翼をあしらった意匠があるが、左側が大きく右側が小さい。肩甲は弓を構えた際に邪魔にならないよう、最小限の大きさだ。さらに矢筒は近接戦の邪魔にならないように背負うことになっている。


「デザインを見た時も思ったけど、ラウスの盾もレベッカの弓も凶悪よね」

「俺もそう思う。だけど実用的だと思うし、これはこれでありだと思うぞ」


 特にラウスの盾は、俺も悪くないと思う。マルチ・エッジがあるから盾を使うことはないが、もし使うとしたらこんな感じがいい。


「レベッカって槍は使ったことないわよね?」

「そうですね。ですからもしよろしければ、プリムさんに手ほどきしていただきたいです」

「もちろんよ」


 レベッカの弓は、簡単には考えつかないだろうからな。なにせあのゲーム、アッパーリムに竪琴がついてるのもあるんだからな。最初は何事かと思ったよ。


 ああ、せっかくの機会だから、俺とプリムのアーマーコートも紹介しておく。


 俺のアーマーコートは瑠璃紺色で、胸部から腰部までを覆う装甲板と大きめの肩甲を装備している。見た目は鎧に見えなくもないから腹部を装甲板で覆うのはやめようかと思ったんだが、トータルデザインで見るとおかしくなるから断念した経緯がある。


 そしてプリムのアーマーコートは緋色で、肩甲は翼を模したデザインになっている。胸甲は俺と異なり胸だけを覆っているが、その代わりとばかりに腰部にスカート状の装甲板を配している。スカートはミーナやレベッカと同じく、膝下丈だ。


 さらにこれは全てのアーマーコートに共通だが、俺の刻印具を使っていくつかの刻印術を刻印化させてある。その中の一つが、プリムがオークの集落で使ったフライ・ウインドだ。


 自分に使えば空を飛ぶことができるフライ・ウインドだが、そのまま使えば翼を使わなくても空を飛べてしまう。

 だから俺は考えに考えた。翼を軽く羽ばたかせたり風を受けたりすることは、腕を動かしたりするのと同じ感覚らしいから、それならということでプリムのアーマーコートだけは体と翼、それぞれにフライ・ウインドが発動するように調整することにした。

 その結果、翼を羽ばたかせることで自由自在に空を飛ぶことができるようになったわけだ。人間の体は空を飛べるようにはできてないから、体に発動させたフライ・ウインドは体を軽くするアシスト的なものに抑えてあることも、プリムが喜んでくれた一因だ。もちろん長時間飛び回ることはできず、最大でも30分が限界みたいだったが。


 他にも周囲の温度を調整できたり、消臭効果があったり、適正属性の支援系拘束術が発動できるようにしたり、護身用にスタンガンみたいな効果のある刻印術が使えるようになったり、といったとこだな。


 あ、武器の名前だけど、ミーナはシルバリオ・ソードとシルバリオ・シールド、フラムがラピスフェザー・ボウ、ラウスがラピス・カットラスとラピスエッジ・ラウンド、レベッカがスピアード・ボウだ。


 なんにしても、これでようやくメンバー全員分の装備が整ったわけだ。後は瑠璃色銀ルリイロカネの装甲板だが、これは急がなくても大丈夫だろう。もちろん早いに越したことはないが、だからといって無理をさせるつもりはない。こっちはゆっくりやっていくとしよう。

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