12・報告と新合金
Side・プリム
マイライト山脈にあるオークの集落を落としたあたし達は、その日のうちにフィールに戻ることができた。事前に場所が判明していたこと、移動に従魔や獣車が使えたことが大きかったわ。マナはホーリー・グレイブの獣車に同乗させてもらってたけど、あたしはフロライトに終わったら呼ぶって約束しちゃったし、そうなったらジェイドも呼ばないとフロライトが拗ねちゃうからね。
フィールに着いたら日は沈みかけてたけど、そんなことはあたしにはどうでもよかった。街に入るためには門番をしている騎士に、確認のためにライセンスを見せなければいけないんだけど、こういう時の門番って決まってグラムなのよね。
大和がエンシェントヒューマンに進化した時もだけど、あたしがエンシェントフォクシーに進化したこともすぐにフィール中に広まっちゃいそうだわ。
そのグラムが途中で職務を放っぽりだそうとして、上司の女騎士さんに盾で頭を殴って止められた姿を見たときはざまあ見ろって思っちゃったけどね。大和なんて、お腹抱えて笑い転げてたわよ。
そしてハンターズギルドに到着したあたし達は、すぐさま第十鑑定室に呼ばれた。人数も多いし鑑定もしなきゃいけないから、アライアンスの場合は第十鑑定室に呼ばれることになってるみたいね。当然だけどライナスさんも待ち構えていたわ。
「ご苦労だったな。報告を聞かせてくれ」
「集落にいたオークはすべて倒してきた。だけど集落の規模に比べると数が多かった。予想じゃ最大でも50匹ぐらいだと思ってたんだけど、実際に倒した数は94匹だったよ」
報告はアライアンスリーダーがすることになってるから、今回の場合だとファリスさんになる。本当は大和がリーダーになるはずだったんだけど、まだハンター登録をしてから一ヶ月も経ってないから、経験不足ってことでファリスさんが指名されたの。ファリスさんはすごく嫌がってたんだけど、他に適任もいないから渋々引き受けていたわ。
「94匹だと?予想してた数の倍もいたのか。よく集落に入り切ってたな」
「それなんだけど、オーク・プリンスは集落の長じゃなかったんだ。オーク・クイーンがいたよ」
「なんだと?ってことはこれだけ数が増えていた理由は、クイーンの異常なまでの出産が原因か?」
オークに限らず、亜人のクイーンは一日に何度も子供を産むことができる。生まれた子も一日で成体になるから、クイーンがいる場合はとんでもない速度で数が増えていく。もしかしたらプリンスは、クイーンが生んだ子がたまたま進化したのかもしれない。
「おそらくね。だからクイーンはともかく、プリンスはハンターズギルドやアミスターが探してるっていう亜王種じゃないと思う」
「だろうな。クイーンの方が標的の可能性は高いが、今回に限ってはキングじゃなかったことが問題だ」
それはあたし達の間でも、帰りの話題になったわ。
キングが孕ませた亜人のメスからは、それなりの確率で希少種が生まれると言われている。だけどクイーンのように妊娠期間が短いわけじゃなく、生まれるまで数日はかかるとされているし、一度出産をしたメスは次に妊娠できるようになるまで一月ほどかかるとも言われている。
だけどクイーンは一日に何度も子を産むことができるし、それが毎日でも大丈夫ときてるから問題だ。正確に調べたわけじゃないけど、クイーンがいる集落を討伐する際はほとんど毎回事前報告より多い数が討伐されるから、そんなに間違った推測でもないと思う。
それだけ子供を産むことができるということは偶然の確率も高くなるってことになるから、あたし達が倒したプリンス以外にもプリンス、プリンセスが生まれている可能性は否定できない。その場合は既にマイライトの中で集落を築いているはずよ。
そうなると当然、どの個体が魔化結晶で進化した個体なのかの判別できないということになる。まったくもって厄介極まりない。
「私達の間でも、帰りしなにその話がでたよ」
「そうか。まあ普段ならともかく、今回は事情が特殊すぎるからな」
特殊どころか、想定しようのない事態が発端みたいなものだからね。
「それにしても、八人で100匹近いオークの集落を落とすとはな。しかも怪我人らしい怪我人もいないみたいだし、大戦果じゃねえか」
「半数以上が新合金製の武器を使ってるから、ナイト程度なら簡単に倒せたっていうのも大きかったね。うちもできることなら、全員分の武器を更新したいぐらいだ」
それについては本当に申し訳ないのよね。だけど品評依頼中だからそれが終わらないと価格も決まらないし、作れる人がどれぐらいいるかにもよって変わってくる可能性もあるから、多分標準サイズのインゴットで一本3万エル、高ければ5万エルぐらいはするかもしれないわね。
「そんなにすごいのか。俺も一本ぐらいほしいもんだね」
「落ち着いたら手に入れられると思うよ。だけど武器もすごいけど、この子達もかなりとんでもない。なにせ半分以上は、二人で倒しちゃったんだからね」
「……またか。いや、こいつらなら不思議でもなんでもないが……。で、クイーンを倒したのはどっちだ?」
頭を押さえるライナスさんだけど、またかってどういう意味よ?それになんであたし達が単独でクイーンを倒したって決めつけてるのよ?いえ、あたしが倒したから間違ってはいないんだけどさ。
「プリムちゃんだよ。普通に一対一で倒していた。ちなみに大和君は、砦もろともプリンスや中にいたオークを纏めて倒したよ」
「……昨日の調査依頼、殴り込みを禁止せずに突っ込ませてもよかったかもしれねえな」
「それでも問題なかったと思うよ。エンシェントクラス同士でレイドを組んでるし、ヒポグリフもいるんだから、下手なアライアンスよりよっぽど戦力になるだろうしね」
「そうか。なら今後の参考にさせてもらおう」
待ちなさいよ。せっかくエンシェントフォクシーに進化したのに、さらっと流さないでよ。騒がれるのもイヤだけど、それはそれで納得いかないわよ?
「驚いてないね。いや、いずれ進化することは確定してたようなものだから、覚悟はできてたってことかい?」
「覚悟もなにも、こいつらがフィールに来てから何をやらかしたと思ってんだ?いちいち驚いてたら身がもたねえ。だからこいつらが何をやっても、大抵のことは受け流せる自信がある」
エンシェントクラスへの進化って、大抵のことに含んでいい問題じゃないわよ?自分で言うのもなんだけど、ギャザリングさん、大和に次ぐ三人目のエンシェントクラスなんだからね?
「ああ、そういう考えをしておけば、確かに色々と楽になりそうだね」
ファリスさんも納得して、ホーリー・グレイブのみんなもすごく大きく首を縦に振ってるけど、こっちは納得できないわよ。
「ああ。そっちも何か考えといた方がいいぞ。じゃあ鑑定に移るが、事前に通達した通り買取額は普段に二割増しだ。だがさすがに数が多すぎるから時間がかかる。支払いは明日の昼になると思うが構わないか?」
「私は構わない。みんなは?」
みんな一斉に頷いたから、異議はないってことね。もちろんあたしも大丈夫よ。
「悪いな。だが報酬は渡せるから、先に受け取ってくれ。ああ、クリフは昇格の手続きもしなきゃだから、後で受付にもよってくれよ?」
「わかってますよ」
じつはクリフさん、レベル51になっっていたのよ。だからGランクに昇格することになるわ。昇格するのはクリフさんだけだけど、レベルは全員上がってるわよ。
とは言っても、依頼を受けた時にはまだSランクだったから、クリフさんの報酬はSランクの物になるのよね。
アライアンスに参加したハンターへの報酬は、ランクごとに決められていて、後は緊急度に応じて加算されていく。Sランクが10万エル、Gランクが20万エル、Pランクが30万エルだけど、今回は参加者が少なく、フィールからも数時間しか離れていなかったことが考慮されて、規定された報酬の5割増しになっているわ。
さらに相場の二割増しの買取額が加わるから、あたし達の懐には大金が入ってくることになるわね。
これで家を買うことも視野に入れられるようになったから、今度探してみようかしら。
Side・大和
「それじゃあ出してくれ。ああ、クイーンとプリンスはあっちに頼む」
ライナスのおっさんに促されてオークを出していく。ストレージングはハイクラスなら大抵の人が使えるから、マナリース姫以外のみんなは倒したオークをそれぞれのストレージに収納していたんだ。マナリース姫はハイクラスになったばかりだから、今は使えるように頑張って練習しているところだな。
「予想通りだが、けっこう損傷が激しいな。これだけの数を相手にしたんだから、そこまで気を遣えってのも無理な話だが」
それでも俺達やファリスさん、クリフさんは瑠璃色銀、青鈍色鉄の武器を使っているから、損傷度は低い。だけどバークスさん、アリアさん、クラリスさんは魔銀の武器を使っているせいもあってか、かなり損傷度が高い。それでもアライアンスで使用した武器としてはマシな方みたいだが。
「まあね。それにこの依頼で三人は武器がダメになってるだろうから、急いで買い替えないといけない。今日はゆっくりするつもりだから、明日買いにいくよ」
「ああ、魔力強化を調整する余裕はなかっただろうからな。ってことは青鈍色鉄の武器は大丈夫だったってことか?」
「驚いたことにね。あれだけの戦闘をこなせば武器が折れてもおかしくはないのに、魔力疲労は感じられない。手入れの際も流れが乱れたりとか、そういったことは感じなかったね」
金剛鋼が不足してるから、青鈍色鉄が作れなくなってるんだよな。王都から仕入れる予定だって聞いてるけど、それがいつになるかはわからない。だからバークスさん、アリアさん、クラリスさんは魔銀の武器を買い替える必要がでてきている。帰りの獣車の中で手入れをしてた時に、魔力疲労で魔力が流れにくくなったって言ってたからな。だから今度は、晶銀も配した武器を探すって言ってたぞ。
……あ。俺の目的は瑠璃色銀で、青鈍色鉄はダミーとして使うことにしたけど、よくよく考えたら合金ってその二つを作るためだけのものじゃないんだった。いずれは他の合金も試そうと思ってたんだった。
それならアミスターが産地の魔銀と晶銀の合金も試してみるべきじゃないか。魔銀をベースに、半分ぐらいの晶銀を加えてみるといいかもしれないな。
「だが武器を新調するのはちょっと待った方がいいぞ。ホーリー・グレイブのアリア、クラリス、バークスに指名依頼が入ってる。依頼者はクラフターズギルドで、内容は武器の品評だ。なんでも魔銀と晶銀の合金を作ったとかで、そいつの品評を頼みたいらしい」
そう思ってたら既にできてただと?いったい誰が……ってエドだよな、多分。
「マジでか!?」
「これは嬉しいわね。もちろん受けるわよ」
「やったわね。それでどこに行けばいいんですか?」
「アルベルト工房へ行ってくれ。武器のデザインから決めるって聞いてるから、仕上がるまで何日かかかるだろうが、それでもよければと聞いている」
やっぱりエドか。それにしても、いつの間に魔銀と晶銀の合金なんて作ってたんだろうな。
「オーダーメイド武器の品評か。これは嬉しいわ。ずっとファリスさんの斧が羨ましかったのよ」
「わかるわ。クリフさんの品評が終わったら青鈍色鉄でオーダーしようと思ってたものね」
「今回の報酬が全部消えることも覚悟してたから、試作でもありがたいよな」
アリアさん、クラリスさん、バークスさんが小躍りしてるな。そういや名前はどうしたんだろ?
「おっさん、その金属、なんて名前なんだ?」
「翡翠色銀ってつけたらしい。こいつもお前の世界の伝説の金属にあやかったらしい」
翡翠色銀か。魔銀も晶銀も銀の一種だから、翡翠色の銀ってことなんだろうな。安直な気もするが、そもそも瑠璃色銀だってそうだし、青鈍色鉄も似たような命名なんだから、俺に人のことは言えないか。ちなみに翡翠色銀は魔力強度7、硬度7、魔力伝達率8と、魔銀より一回り上の性能になっていて、重さもそんなに変わらないそうだ。
俺も興味あるから、アルベルト工房に行ったんだが、そこでアリアさんは小さな斧刃がついたスピアを、クラリスさんは身を隠すことができる盾のついた弓を、バークスさんは鎖の巻かれた手甲を選らんだ。もちろん俺の刻印具にあったゲームの武器のデザインだ。品評依頼ってこともあるから納期は今日を除いて二日らしい。アライアンスでの依頼が終わったばかりだし、武器の消耗がけっこう激しかったから、三人は武器ができるまでは休暇に充てることにしたようだ。
俺も明日は一日休んで、明後日からまた頑張るとするかな。




